第3話 大ピンチ!? 危うし、アーススリー!

 ヒアサシティから離れた距離にある街、そこはほんの数十分前までは普通の民家が建ち並ぶ平和な街だった。

 しかし、その平和はいま現在ウルヴァイ帝国の怪人によって破壊されようとしていた。


『ハーッハッハ、壊れろ壊れろぉ!!』

『『『『ウルヴァッド、ウルヴァッド! ウルヴァッド、ウルヴァッド!』』』』


 現れたウルヴァッド帝国の銃器とカエルを混ぜ合わせたような怪人が高笑いをする中で、隊列を崩さずに歩くウルヴァッド兵。

 ウルヴァッド兵がある程度の距離を歩くと、背中に背負っていた銃を構えると周囲に向けて一斉に撃ち放つ。

 直後、炸裂音とともに周囲に建てられていた家々は爆散。


「きゃああああああ!!」

「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「た、助けてくれぇぇぇぇっ!」

『その恐怖が、その悲鳴が我らの力となる! そら、人間たちよ。逃げろ逃げろぉ!!』

『『『ウルヴァッド、ウルヴァッド!』』』

「「う――うわぁぁぁぁーーっ!!」」


 逃げ惑う街の人々を見ながら怪人は嗤い、ウルヴァッド兵が人々に襲い掛かるように手を伸ばす。

 それに恐怖しながら、人々は必死に逃げる。けれど、足が遅い老人や周囲に突き飛ばされた者たちが追い付かれてしまう。

 顔なんて感じられないツルッとした顔のウルヴァッド兵の手が逃げ遅れた人々へと伸びていく。

 救いは無いのか。そんな想いをいだきながらギュッと目を閉じた瞬間、銃声が鳴り響き――続いて、ウルヴァッド兵たちの悲鳴が上がる。


『『『ウルヴァーーッド!?』』』

『なんだとッ!? 誰だ我らの邪魔をするやつはぁ!?』


 倒れたウルヴァッド兵たちを見て、怪人は驚きと怒りの声をあげながら周囲を見渡す。

 そこに彼らにとっての敵であり、人々の希望の声が上がる。


『『『そこまでだ! ウルヴァッド帝国!!』』』

『っ! この声はっ!! ええい、何処だ。何処に居るっ!? 探せ探せっ!!』

『『ウルヴァッド、ウルヴァッド!!』』

『『『ここだっ! とおーーっ!!』』』


 怪人たちの脳内にインプットされている音声に一致する声。それで誰かを理解し、ウルヴァッド兵に指示を出して周囲を見渡す。

 それよりも先に彼らは自分たちの居場所を告げて、怪人たちが暴れている場所へと飛び立ち……着地。

 現れた三色のスーツを纏うヒーロー。それに逃げ戸惑っていた人々は歓喜し、怪人は忌々し表情を浮かべる。


「「「アーススリー!!」」」

『アーススリーっ! 現れたなっ!!』


 地面に降り立ったヒーローの名前を彼らは一斉に呼び、それを呼び水とするように三人はポーズを取り、口上を述べる。


『赤は地球の地熱の火! レッドアース!!』

『青は地球の大海の水! ブルーアース!!』

『黄は地球の大地の土! イエローアース!!』

『『『地球戦士――アーススリー!!』』』


 ひとりひとりポーズを取り、最後に三人のポーズが合わさった瞬間――彼らの背後に地球の幻覚が浮かび上がる。

 それを見た瞬間、人々は助かるという希望を感じた。


『ええい、忌々しい! 行け、ウルヴァッド兵!!』

『『『『ウルヴァッド、ウルヴァッド!!』』』』

『行くぜ、ブルー、イエロー!!』

『オッケー!』『わかった!!』


 ウルヴァッド兵が一斉にアーススリーへと襲い掛かると同時に、アーススリーたちもそちらに向かって駆けていく。

 そして、ウルヴァッド兵がレッドアースへと拳を振るうのに対して、レッドアースは跳び蹴りを放つ。


『でりゃあっ!!』

『ウルヴァーッド!?』


 また一方では銃を構えブルーアースを狙おうとするウルヴァッド兵が居た。

 しかし、ブルーアースはハンドガン型の武器を取り出すと自分を狙っていたウルヴァッド兵へと向けて引き金を引く。

 するとビュビュンとビームが放たれ、ウルヴァッド兵を撃ち抜く。


『アースショット!』

『ウルヴァ!?』


