一章
登校
じめじめした空気。雨の匂い。
電車を降りると梅雨の空気が体を包む。
前髪命の女子高生にとって六月の湿度は致命的だ。
しかし、そんなこと気にも止めていないように彼女は歩き出す。すらりとバランスの良い手足に小さめの顔、真っ白な肌。大人っぽい顔立ちに浮かべる幼い表情は何だかちぐはぐで、人々を惹きつける魅力の一つだ。
「じめっとしてるなー」
形の良い薄い口から出る声は同年代の女子たちより大分低めだ。言葉とは裏腹に彼女の口調はどこか明るい。
高校二年生の
夏が近づいている合図だもん。わくわくしないわけがないでしょ。
美玲は学校の最寄駅の一つ手前の駅で降りている。毎朝だ。駅から学校まで20分の道のりをイヤホンをして一人で歩く。音楽は流さない。
学校から一番近い交差点で、最寄り駅からくる大勢の生徒たちと合流する。信号に合わせてしれっと入り込むため、他の道から来てても白い目で見られることがない。
「おはよっ!」
横に並んでそう言ってきたのは同じクラスの
「進藤は毎朝ここで私を待ち構えてるの?
私のこと大好きじゃん」
「残念、偶然だよー笑」
「うそでしょ傷ついたぁ〜」
「清水メンヘラすぎ」
彼氏の前でだけにしてよ? と、呆れ顔だ。
「分かってますー」
いつもの茶番を繰り広げ、学校へ向かう。
楽しくて仕方がない。
大人がよく言う一瞬の青春をふわふわと流れながら美玲は過ごしている。
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