白く恋う

速水イチカ

プロローグ

“余命宣告とか、違う世界から来たとか、そう言うのじゃないんだけどね”


 終了式の帰り。

 いつも一人で歩く道を今日は二人で歩く。

途切れることなく会話が続いているはずなのに、何を話しているか全くわからない。耳が全く仕事をしてくれていない。

そうなる理由はわかっている。


 並んで歩くふたつの影が思ってたより随分近いことに気付き、逸らすように目線を上げた。


 山際に夕焼けの赤。その上は水色。真上は紺色と、今日の空は層になっている。寒さの残る三月の空気は透き通り、澄み切った景色を見せてくれる。綺麗すぎる世界に小さな自分達は飲み込まれてしまいそうだ。


 手の甲の感触が私の意識を地上に引き戻した。驚いたが、引かなかった。相手も引く気はないようだ。

 いつのまにか戻ってきた聴覚は二人の間の静寂を聞き取る。いつのまにか会話は終わっていたらしい。お互いの手の甲は静かな静かな空間でふれあい続けた。


 赤信号で立ち止まるのを合図に相手の手が甲を離れ掌に重なった。

心臓がどくんと跳ねる。

もう覚悟を決めないといけないようだ。

さっきよりも近づいた影を見つめて言う。

肯定とも否定とも取れるずるい駆け引き。


「私、彼氏以外とは手繋げない」


ドクン、 ドクン、 ドクン、

心臓がうるさい。


 その間は泣き出してしまいそうなほど長く感じた。


 彼はぎゅっと私の手を握り私の顔を見る。

今日初めて目があった。


「じゃあもう、おれ彼氏だ」 


 そう言って笑う君に私も笑顔で頷く。


 


 あぁいつか君には話せるだろうか。




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