 そこから離れた位置では大量のウルヴァッド兵がイエローアースを追いかけている。

 対してイエローアースは応戦することなく一目散に逃げていた。


『ちょっと~、何でこっちにいっぱい来るのよ~!?』

『『ウルヴァッド、ウルヴァッド!』』

『はっ! もしかして、あたしの体目当て!?』

『『ウルヴァ~ッド』』

『んだとゴルァ!』


 まるで何言ってるんだこいつ?といった感じに手を横に振るウルヴァッド兵。

 胸のあたりでクロスさせながら言っていたイエローアースであったが、すぐに怒りの声をあげながら手前にいたウルヴァッド兵にヤクザキック!

 吹き飛ばされたウルヴァッド兵は後続のウルヴァッド兵を巻きこみ吹っ飛ぶ。

 そこにイエローアースはバズーカ型の武器を取り出す。


『グランドバズーカ!! ミサイルシュ~ット!!』

『『『ウルヴァ~ッド!!?』』』


 放たれた地球型の砲弾により、ウルヴァッド兵たちは見事に吹き飛んでいく。

 そんな乱戦が続く中に怪人も混ざり、レッドアースと戦いはじめる。


『我こそはウルヴァッド帝国の怪人、ガントードヴァッド! 死ねぇ、レッドアース!!』

『うぉっと、危ねーな!! お返しだ、アースショット!!』

『当たるか! 銃の腕は我に勝てる怪人は居ない!!』


 放たれた弾丸を転がりながら除けると同時にレッドアースはハンドガン型の武器を構え、転がったままの体勢で撃つ。

 しかし、放たれたビームはガントードヴァッドが撃つ弾丸によって当たることなく霧散。

 そのことに内心舌を打ちながら、レッドアースは固有武器を取り出す。


『だったら接近戦で! マグマナックル!!』

『ムダだムダだ! 近づかなければ当たることはな――ぐはっ!?』

『だったら当たるようにするまでですよ。ウェーブランス!!』


 ぐつぐつ煮えたぎるマグマのように燃えるグローブタイプの武器を両手に装着し、殴りつけようとするレッドアースであるがガントードヴァッドはその攻撃を回避していく。

 だが、レッドアースの攻撃を避けていたガントードヴァッドの足が急に動きを止めてしまい、その攻撃が直撃し……大きく仰け反った。

 その理由はすこし離れた位置からブルーアースが固有武器であるウェーブランスを地面に突きさし、水の拘束を行っていたからだった。


『グゥゥゥ……、よ、よくもぉ!! 許さん!!』

『これ以上、お前に構っているつもりはねぇ! 行くぜ、ブルー、イエロー!!』

『オッケ~!』『わかっています!』


 ヨロヨロと立ち上がろうとするガントードヴァッドであったが、これ以上の攻撃は許さないというようにアーススリーはそれぞれの固有武器を重ねる。

 すると固有武器は巨大な銃器のように合体し、ガントードヴァッドへと照準を合わせる。

 照準が合わさったガントードヴァッドはどういうわけか動けなくなってしまい、必死に体を動かそうとするも無理であった。


『アースキャノン! ターゲットロック!!』

『ヌ、ヌグゥゥゥゥ! 動けん!』

『『『ファイアーーッ!!』』』


 トリガーが引かれた瞬間、拘束されたガントードヴァッドへと特大の地球エネルギーが放たれ、命中。

 その一撃を受け、ガントードヴァッドの体は傷つき、その場に倒れる。


『『『地球の痛みを、思い知れッッ!!』』』

『ウガアアァァァァァァァァーーーーッ!!』


 アーススリーの決めポーズと決め台詞が上がった瞬間、ガントードヴァッドは大きく爆発した。

 その様子を遠くから見ていた街の人たちは歓喜の声をあげる。

 しかし、すぐに怯えることとなる。何故なら、倒れた怪人のもとへと空間を超えて新たな存在が現れたからだ。


『まったく、先急ぎをして……。けどチャンスをあげましょう。皇帝陛下からの慈悲です。受け取りなさい』

『グオオオオオオオッ!! 力が、力が溢れてくるぅぅぅぅぅぅぅ!!』


 ウルヴァッド帝国の軍服に身を包んだ紫色の長い髪を纏めたきつめの目元をした女性、彼女はウルヴァッド帝国を支配する皇帝カイザーウルヴァッドの腹心であるサーヴァント従者と名乗る人物だった。

