第3話:も~大変!戦う女のコの危険な日常!?

ピピピッ!!ピピピッ!!「ボークはプースカプー」ピピピッ!!ピピピッ!!「にんきもの~」ピピピッ!!ピピピッ!!「ラーメン食べさせてよ!」ピピピッ!!ピピバコォッ!


 ……ねむ。

まださむいし。きのうもがんばったし…。なんか、こう……。ねてていい理由はいっぱいあるから……………。

「ハナ?今日は学校だったよね?起きないと遅れちゃうよ!」

「……。んぁ。」

あんまり急かさないでほしい。ハナちゃんの起動には時間がかかるのだ。あの、アレ、ギズモンド?くらい。わかんない?ハナも。

「ハナ、ハーナ!……まったく、起きてからはあんなに元気なのに。」

「そぉね…………。」

たっぷり2分はもぞもぞしてから、しょうがないのでうつぶせになってから、ぐうぅっと体を起こしてうでをつっぱってのびをする。

あぁ、朝だ。と思った。

雲一つない青空だった。うん、今日も一日イイ感じにがんばろう。学校と、あと魔法少女も。

「おはようフォンくん。今日もなんとも言えないフォルムだね。」

このニコロデオン世界の薬局のマスコットのシカ?……みたいな顔したヘビ?かなんかに浮いた手と、羽の付いた輪っかをせおった生き物が……、まあ多少なぞのデザインだろうがいいのだ。とにかくこの子がハナのサポートをしてくれるフォンちゃん。

今見て気付いたけどユウカちゃんの所のトロンくんには手がないんだよね。不便そ。

はじめて魔法少女になったあと、ハナの頭の上にあった天使の輪っかがフォンくんが変身したヤツみたいで、あれからずっと一緒にいる。ちょっと口うるさいところもあるけどけっこう仲良くやっています。ね?

「急にウインクされても分からないからね。ちょっとボンヤリしたと思ったらコレだよ…。それよりいいの?朝ごはん食べる時間じゃないの?」

う~~~ん……、時計を見る。6月22日の朝7時15分。ご飯を食べて歯みがいて、かみ整えて支度して、って考えたらここらが限界かもだった。

「しゃーなしやね。」

適当なこと言ってから立つ。フォンくんはあきれていた。なんやワレ。



「おはよママ。なんでペットボトルの牛乳はないの?」

ダイニングに行くとキッチンにはママがいていつも通り朝ごはんを用意してくれている。今まで先に起きれたことはないからたまには勝負でもしかけようかと思ったけど思っただけ。勝てるワケない。ママはえらいのだ。

「牛が嫌がったの。ペットボトルを潰すとベコッていうでしょ?アレが呼ばれてるみたいで気に食わなかったらしいわ。ハイ、おみそ汁も。」

「そうなんだぁ。塩こしょうもちょうだい。」

ご飯を盛って、目玉焼きとウインナーソーセージとおみそ汁のある席につく。

「昨日も帰るのちょっと遅かったじゃない。隣のユウカちゃんと一緒だから別に良いケドね。さ、いただきます。最近何してんの?」

エプロンを外したママも座ってご飯を食べ始める。良かった、ホントにただ気になっただけみたいな顔してた。ユウカちゃん様々だね。

「いただきまーす。ユウカちゃんってなんか、なんだっけ?変なの習っててね、棒ふり回すヤツ。ソレ教えてもらってるんだ。」

ママの手が止まる。なんか、まちがえた?魔法少女の事はナイショにしなきゃいけない。もし怒られたら……。

「アッハッハッハッハ!そう!?またなんか面白そうなことやってんだ!?いいよいいよやりな!ユウカちゃんにお礼言っとかないとね!」

……ふ〜!危なかった!

「ユウカちゃんすごいんだよ!何やってるのかもね!何言ってるのかなんにもピンと来ないの!」

あれからも”バケモノ”退治のたびにユウカちゃんは戦い方のコツを教えてくれるけどいっつも何言ってるかわかんない。ハナに武器とかないし。

「そう!良かったじゃん!ただあんまり危ないことしちゃダメだからね。」

「うん!あとね!ユウカちゃん頼りになるし、遊んでくれるし、ずっと友達なの!ゲヘナでもいっしょだよ!」

「友達を勝手に地獄に落とすのは止めときな。あと……、早く食べな?」

ママが止めたんじゃんも~!



