第2話 幼馴染はスーパーヒーロー(後編)
高校に到着して、ひとつ年下のハナは1年の教室へと向かうために別れ、ソラ・リク・カイの三人で2年の教室がある2階校舎を歩く。
そんな彼ら……というよりも、リクとカイに視線が集中する。
当りまえだ。何しろリクもカイも中身はともかく見た目はイケメンなのだから。
リクは短めに切られた髪と体育会系全開といったワイルドな見た目をしており、さらには男女分け隔てなく話しかけるコミュニケーション力の高さがあって男性女性に大きく好かれている。
しかしそんな彼にも致命的な欠点があった。それは自分が行為を抱いている人物に対して以外は鈍感というものだ。
あるとき、彼は女子の手作りクッキーという好きですアピール全開の代物を渡されたことがあった。
だが彼はそんな女子の好意に気づくことなく、持ち帰ったそれを夜ごはんの後に家族……しかもソラも居る前で広げて「今日これを貰ったんだ! みんなで食おうぜ!!」と平然と言ってのけた。それを聞いたハナは大きく頭を抱えることとなり、出されたクッキーをポリポリ食べるカイを見て更に頭を抱えることとなった。
ちなみに純粋なソラだけれど、自分が食べたらダメな気がすると思って手はつけなかった。
さらに言うなら、ソラが作ったお菓子はカイやハナであってもわけることは良しとしなかったりもしていて「仲良く食べてください!」と怒られたりしていた。
一方でカイは少し長めの髪をキチッと整えてメガネをかけた頭がよさそうな見た目をして、事実頭がよく……全国模試で上位をキープするほどの頭脳の持ち主だ。
しかしやっぱり彼にも欠点はある。それは自分が興味を抱いている相手以外には素気が無さすぎるというものだ。
あるとき、図書室で勉強をしていた彼へと勉強を教えてもらってあわよくば話を……と思っていた女子が居たのだが、何度も近づいて話す彼女の存在は初めから視界に入っていないとでもいうように気にすることはなかった。
当然無視された女子は腹が立ち、半ば無理矢理にでも話をと肩を掴んだのだが……その手はパシッと払い除けられ、一度だけゴミを見るような視線を向けられた。
そしてひと言「騒音、やめてくれるかな?」と告げて、完全に視界からシャットアウトした。結果、言われた女子は泣きながら図書室を去っていき、カイの撃ち落とした女子がまたひとり増えた。
そんなことがあったのにも気づかない中、ソラが図書室に入ってきてカイに気づき勉強を教えてほしいと声をかけると……先ほどの女子と違って普通に受け答えしていた。
それを見て、図書室に居た周りの生徒たちは何とも言えない表情を浮かべていた。
そんな二人にはさまれるように歩くソラは何となく居心地の悪さを感じながら歩く。
……のだが、実のところリクとカイにはさまれるようにして歩く彼女にも視線は向けられていた。
当りまえだ。何故なら彼女は自身は知らないだろうが……色々な意味で有名人なのだから。
ミルクティー色の長い髪に誰がどう見ても美少女と言える顔立ちをしているというのが目を引く原因となるだろうが、それだけではない。
大きな原因となる理由は三つある。
校内で一、二を争うイケメン兄弟である地球リクと地球カイのハートを無自覚ながらも見事に鷲掴みにしてしまっているというのが理由のひとつめ。
次にどんな相手に対しても優しく丁寧に話しかける優しさ、悪いことは相手が誰であろうと悪いという正義感、何よりコロコロと表情を変える子供っぽい印象が可愛らしいというのが理由のふたつめ。
そして最後の理由に下世話ながらも彼女を現す最大の特徴がある。
それはある時から急激に成長していき、最近では歩くたびに自然とゆっさゆっさ揺れ、物を持つ際にはギュウと潰れるほどの……校内一のたわわなマスクマロンを二玉持っているのことだった。
なので今まさに、リクとカイの間に立って居心地悪そうにしながら……両手で持ったカバンを前に移動した結果、胸のサイズが強調されるポーズとなっている彼女へと視線がさらに集まってしまっていたがソラ本人は気づかない。
そんなよこしまな視線に気づいたリクとカイがチラッと真ん中を見ると、ハッとしてすぐに行動に移る。
「あ、あの? リクくん、カイくん? どうしてわたしの前を塞ぐんですか!? ま、前に進めません……!」
「あー、すまん。ちょっと向こうに虫が居たからさ……」
「そうです。ちょっとウロチョロする虫が居たので、ソラくんを護ろうかと思いまして……」
「虫ですか? まだ夏じゃないのに蚊が出たのですか? それともハチですか?」
「「ああ、うん……ハエ、だね(だな)」」
ソラの胸へと向けられる視線遮るためにリクとカイが彼女を隠すように前に立つと、進路妨害をされたと感じたソラはプンプンと頬を膨らませる。
ただし本当に怒っているとか邪魔とか思っているわけではないのだが、その様子はぶりっ子などではない本当の可愛らしさがあった。
そんな彼女に彼らは誤魔化しをすると、どう考えたのかソラは変な方向に会話のボールはぶっ飛ばした。
微妙な表情を浮かべながら返事をするリクとカイであるが、ソラによこしまな視線を向けられるのを防いだことにホッとしていた。
(ったく、こいつはいい加減に男子高校生のスケベっぷりに気づけっての……! てか、なんか今日は何時もより揺れていないか??)