 アーススリーがウルヴァッド帝国の怪人を倒すと同時に空間を超えて現れ、怪人へと力を与えるのが彼女の役割らしい。

 そして力を与えられた怪人は復活すると同時に……巨大化する。


『ウ~ルヴァ~~ッド!!』

『巨大化しない日ってのは無いのかよ! 来い、マグマアース!!』

『そんな苦情は敵に言ってください! カモン、シーアース!!』

『本当、巨大化しか能がないのかって言いたくなるよ~! 来て、ガイアアース!!』


 巨大化したガントードヴァッドの全長は40メートルを超えており、腰を屈めて地上にいるアーススリーを見下ろす。

 そんな怪人に文句を言いながら、三人はそれぞれブレスレットに叫ぶ。

 するととある火山のマグマの中から真っ赤に放熱するトリ型のマシンが出てきて、とある海溝をゆっくりと泳ぐサメ型のマシンが地上へと上がっていき、とある平原をトラ型のマシンが草原を砂漠を駆け抜けていく。

 このマシンはアーススリーのために用意されたマシンであり、呼び出しに応じて巨大化したウルヴァッド帝国の怪人が居る場所へと向かっていた。

 そして1分もしない内にマシンは到着し、アーススリーはそれぞれのマシンに飛び乗る。


『行くぜ! マグマアース、マグマバレット!!』

『行きますよ! シーアース、ウォーターカッター!!』

『行っくよ~! ガイアアース、ガイアスラッシュ!!』


 暗い背景の中、アーススリーはそれぞれ80センチほどのサイズの地球儀が乗った台座という操作システムの前に立つ。

 彼らの背後にはそれぞれを象徴する幕が掛けられており、地球儀を動かして巨大化したガントードヴァッドと戦っていた。

 トリ型マシンのマグマアースが羽ばたきとともにマグマの礫を放ち、地上スレスレをサメ型マシンのシーアースが泳ぎながら口から高圧の水を撃ち、トラ型マシンのガイアアースが飛びかかり鋭い爪で切り裂いていく。

 しかし3体のマシンと巨大化した怪人のサイズは差がありすぎるために、決定打と呼べるような一撃はない。


『死ねぇ! ウルヴァ~ッド!!』

『『『うわぁっ!!』』』


 逆にガントードヴァッドの銃攻撃によって、3体はダメージを受けて中が揺れる。


『くそっ、ブルー、イエロー! 行けるか?』

『当たり前だ!』『もっちろん!!』

『だったら行くぜ! ――地球、合体!!』

『『地球合体!!』』


 レッドアースの掛け声とともに三人は地球儀を回転させる。

 すると回転を始めた地球儀が段々と光を放ち始め、同時に3体のマシンの目がカッと輝く。

 直後、3体のマシンは怪人から距離をとって縦一列に並ぶ。すると地上から光が立ち上り、怪人の攻撃を防ぐバリアーとなった。

 はじめに、地上にいたトラ型マシンであるガイアアースが遠吠えとともに高くジャンプすると、首から下がガコンと横から縦へと形を変える。

 そして胴体部が下へと下がると左右へと分離し、胴体部とともに下りなかった前脚が前に半回転を行い開いた空間を埋めるとまるで人の下半身のようになった。

 そこへサメ型マシンの咆哮をあげるように荒振りシーアースがゆっくりと下りていくが、サメの胴体が左右へと開きまるで腕のようになると尾びれ部分となっていた箇所がグルリと前方向に回転してガイアアースのトラの顔を隠すような形で下半身とドッキング。

 これで見た目は頭部のない人の胴体のようになった。

 最後にトリ型マシンのマグマアースが首を震わせながら鳴くと、自身の翼を折り畳み胴体を丸めるように変形させながら2体がドッキングした頭部へと降りていき……ドッキングし、最後に折り畳んでいた翼を軽く広げた。

