第4話

『嘘同盟』を結んだ日からというもの、俺たちはSNSのアカウントを互いにフォローし合い、陰ながらメッセージのやり取りを行った。メッセージアプリで済ませばいいものをわざわざSNSにしたのには多少の理由がある。


 ひとつは『他人同士』としてネットの海で接触することが可能なので、完全なる他人として(たとえば『アイドル』と『ファン』として)交流することができた。

 羽衣ではなく『プリュム』として活動する彼女はやはりとても輝いていた。

 もうひとつはSNSを両親が利用していないことにある。同盟内の作戦会議などを行う際、メッセージアプリを使うと両親にも連絡が届くようになっているが、その点、SNSの利用に関しては個人の責任のもと使用が許されているので、完全に二人だけのチャット部屋を作ることができるのである。


「次のイベントは二か月後ね。とりあえずそれまでバレないようにしましょう」

「ああ、とりあえずの目標だな」

「このまま、その次のイベントまで持ちこたえてくれればいいんだけど……」

「……」


 羽衣の言葉の真意を、少なくとも俺は知っていた。

 あと四ヶ月もすれば羽衣の大学入試の受験が始まる。今までも勉強を怠っていたわけじゃないが、これ以上に勉強しなければ志望の大学には入れないのだという。

 志望校は多くの警察官僚を数多く輩出してきた名門校だった。父さんも母さんも通っていたということで俺たち姉弟はその大学に入ることが自然な流れだと思っている。本心だった。だけど入学後は趣味なんてできないくらいに忙しい日々が続くのかもしれない。そう思うと少しだけ、迷ってしまう。

 仕方ない、と思ってはいても、せめて高校生までは自由に生きていたい。それが俺たちの些細な願いだった。


「弱気になるなよ。俺が、いるだろ」


 俺は自分の発言に恥ずかしさを覚えた。羽衣の顔をしっかりと見たのは何年ぶりだろう。彼女の目は、不安と優しさに染まっていた。


 ***


 夏の暑さも和らいだ九月、イベントが開催された。羽衣が『プリュム』としてステージに立つ、大切な時間。俺はいつものようにカメラを持ってイベント会場に出掛けた。


 しかし、現実とは上手くはいかないものだ。


 その日俺たちを待ち受けていたのは人生最悪の『事件』だった。

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