急いでご飯食べたりしてから部屋に戻って、着替える。今日はどうしようかな?

いつもの感じでいいや。それより、

「そろそろ行くよフォンくん。えいっ。」

ナスカンっていうキーホルダーのひっかける部分がついたトゲをフォンくんにつきさす。ぶすぅっと羊毛フェルトみたいな感じがして、ごらんの通り!ポンッ!とフォンくんはどうみてもちょっと大きいあみぐるみみたいになりました。

「ちょっと!もっと丁寧にやってよ!そんなダンク決めるみたいに刺されたら痛くないとはいえ怖すぎるって!!」

パタパタとさえずるフォンくんをランドセルに付けると、もう完璧♪

「うるさいで~す。もう出ま~す。」

ガチャバタンットトトッ「行ってきます!!」バタットットッガチ「あ、待って、今日―」バタン!!


「台風くるかも。……………ま、大丈夫か。」



マンションの404号室から出るとエレベーターのとこにもうユウカちゃんがいた。うしろ姿がもうかわいい。中学生になると毎日せい服になるのが楽しみなんだよな、かわいくて楽しみだな。

「おはようユウカちゃん!トロンくんも!」

スクールバックのあみぐるみにもあいさつする。

「おはようハナ。」「今日も元気だな嬢ちゃん。」

ユウカちゃんといっしょにエレベーターに乗って降りて、登校する。中学校までの道は途中までいっしょだ。

「昨日はちょっと帰りが遅くなっちゃったでしょ。お母さん、何か言ってなかった?」

家族のことになるとユウカちゃんはしんみょーな顔になる。戦う力があって、必要なことなんだけど、やっぱり危ないことだからマジメなユウカちゃんはウソついてるのがつらいんだって。

「さっき話したんだけどね、ユウカちゃんがいっしょなら安心できるって言ってたよ。あと、ユウカちゃんとなんか棒ふり回すヤツやってるってごまかしといた!」

ファインプレー!

「雷剛流小太刀術ね。わかったわ。あとでお母さんにも挨拶しとかなきゃね。」

これは直接聞いたわけじゃないけど、たぶんユウカちゃんはその〈らいごーりゅうこだちじゅつ〉をめちゃめちゃ気に入ってると思う。男の子みたいなセンス、かわいい。あと名前つけた人のセンスはハンパない。

「じゃあ今日は!?昨日も”バケモノ”やっつけたんだから今日は出ないと思うから!そうでしょ?」

それぞれのカバンについてるあみぐるみの2人、2匹?にも聞いてみる。

「うん、”バケモノ”っていうのはその地域の人間から吸い取った《ネガティブエネルギー》…負の感情をもとに発生するんだ。」

「ああ、基本的にあふれた分が”バケモノ”になるからな。最近全体で増えてるとはいえ……、まあ大丈夫だと思うがな。」

「でしょ!じゃあユウカちゃん、ウチに来てよ!」

っていうかそんなシステムだったんだ。聞いたってどうにかなるものじゃないけど初めて聞いたんだけど!この子たちって全然大事なこと言ってくれないんだから!

「―――えぇ。そうね。じゃあ、行かせてもらおうかしら。とりあえず帰ってからね。」

ユウカちゃんも初めて聞いたのかな、ビックリしてる?ってアレ?

「ユウカちゃん、カサ持ってるの?今日、晴れてるケド……。」

カバンに折りたたみカサがささってる。なんにももようのない黒のカサだった。こんなとこも男の子みたい。いっつも余計なアクセサリーつけてないぶんあみぐるみバージョンのトロンくんが目立つ。

「えっ?ハナ、天気予報見てなかったの?今日夕方から台風来るのよ、大変じゃない。」

うへ……。ホントぉ…?ま、サイアク学校とかから借りればいっか。ホントのホント、ダメだったら変身してバーッと帰っちゃえばいいもんね!