 すると、マグマアースが軽く翼を広げて何もなかった胴体部分がクルリと中で回転を行うと顔が現れた。

 そして顔が現れると同時に顔の前に配置していて邪魔になっていたシーアースの尾びれ部分が両側に分かれ、Vのように広がるとその中心に地球のエンブレムが盛り上がった。

 最後にはポーズを決め、アーススリーの声が響く。


『『『完成! チキュウオー!!』』』


 完成したアーススリーの合体ロボ。

 それはまるで赤い兜を被り、青い甲冑を纏い、黄色い佩楯と脛当てを身に着けた武士といった見た目であり、巨大化したウルヴァッド帝国の怪人と同サイズの大きさをしていた。


『ロボに乗ったからといって、勝てるとも限らんぞぉ! 死ねぇ!!』

『負けるとも限らないけどなぁ!』

『ですね! はあっ!!』

『早く終わって、戻らないといけないからね~!!』


 ガントードヴァッドが銃をぶっ放すとチキュウオーは横へと避け、街や家々を壊さないように心掛けながら敵目がけて駆けていく。

 チキュウオーの中では暗い中でアーススリーの三人が立ち台の上に立っており、その前に置かれた巨大な地球儀を同じように動かしているがそれは普通のことだった。

 決して、地球儀を動かしているだけでどうやって動いているのかとか聞かないように。

 そしてガントードヴァッドへと近づいたチキュウオーはパンチをお見舞いすると、その高威力が分かるかのようにガントードヴァッドの体はぐらりと揺れる。


『ぐううっ! だがこのブヨブヨしたボディにパンチは効かんぞ!!』

『ならこれはどうだ! チキュウソード!』


 ブヨブヨとしたカエル特有のボディの特徴を不敵に笑いながら見せつけながらガントードヴァッドは笑みを浮かべる。

 それに対してチキュウオーは胸元に手を当て、V字のマークを外す。するとそれは1本の剣に変化し、チキュウオーの手に握られた。

 剣を持ったチキュウオー、銃を向けるガントードヴァッド。2体の巨体がジリジリと間合いを取り合い、交錯する。

 きっと互いが動いた瞬間に勝負が決まるというのが分かっているとでもいうようだった。

 だが、ガントードヴァッドは浅はかな考えを持っていた。


『お前は剣、こっちは銃。だったら銃のほうが勝つのが当たり前だ! 死ねぇ、アーススリー!!』

『『『――――はあっ!!』』』

『な、なんだとぉぉぉぉっ!?』


 いやらしい笑みを浮かべながらガントードヴァッドは銃を撃ち出す。しかし、撃ち出された弾丸をチキュウオーは剣で弾くと同時に一気に間を詰めた。

 そして、剣が届く範囲に辿り着くと必殺の一撃を放つ。


『『『チキュウオー! 地球斬り!!』』』


 振り上げられた剣がグルリと時計の針のようにその場で一回転まわるとチキュウオーの背後に幻の地球が浮かび上がり、再び同じ位置へと戻った剣が斜めから下へと一気にガントードヴァッドへと振り下ろされる。

 直後、重たい剣の一閃を受けたと同時にチキュウオーの背後に浮かび上がっていた幻の地球がガントードヴァッドを突き抜けていく。

 この時点でガントードヴァッドは最後を迎えることとなった。


『グ、グオオオオオッ!? ウ、ウルヴァッド帝国に栄光あれぇぇぇぇぇっ!!』

『『『地球の平和はアーススリーが護るっ!!』』』


 常套句とでもいうべきセリフを叫びながら、ウルヴァッド帝国の怪人は倒れて何時ものように爆発――――するはずだった。

 だが爆発が行われようとした瞬間、世界の時が止まった。


『ッ!? 何だ? 様子がおかしい?』

『これはいったい? 人が居ない?』

『何かこれおかしいよ! 通信もできない!!』


 突如モノクロのような世界となった状態にチキュウオーの中にいるアーススリーの三人は戸惑いの声をあげる。

 いや、戸惑わないのがおかしいだろう。何故なら、モノクロのような世界では人の気配がなく、瓦礫も崩れようとしているところで止まっている。

 まるで世界からこの空間が切り取られたかのようであった。


 ――――パチ、パチ、パチ。


 そんな中、突如どこからか軽い拍手とも呼べないようなやる気の無さそうに手を合わせる音が響く。

 本当であれば聞こえないはずの音、なのにどういうわけか周囲に響き渡るほどに聞こえていた。


『これは……拍手か? いや、違う?』

『いったい、この音の発生源はどこから……』

『あ、見て! あそこ!! あそこにいるっ!』


 イエローアースの指差しで二人がそちらに視線を移すと、そこには道化師と呼べそうな恰好をした人物がいた。

 男なのか女なのか、着ている服装が着ぶくれを起こしているために分からない。

 外見からわかるのは髪が左右不揃いに切られ所々赤黄青緑金銀など様々な色に染められており、顔には白黒の仮面……片方は泣き顔でもう片方は笑い顔けれど口元は憤怒と無といった喜怒哀楽が表されたようなものが付けられている。