(朝のハナとの会話から、ソラくんの胸はまた大きくなったのですか……。そんな彼女の下着はいったいどんな……って何を考えているんだ僕は!!)
「? どうしました、二人とも? ――って、教室過ぎちゃいますよ!?」
「「あ、ああ……」」
(やっぱりボーッとしてます。……昨日の戦い、遅くまでかかってたみたいですから、眠いんでしょうね……)
兄弟はたわわなマスクメロンの行方を考えていたのだが、そんな真剣ながらもボーっとした様子にソラは昨日の戦いの疲れが残っているのだと勘違いをする。
……正体が誰か分からない正義のヒーロー『地球戦士アーススリー』だが、実はどういうわけかソラにはその正体が地球家の三兄妹であると分かっていた。
いや、『地球戦士アーススリー』という正義のヒーロー自体は地球一族による世代交代制のようで、数年ごとに中の人が変わっているらしい。それは彼らが家のなかでドタバタと騒いでいる会話で理解していた。
さらに言うと一般人にアーススリーのことはバレそうになった場合、何らかの設備が作用して記憶が改竄されるようになっているようだった。
だというのにソラにはどういうわけかその改竄が行われることが無かった。そのため、リクたちがアーススリーに変身したり、授業中に教室から抜け出すところを何度も目撃していた。
ついでに言うなら屋上から大きな声で変身する際の掛け声とかも聞こえたし、高校からアーススリーのメカが現場に向って飛ぶのも見た。
ではその一方で地球三兄妹は星空ソラがその事実を知っているのかと聞かれると、知ってるわけがない。何故なら彼らの中では誰にも正体がバレていないウルヴァッド帝国と戦う正義のヒーローであるのだから。
だからソラも黙っておくべきと考え、何も知らないふりをしていた。何も知らずに仲の良い幼馴染として地球家との交流を楽しもうと。
きっと物語のヒロインなら「わたしが全力で三人をサポートするね!」とか言ったりして、物語が始まったりするかもしれない。
けれど正義のヒーローの正体が幼馴染であっても他人にバレると、この関係があっさりと崩れてしまうという確信もしていたから……目を閉じ、耳を塞いで、口に手を当てた。
そして……どういうわけか、ソラも正体がバレる恐怖は本当に怖いものだとまるで自分も味わったかのような感覚を感じていた。
そのことがソラを悶々とさせるのだが……、誰にも言えない秘密だった。
●
それから時間はあっという間に過ぎ、お昼休みとなった。
その間、ソラは真面目に授業を受けていた。
しかしリクは夢の国の住人となり、隣の席のカイは何とか授業を受けようとするも体力が限界だったようでコクリコクリと船を込んでしまっていた。
きっと同じように1年の教室ではハナも夢の国でエンジョイしていることだろう。
「リクくーん、起きてください。お昼休みですよー」
「んん……、もうちょっと……」
「ダメですよー。ほら、カイくんも起きてくださーい。学食並んじゃいますよー」
「ん、んん……起きてます。起きていますから……」
「寝てるじゃないですかー。……うーん、きっとハナちゃんも寝ちゃっていますよね。仕方ありません、パンかおにぎり、それと飲み物を買ってきますから何が良いですか?」
眠るリクとカイを揺するソラだったが、何度揺すっても起きないと判断したようで一緒に学食に行くことは諦め、教室で食べることにした。
そして彼らが欲しいものを聞いてから、ハナのいる1年の教室にも顔を出したが……やっぱり兄二人と同じように机に倒れ込んでいた。
「やっぱりハナちゃんも学食は無理そうですね……」
「むにゃむにゃ……、うぇへへ……、ソラちゃんのやわらかい~♥」
「い、いったいどんな夢を見ているんですか? ハナちゃん、購買で何か買ってこようと思うんですけど何かいりますか?」
「ソラちゃんのにくまん~……むにゃむにゃ……、ソラちゃんミルク~……うぇへへ~……」
「わ、わたしの肉まん? 肉まん、購買に売ってましたっけ? 牛乳は売ってますけど……」
幸せそうに眠るハナの言葉に首を傾げながら、ソラは呟く。
そんな二人の言葉に声を聞いた何名かの男子がギョッとしながらそっちを見てから……ごくりと喉を鳴らしてしまう。
なんという肉まん。それにミルクなんて、なんて意味深なワード!!
