第1話 幼馴染はスーパーヒーロー(前編)

 カーテンの隙間から光が差し込む部屋。その中のベッドでうなされる少女がいた。

 寝相が悪かったからかミルクティー色の長い髪を乱し、マスクメロンほどの大きさの双丘を無理矢理花柄のパジャマに収めながら……少女、星空ソラは居た。


「う、うぅん……うぅ~~ん……」


 いったい何の夢を見ているのかは分からない。けれど、ソラは苦しそうに声を漏らし……体をよじっていた。

 正直、普通におっぱいがでかい美少女が汗だくになりながらベッドのうえでうなされているという状況なのだが、それだけで納めたらきっと簡単すぎるだろう。

 だから事細かに説明をする!


 うなされ、体から汗がにじみ出ているために花柄のパジャマは汗だくとなっており、しっとりとして近づけば女性特有の甘い香りがするに違いなく、さらには首筋から胸元に垂れた汗は男の本能くすぐる谷間にタラ~ッと垂れていた。

 当然寝返りを打つたび、双丘は遅れてゆっくりと揺れるため……某特戦隊のリーダー格の名前の逸品ではなく天然ものだ。

 ミルクティー色の長い髪も肌に貼りついているのは、エロスが感じられてグッドだ。

 ちなみにベッドのなかは汗だくであるため、彼女の匂いが十分に染みついているのだが……そんな彼女に好意を抱く者はまだ居ない……と思う。


「なんだか、ひどいこといわれたきがします……」


 ガバッと体を起こし、目を覚ますと、ぅんと体を伸ばす。

 瞬間、双丘が上へと押し上げられてムチッとパジャマをパツンパツンにさせる。

 だがそんなことは気にせずにソラはベッドから這い出ると、貼りついたパジャマを軽く引っ張って仰ぐ。


「う~……、あの夢を見ると本当うなされるんですよね……」


 汗だくになった原因である夢を思い出すけれど、昔から見ているあの夢に変化はない。

 ただ変化があるとすれば小学生と間違われそうな体型だったのが、高校に入学して1年で一気に成長をしてしまったためにグラビアモデルも顔負けのような体型となってしまっただけだ。


「はぁ……体が汗でべっとり。ちょっと汗を流さないといけませんね……」


 呟きながら部屋から出て、風呂場に向かい汗だくのパジャマを洗濯機に入れてシャワーを浴びる。

 シャワーから出るほどよい熱さがソラの目を覚まさせていき、鬱屈とした夢の残滓を洗い流してくれる。

 かるく泡タイプのボディーソープで体を洗い、続いてシャンプーを手に付けて頭を洗ってからトリートメント。そうして20分ほどの時間をかけて全身を洗い終えるとバスタオルで体を拭いて着替えを行う。


「うーん……やっぱりフィットするサイズの替えが少ないですよね……。次の休みの日にハナちゃんにお願いしてみましょうか」

(けどハナちゃんってば何時も子供っぽい下着をチョイスしてたのに、体が急成長したらいきなりス、スケスケとか、紐みたいなものを持って来るんですから……恥ずかしいです)


 丸められていたパンツを広げて穿いて、続いてブラジャーを着用しはじめる。

 ……しかし、手に取ったブラジャーはすこしサイズが小さかったからか、うまくホックが留まらない。

 いや、彼女の戸惑った表情からして、少し前に着用したときは留まったのが明らかだった。


「う、うぅ……またおっきくなっちゃいました……。なんでぇ……?」

(これ以上大きくならないでくださいよぉ! 下着を買い替えるのにもお金がかかるんですから!!)