 そんなよく分からない人物が、倒されたウルヴァッド帝国の怪人の近くに……


『いやはや、イヤハヤ、面白いデスネ~。コノ世界に繋がる道が見つかったタメどのような世界だと思い向かったラ、このようなオモシロイ世界ですカ~』

『誰だお前は!』

『ダレダオマエハ! あははははははっ、ヤハリ正義のヒーローやヒロインというものは名を名乗れと言うのがアタリマエみたいですネ~?』


 所々ノイズがかかったような声、それは浮いている道化師が放った声なのだろうが……聴いていると不快感が感じられるものであった。

 いや、それ以前に目の前の人物はいったい誰なのだろうか。


『オット、おっと! 怒っていらっしゃいマスカ? いやぁ、正義のヒーローたちを怒らせるのは悪としてのイキガイですからね!』

『悪……だと? お前もウルヴァッド帝国の仲間か!!』

『ほお、この世界の悪はウルヴァッド帝国という名前デスカ! ありがとうございます。近いうちにコンタクトを取ってみましょうカネェ』

『その言いかただと、ウルヴァッド帝国の人間じゃない?』

『あたしもそう聞こえるけど……新しい敵が現れたわけ?!』


 ケラケラカラカラと嗤いながら、道化師は口を開く。

 その会話でアーススリーたちはいくつかの情報を得たが、やはり目の前にいるのは得体の知れない存在だということしかわからない。

 だが、彼らはすぐにそんなことを考える余裕もなくなってしまうのだった。


『敵? いやぁ、違いますチガイマス。だって、敵というのは戦うことが出来る相手だからテキと言うじゃないですカ。ですが、あなたたちは手も足も出ずに倒されるンデスヨ!

 サァ、ショーの始まりデス! アナタの心の闇で世界を塗り潰しナサイ!!』


 まるでショーの開幕とでもいうように道化師は両手を広げると、何時の間にか手に持っていた黒色のジャグリングで使用するようなボールを今まさに爆発しようとしていたガントードヴァッドへと投げつけた。

 投げつけられた黒色のボールはズブズブとガントードヴァッドの中へと沈んでいき、それを包むようにして黒い液体が内側から溢れ出した!


『な、なんだ!? ガントードヴァッドから黒い液体が溢れ出した!?』

『なんですかあれは!? この世界に存在しない液体……!?』

『嫌な予感がする! 一気に攻撃をしようよ!!』

『わ、わかった! 行くぞみんな!!』


 ガントードヴァッドを呑みこむように溢れ出してくる黒い液体。それに強烈な恐怖を感じ、アーススリー全員が戸惑いを見せたがイエローアースの言葉にハッとして三人で揃って巨大な地球儀を回しはじめる。

 そして先ほどガントードヴァッドを倒したチキュウオーの必殺が放たれる!


『『『チキュウオー! 地球斬り!!』』』

『ウル――サイナー!』

『っ!? チキュウソードが!?』

『そんな! チキュウソードが折れるなんて!!』

『ていうかアレなに!? ウル、サイナー? うるさいなー?!』


 振り下ろされた剣。しかし、それよりも先に黒い液体が固まり……デフォルメチックな手が振り下ろされた剣に伸びるとそれを掴み、もう一本伸びてきた手で根元を掴むとクイッと簡単にへし折った。

 突然のことで戸惑いを見せるアーススリーとは裏腹に誕生した黒いソレをみながら、道化師は嗤う。


『ホウ、ほうほう! 元々はヤルキナイナーだったというのに、ウルヴァッド帝国という因子? いや、この世界の力によってヤルキナイナーがウルサイナーと変化しましたか! いやぁ、面白い実にオモシロイ! さあ、ヤル……いや、ウルサイナー! ショーを始めましょう! 演目は、正義のヒーローの最後デス!!』