などと考えてしまう思春期ボーイの考えなど気づくことはないソラは購買に向かい、1年のクラスにはハナの寝言に反応した思春期ボーイとそれをゴミのように見る女子たちがいた。
それから少しして購買から数種類のパンとおにぎり、それと要望した飲み物を購入して先にハナのもとへと寄る。
「ハナちゃんお待たせしましたー。肉まんは売っていなかったので、代わりにカレーパンを置いていきますね」
「あいあと~……、カレ~パンツ~……」
「いい加減に起きてくださいねー」
「ふあ~い」
よく分からない言葉に苦笑しながら、カレーパンと紙パックの牛乳を置いて1年の教室を出て自分たちのクラスへと戻る。
そこでもやっぱりリクとカイが机で眠りについていた。……そんな彼らを見ながら「仕方ないなぁ」とでもいうようにソラは二人へと近づき、手前の空いている席の椅子に座らせてもらう。
「リクくーん、カイくーん、パンとおにぎり買ってきましたから食べましょうー。ほら、はやく起きてくださーい」
「ん、んぅ……あ、ぁあ……パン……、カツサンド……」
「うぅ……、おに、ぎり……。うめ、しゃけ……こんぶ……」
「カツサンドは無理でしたけど、タマゴサンドとメンチカツサンドはゲットしましたよー。おにぎりもたくさんありますからねー」
「「おーー…………」」
半分寝ぼけた状態のまま二人は前にある……と思っているパンとおにぎりへと手を伸ばす。
しかし、残念なことに机の上にはまだパンもおにぎりも置かれてはいない。
なので二人の手は机の上を過ぎていき……、
「………………ふぇ?」
「んぁ……? パン、やわらか……?」
「おにぎり、やわらか…………?」
「あ、あの、あの、リクくん、カイくん……その、えと……あの……」
同じタイミングで二人の手はソラの胸を鷲掴みしてしまっていた。
はじめはソラも何が起きたのか理解できていなかったのかキョトンとした表情を浮かべており、胸を鷲掴んだことに気づかない二人はもにゅもにゅと胸を揉んでしまう。
そんな二人に段々と顔を赤くしながら声をかけるけれど、どう反応すれば良いのか分からないようでソラは目をグルグルさせる。
ちなみにそれを目撃してしまっていたクラスメイトは全員「え、ちょ、マジかよ……?」と驚愕の表情を浮かべているのだがまったく気づいていない。
「ふ、ふふ、ふたりとも……あのそのあの……、手、手を……はなして、くださぃぃ……」
「んぅ? 手ぇ……?」
「手、ですか……?」
「「………………………………は?」」
ぼんやりとしながらようやく二人は顔を上げ、自分たちの手がソラの胸を鷲掴んでるという事実に気づいた――瞬間、固まってしまった。
静寂が教室内を埋め尽くし、クラスメイトたちの視線は三人に向けられたまま。
そんな状況の中、当の三人のうち二人は……当然ながら混乱し、思考がピッタリと一致していた。
((え? は? え、今、
自分たちの手が掴んでいるものが何か、どうしてこうなった? そんな戸惑いと同時に触れてしまっているマスクメロンのもにょんもにょんとした柔らかさにドクンドクンと胸の鼓動が高鳴る。
そんな中、パチリと三人の目が合った。
リクとカイからは混乱と恥ずかしさが混じった状態で頬を赤くし、すこし目に涙が溢れそうになっているソラの姿が……。
ソラからは自分がしてしまっていることに対する戸惑いとしてしまった現状に対する恐怖、そしてどうすれば良いのかと言った困惑が感じられた。
そんな感情の交錯が感じられた瞬間――弾かれたように、リクとカイの手がソラの胸から離れた。
「す、すまんっ!!」「すみませんっ!!」
「い、いえ、そのあの……、き、気にして、ませんから……」
二人そろって机に手を突きながら簡易土下座をするのを見ながら、ソラは頬を染めたまま気まずそうに返事をする。
その様子にリクとカイの頭のなかでは「やっちまったぁぁぁぁぁぁぁっ!! けど、やわらかかったぁぁぁぁぁっ!!」と己の失敗と己の手に残ったあの感触にのた打ち回っていた。
ちなみにソラ自身もまだ整理がついていなかったりしていた。
(うぅ、お……おっぱい掴まれましたっ! は、恥ずかしいです、恥ずかしいですっ! だから二人の顔を見ることが出来ませんんぅぅぅぅぅぅぅっ!!)