「ん、ぅ、っしょ……! うんっ、なんとか……留まりました!」


 カップ麺ができるほどの時間頑張ってブラジャーと格闘し続けた結果、なんとか着用(ただし今にも弾けそう)できたので腰に手を当て満足そうに頷く。

 それを終えてから制服に着替えるためにソラは自室へと戻る。

 と、ここでギャルゲー展開であれば幼馴染の主人公が玄関の扉を開けてしまい、下着姿のソラを目撃してしまい『きゃああああああああっ!!』と朝っぱらから恥ずかしさから放たれる悲鳴とその場でしゃがむ彼女が見られただろうが、生憎とこの世界はギャルゲーではない。

 なので普通に制服に着替え、髪を整えてから朝食としてトースターに食パンをぶち込んでトーストにして、マーガリンを塗ってからその上に好物のりんごジャムをたっぷり乗せたものを牛乳といっしょに食べながらテレビを見る。


「はぁ~~、りんごジャムは美味しいです。しゃくしゃくとろとろとした歯ごたえに甘い味わい……。トーストのカリカリとした食感もたまりませんね~♪」

『――次に昨夜は――地区をウルヴァッド帝国の怪人が襲ってきましたが、今回も地球戦士アーススリーの3人が退治してくれました。ありがとう、アーススリー!』


 テレビからアナウンサーの報道が聞こえ、りんごジャムの甘さにうっとりしていたソラがテレビのほうを向くとテレビでは倒壊された建物をバックにアナウンサーが報道を行っていた。

 それから昨日の怪人報道の映像が流れるけれど夜に遠くから撮影されたようで、暗くて分かりづらいけれども3人の光沢を放つスーツを着た人たちが何かと戦っている映像が映って、しばらくすると何かが大爆発するのが見えた。

 そして巨大になるのが見えて、急いでカメラマンが逃げていったのか映像は途切れた。


「うわー、こんな夜遅くに頑張ってたんですね。


 地球戦士アーススリー。それはウルヴァッド帝国と戦う謎のスーパーヒーロー。

 彼らの正体は不明だけれど、どういうわけか彼らの攻撃はウルヴァッド帝国の怪人たちに決定的な攻撃を与えることが可能であり、一度倒された後にすぐに巨大化した際に対してもどのような技術を使われているのかわからない3機のメカを召喚して、1体の巨大ロボに合体して敵を倒していた。

