第7話
二人して帰宅した玄関先では、何があったのかは分からないが父さんが背後に立つ母さんに怯えながら俺たちを迎えた。こんなに怯えている父さんを見るのは、小学生の頃に一度大喧嘩をして離婚を迫られたとき以来だと思う。
何を隠そう母さんは、昔父さんを指導した元警視総監の娘様なのだ。
厳格な顔をしているせいか恐がられることが多かったじいちゃんの血を色濃く受け継いでいる母さんを怒らせるとマジで恐いことを俺たちは知っていた。
「お帰り、悠、羽衣」
「た……ただいま」
父さんは俺が羽衣を迎えに出て行った際に渡した数枚の写真を手に持っていた。羽衣はどうして? という表情で父さんを見ていた。父さんが何か言いたげに視線を泳がせていた。そんな父さんを見た母さんは呆れたのか「ほらあなた?」と微笑んだ。母さんの背後に俺は怒る般若を見た。
「——羽衣、すまなかった」
「え……?」
「悠の写真を見させてもらったよ。どれも、いい写真だった。お前が、覚悟を持ってそういった活動をしていたことを、父さんは否定してしまった。知らなかったとはいえ、とても反省した。すまなかった」
父さんが羽衣に対して頭を下げた。俺は純粋に驚いた。そんな姿を見たことがなかったからだ。羽衣も羽衣で驚いて固まっていた。
「…………いい」
「え?」
「……わかったんなら……いい」
羽衣の声は、彼女の腕のようにか細かったけれど、父さんにはちゃんと届いたようだ。父さんは「ありがとう」と娘を愛でるときの優しい微笑みを浮かべて羽衣の頭を撫でた。俺と父さんの後ろに立っていた母さんは視線を合わせると、自然と一緒に微笑んだ。
その日から父さんは一週間、大好きな母さんの手料理を食べられなくなって酷く落胆していたという話は、ここだけの秘密だ。
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