……怒ってる様子はなかった。当たり前だ、不慮の事故だということを彼女自身理解しているのだから。
だけど恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
しかし、タイミングというものは厄介なものである。
――キィィィィィン!
「「――っ!!」」
二人の手首に巻かれている仰々しい飾りがついたブレスレットから音が鳴る。
その直後、彼らはハッと窓の外に視線を向け、すこし困った表情でソラを見た。だがその瞳に宿るのは使命感。
「わ、悪いソラ! ちょっと用事が出来たから、早退するわ!!」
「僕もです! すみませんソラくん、先生に連絡をお願いします!!」
「え、あ、はい……あ、おひるごはん食べてください!!」
「サンキュー!」「ありがとうございます!」
突然の早退宣言に戸惑いを見せたソラであったが、二人へと手に持っていたパンとおにぎり、それと飲み物を差し出す。
二人はそれを受けとり、急いで教室から出ていった。
それをソラは心配そうに見送った。
「三人とも……、無理はしないでください」
◆
教室から出て屋上へと駆け抜ける中、栄養補給としてソラから貰ったパンとおにぎりをリクとカイはそれぞれ口に含む。
走りながらだと喉を詰まらせる危険もあるが、今しか時間が無いから仕方がない。
そして階段辺りに来ると、同じように牛乳片手にカレーパンを食べながら走るハナと合流して屋上への階段を上る。
基本的に高校の屋上は閉鎖されている。しかし、三人には屋上の鍵を秘密裏に渡されているため出ることが可能だ。
「あー、くそ! なんで半日ですぐに現れるか!? すこしぐらい時間を開けろよ!!」
「ですね……。ですが眠ったことですこしは体力が戻りましたし、弱音なんて言ってられません」
「ズズズ……プハッ、だね~。さってと、世界のために頑張りますか~!」
苛立ちながらこの場に居ない『敵』に文句を言いながら、三人は食べおわった包み紙と飲み終わった飲み物容器を後で捨てるために屋上の隅に置く。
そして横一列に並ぶと両腕を横に大きく広げ、次に広げた腕を前に向ける。
前に向けられた手がバスンとブレスレットの飾りを叩く。するとブレスレットの飾りからそれぞれ光が放たれ、三人は叫ぶ。
「「「躍動! アース――チェンジャー!!」」」
直後放たれていた光が輝きを増し、リクとカイとハナをそれぞれ球状に包みこんだ。
光球の中で三人の体を銀の粒子が纏わりつき、それぞれ赤・青・黄のカラーリングが着色されると最後に顔にボールサイズの地球が数回通り抜ける。
ボールサイズの地球が通り抜けると顔を隠すフルフェイスマスクに三人の顔は覆われていた。
そして変身が完了するとともに光球は消え去った。
『よぉし、行っくぜーー! 来い、ジェットアース!』
リクこと活火山を彷彿させるヘッドパーツをレッドアースがブレスレットに声をかけると何処からともなくアーススリーの移動用マシンであるジェットアースが現れる。
屋上から5メートルほどの高さで低空飛行するそれにレッドアースが飛び乗ると、続いて大海原を彷彿させるヘッドパーツの
『相変わらず早いですね。では急ぎましょう!』
『今回も負けないぞ~! 必ず勝ってやるんだから~!』
コックピットに全員が座ると同時にジェットアースは現場に向かって飛んでいった。
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