 謎の存在。けれども人々を護ってくれる彼らを、世界中は認めているのだった。

 なお、アーススリーという名前の通り、彼らは3人チームでありスーツの基本デザインは同じであるがそれぞれ細々とした意匠とカラーリングが違っている。

 そしてわかることと言えば、アーススリーが怪人を前にしての口上を述べるため、それぞれの名前ぐらいだった。

 赤の地球戦士はレッドアース。

 青の地球戦士はブルーアース。

 黄の地球戦士はイエローアース。

 そう彼らは名乗っていた。


『うわー! 寝過ごした!! はやく着替えねーと!!』

『くそっ、ウルヴァッド帝国のやつらめ……僕らの睡眠時間を削るのが目的か?』

『ちょ! 髪型整える時間ないよー!!』

「ああ、またやってます」


 隣の家から聞こえる慌ただしい声にソラは軽く溜息を吐きつつ、窓に近づき声をかける。


「すぅ~~……、リクくーん、カイくーん、ハナちゃーん。トースト食べますー?」

『『『食べるーーーーっ!!』』』


 すぐに帰ってきた返事に苦笑しつつ、ソラは空いた席の前に皿を置くとトースターへと食パンを入れてダイヤルを回す。

 その間に冷蔵庫から牛乳パックと野菜ジュースを取りだして、テーブルのうえに置く。

 ついでに一品増やそうと考えたのか、冷蔵庫からさらに6ピースチーズを取りだす。

 そしてトースターがチンと音を立てた瞬間、玄関ドアが合鍵で開けられて中へと入ってくる音がした。

 まるで我が家のように入ってくる足音を聞きながら、扉が開くと同時にソラは声をかける。


「おはようございます。リクくん、カイくん、ハナちゃん」

「おっす、ソラ! 朝ごはんサンキューな!」

「おはようソラくん、用意をしていなかったから助かるよ」

「おはよー、ソラちゃん! お腹ぺっこぺこだよ~!」


 はじめに短く刈り上げた髪形をした筋肉質の学生服の青年、続いて髪をキチッと整えて理知的な印象を持つために白衣を羽織った同じく学生服の青年。

 そして最後にちょっとだけギャルっぽい見た目の学生服の少女。

 三人は隣に住む地球家の三兄妹、地球リク・地球カイ・地球ハナだった。

 彼らは慣れた様子でリビングに入ると何時ものように椅子に座る。

 それを見届けてから空いた皿の上にトーストを置いてく。


「リクくんは2枚で大丈夫ですか? カイくんは1枚ですか? ハナちゃんも1枚?」

「悪い、今日は滅茶苦茶腹が減ってるから3枚で頼めるか?」

「ええ、僕はそれで構いませんよ」

「あたしもそれでいいよ~! 足りなかったら、スムージーでもいいよ!」

「ダメです。スムージーも栄養があって良いですけど、ちゃんと物を噛まないと目が覚めませんよ」

「は~い、わかりましたソラちゃんママ~」

「ママじゃありませんよー」


 それぞれの皿の上にトーストを置いてから、またトースターに食パンを入れる。

 それを見ながらリクはトーストにたっぷりのマーガリンを染み込ませ、カイはチーズの銀紙を剥がして乗せ、ハナはテーブルに置かれたりんごジャムをそのまま塗って食べる。


「あー、うめー。戦いの後の朝食は本当うまいぜ!」

「……リク、お前は何を言ってるんだ?」

「そそ、そうだよ。リク兄! 戦いって何の戦いだよ!? 夜のひとり戦争ってやつかな!?」

「お前は何を言ってるんだよハナ!? いや、だから戦いってのは……あ。い、いや、そそ……それは、だな……」


 口にトーストを含ませながら漏らしたリクの言葉にカイが静かにツッコミを入れる。

 同じようにハナも挙動不審になりながら問いただす。

 それに対してリクは妹の言葉にギョッとしたようだが、自分の言った失言に気づいたようで目線をキョロキョロさせはじめる。


「リクくんどうしたんですか? それと夜のひとり戦争??」

(夜の戦いは三人でしたよね?)