『ウルサイナー!』


 道化師が高らかと宣言した瞬間、ウルサイナーは雄叫びを上げながらチキュウオーを殴りつける。

 チキュウオーとの身長差は半分にも満たない10メートルほどのサイズだというのに、ウルサイナーの一撃を受けたチキュウオーはぐらりと揺れた。

 当然、中にいるアーススリーの三人も強い衝撃を受けていた。


『『『うわぁぁぁぁっ!?』』』

『ウルサイナー!!』


 そこにさらにもう一撃チキュウオーの胴体へとパンチが当てられる。結果、チキュウオーの巨体はズズンと倒れた。

 直後、与えられたダメージが予想以上に大きかったために、チキュウオーの合体が解除されてしまい……それぞれのマシンが散らばってしまい、アーススリーたちは地上へと投げ出された。


『ぐ……、くそ……っ!』

『チ、チキュウオーが……!』

『なんなの、あのパワー……。普通じゃない……』

『おやオヤ? 呆気ない幕切れデスネェ? 実に残念です。さあ、ウルサイナー! ヒーローたちの最後を見せてクダサイ!!』

『ウルサイナーーッ!!』


 ズシン、ズシンと近づいてくるウルサイナー。

 対してアーススリーは受けたダメージが大きすぎたからか、体が動けずにいた。

 そこにウルサイナーが両腕を振り上げ、一気に振り下ろそうと力を込めはじめる。


 危うしアーススリー! このまま彼らの戦いは幕切れとなってしまうのか!?

 世界はウルヴァッド帝国のものとなってしまうのか!?


『さ~~せ~~ま~~せ~~ん~~~~っ!!』

『ウルサイナーーッ!?』

『『『っっ!?』』』


 どこからともなく声が響いた。

 そしてキラリと遠くから何かが光ると、一瞬でそれは近づき――ウルサイナーを蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされたウルサイナーはそこそこの距離を吹き飛ばされ、地面に倒れる。

 同時にウルサイナーを蹴った存在が地上へと降り立つ。


「そ、そこまでですっ! 心の闇を利用することは……えと、こ……この癒霊少女ヒールスカイが、ゆ……許しません!!」

『ハ……? ゆ、れい……少女? ユレイ、ショウジョ……癒霊少女、だと!? 何故、ナゼこの世界に、お前がい――――ち、ち……』

『たすかったのか――は?』

『いったい、なにが……え?』

『う、うぇっ!?』


 その場に居た全員が言葉を失った。

 ウルサイナーを蹴り飛ばし、アーススリーを助けた人物。それは17,8歳ほどの見た目をした女性だった。

 まるで青空を連想させるような、薄く明るい青色をした腰下まである長くフワフワとした印象が強い髪。そこに幾つかアクセサリが付けられている。

 夕焼け空と夜空を連想させるような茜色と藍色の色違いの瞳はパッチリと開き、敵であるウルサイナーから視線を逸らさない。

 顔立ちは美少女だと思う……のだが、どういうわけか頭に彼女の顔を記憶させることが出来ない。

 そして体つきはボンキュボンといった表現が似合うほどの、巨乳グラビアモデルレベルの体型をしていた。

 そんな彼女はウルサイナーから視線を逸らさないけれども、恥辱に顔を真っ赤にさせながらプルプルと震えていた。

 直後、アーススリーの三人と道化師の格好をしていた敵は同時に口を開いた。


『『『『ち、痴女だーーーーっ!!』』』』

「ち、違いますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


 しかし、痴女と言われるのも仕方ないだろう。

 何故なら、癒霊少女ヒールスカイと名乗ったこの少女の格好は……7歳児ならば許せることが出来るような魔法少女をイメージするような青を基調としたコスチュームだった。

 何度も言うが、7歳児がタイプのコスチュームだ。


 つまりはどうやって着たのかは分からないけれど、7歳児が着るコスチュームを17歳ほどの巨乳グラビアアイドルのような体型の少女が着ているため……色んな意味でパッツンパッツンでムッチムチになってしまっていた。

 当然、本来ならば見えないはずのパンツも見えてしまっている上に喰い込んでいるし、おっぱいで押し上げられた上着から下乳と呼ぶべきものも見えていた。

 本人は痴女ではないと叫んでいるけれども、その見た目は痴女以外の何物でもなかった……。


「だから痴女じゃないんですってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 動けるものが少ない空間に、突如現れた癒霊少女ヒールスカイの涙声が木霊した。

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