「い、いや、ソラは気にしなくても構わないからな!」

「そ、そうですよ。ソラくんは純粋なままでいてください。我が家のおっさん少女とは違って……」

「おっさん少女ってなにカイ兄~?! 酷いこと言われたから、あることないこと言ってやるんだから~!」

「あ、あることないこと、ですか?」

「うんうん。リク兄とカイ兄がね、ソラちゃんのおっぱいをオカズにして~」

「「わ~わ~! そんなことはして…………してないからな!!」」

「オカズ??」


 本気でソラはなにを言われているのかは分かっていない様子だが、言われたらたまったものじゃないといった様子でリクとカイはハナを抑えようとする。

 そんな兄妹の様子にソラは首を傾げるばかりであった。


 ●


「ふぁ~あぁ……眠い~……」


 食事を終え、戸締りをして四人は高校に向けて歩き出す。

 今の時間なら普通に歩けば間に合うくらいの時間だから問題はない。

 それが分かっているからか四人とも急ぐことなく歩いているのだが、ハナが眠そうに大きな欠伸。

 そんな彼女にソラは声をかける。


「本当に眠そうですけど、大丈夫ですかハナちゃん?」

「大丈夫だよ~。ただちょっと眠いだけ~……ソラちゃん支えて~」

「ダメですよハナちゃん。ちゃんと歩かないと転んじゃいますよー?」

「や~だ~~…………ん? んんん?? ……ソラちゃん。またおっきくなっちゃった?」


 声をかけたソラに甘えるようにハナは胸にダイブする。そんな彼女を窘めるようにソラは声をあげるけれど……不意に何かに気づいたようにハナはソラに聞く。

 その言葉に男二人はギョッとしながら目線をソラのマスクメロンに向けてしまうけれども、すぐに気づいて目を逸らす。

 一方で胸のサイズがアップしてしまったことを当てられたことが恥ずかしかったからか、ソラは顔を赤くしながらちいさく頷く……。


「その……は、はい。ですから、今度……いっしょに付いてきてもらえませんか?」

「オーケーオーケー、わかったよ~! もう、すっごいヒモみたいなのとかスケスケしてるの選んであげる!!」

「そ、それは良いですから! ちゃんと普段使いができるものをお願いします!!」

「恥ずかしがるソラちゃんは可愛いな~♥ このこの~!」

「ひゃうぅぅ……!」


 恥ずかしそうに頷くソラへと、ハナはにんまりと笑みを浮かべながらどんな感じの下着を買うかとジェスチャーする。

 それでどんな形かをイメージしてしまったようで、ソラはより顔を真っ赤にしながら大きく声をあげる。

 顔を真っ赤にするソラを見ながら、ハナは胸にダイブした顔をさらに沈ませるように動かすとソラはますます顔を赤くした。

 そんな百合百合しい光景を他所に立ち入ることが出来ない男二人は動けずにいる。


「ヒモ……」

「スケスケ……」

「ふ、ふたりとも、何を考えてるんですか!?」

「す、すまんっ!!」「すまないっ!!」

「まったくもう……! ハナちゃんも離れてください!」


 可愛い女の子がエッチな下着を着ているのを想像するのは男の宿命であるためしかたない。しかし、それを理解できない純真な少女は顔を赤くしながら怒る。

 そんな男二人の謝罪を聞きながら、抱き着いている最後の幼馴染も剥がす。


「いや~、ごめんごめん。でも、ソラちゃんいい香りがした~♪ もしかしてシャワー浴びてた?」

「ハナちゃん、顔を擦りつけちゃったら乱れちゃいますよ。え、はい、ちょっと朝シャワーしてきました」

「通りでいい匂いがしたわけだ。……え、でも朝シャワーって、誰か気になる人でもいるから身だしなみに気を使っちゃったの!?」


 ソラの制服の奥から漂ってきたボディーソープの香りにハナは指摘すると、彼女の髪を整えていたソラは頷く。

 すると何処をどう勘違いしたのかまるでガガーンと効果音が聞こえてきそうなくらいにショックを受けて後退る。

 そんなハナの様子にソラはまたも顔を赤くして、両手を前に出してブンブンと振った。


「ちち、違いますよ! ちょっと、寝汗をかきすぎちゃって……」

「な~んだ。びっくりした~。よかったね、リク兄、カイ兄!」

「い、いや、なんで良かったんだよ? オ、オレはべつに……」

「そそ、そうですよ。僕も別にそんな風に思ってなんて……」

「も~、なんでそんな感じにツンデレってるんだかな~。言うこと言わないと誰かに掻っ攫われちゃうんじゃないかな~?」

「「う”……っ!」」


 ソラの様子にホッとしたハナだったがすぐに兄二人にニヤニヤと笑みを浮かべながら告げると、リクとカイは咳払いしながら返事をするけれどハナのひと言で膝をついた。

 たまに変な行動をする幼馴染だからか、ソラは気にする様子はなく時計を見る。


「あっ、すこし急がないと遅刻しちゃいますよ! 急ぎましょう!」

「ソラちゃんマイペースだね~……。まあ、本当どっちでも良いから頑張らないとリク兄、カイ兄」

「あー……そう、だな……」

「わかって、ますよ……」

「? はやく向かいますよー」


 ふらふらと立ち上がるリクとカイを見ながら、少しだけ首を傾げ……すぐにソラは三人を招き寄せる。

 その呼び声に従って彼らは歩くのだった。

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