「じゃ、また帰ってからね。」

しばらく歩いて小学校の近くまで来るとユウカちゃんと別れる。

しっかし、こんなに晴れてるのに台風なんて来てるんだね。そういうものかな。

「でも、ユウカちゃんもあの魔法あるならカサ持ち歩かなくてもいいのにね?」

形も長さもちがうスティックを出せるならカサも出せると思うんだけど……。

「だから、あんまり人前で魔法使っちゃダメなんだって!それにユウカは魔法使うあいだ光っちゃうでしょ。……おっと。」

後ろから声がかかる。

「おはよハナちゃん。……だれと話してたの?」

「家にいるカサと電話してたの。残念だけど自分じゃ動けないから来られないって。今足元もカバーできるようにってトレーニングしてるんだって言ってたよ。夢を追いかける人ってステキだよね。」

「そう……。大変そうだ。」

ミナミちゃんはうすっぺら~い会話を流してくれるところだいすき。ハナはママの行き届いた教育のおかげでてきとーな話ばっかりするってよく言われるんだけど、

「だったら私の、貸してあげよっか。」

クラスじゃミナミちゃんだけはちゃんと聞いてくれるの。

「私はそこら辺の一年生のカサでも借りてくから。家も近いし。」

たぶんウソ。たぶん。ちなみに周りからは「同類」って称号をもらいました。

「やるじゃん。ミナミちゃんがスズランのてっぺんとったらハナにも分けてね。」

「いーよ。大人になったらとったスズランのてっぺんを皆に貸す仕事やろうと思う。」

「何なのこの子ら。」

「あっ、各務原先生だ。おはようございまーす!」

今日も学校が始まって。



 特に言うこともなく終わる。

しょうがないじゃん。つまんないんだから。せやろ?

「という事で最近ここら辺の不審者の情報も増えてるしね、台風もそろそろ来てるしね、早く帰りましょうってことでね。これでね、帰りの会、終わりましょうね。」

各務原先生の内容の入ってこないれんらくが終わって放課後になる。

「ミナミちゃんカサ貸してー。帰ろ。」

もうやや強めの雨が降っていた。今日魔法少女のおしごと無いみたいでホント良かったじゃんね。さっそくミナミちゃんに声をかける。持つべきものは友だち!あとカサ。

「え?なにが?」

友だちなんて……。

「ウソウソ。私は弟といっしょに帰れるからコレ貸すね。大事にしてるから濡らさないでね。」

フン、言うじゃん。

「ありがと!あとでのしつけて返すね!」

「さよーならせんせー!!」「じゃねー。」


「何なのあの子ら。」




 朝テキトーに言ったときから思ってたけどカサってさ、横からの雨防げないのってどうかと思うんだけど!風強かったら、

バサァ!

ひっくり返るし!あぁもう!

「あらハナ。カサ持ってたの?迎えに来たのに。」

「おっと、ユウカちゃん。ごきげんよう!」

バサァ!

「コレを持ってるって言えるならそうだね!友達に借りたの。」

せっかくだから一緒に帰る事にする。

「ねぇハナ、ちょっと聞いていい…?」

ここでもう聞いてるじゃ〜ん、とか言わない辺りがハナが成長したと言われるゆえん。カサを盾みたいに少し前に向けながら進む。

「ハナは人に向かって魔法って使ったりした?」

「してないよ?ユウカちゃんがダメって言ったんじゃん。そうじゃなくてもやらないけど。」

ハナの魔法ってば便利すぎるからユウカちゃんに絶対バケモノ以外に使っちゃダメって口すっぱく言われてるのだ。口すっぱいって何?意味わかんなくてムカついてきた。

「そう、そうよね……。なんでもないわ。やっぱり自分の力で頑張らないとね。」

なんの話かよくわかんないけどそうなんだろう。ユウカちゃんの中じゃあね。

バサァ!

もうええわ。



 「ただいまー!一番寿命が長い生き物って何!?」

2人で家に入るとママがタオルを用意してくれてた。

「たぶんウニよ。あら、カサ持ってるじゃない。そしてビッショビショのグッシャグシャじゃない。案の定ね。あぁユウカちゃん来てくれたの。待ってて、今もう1枚持ってくるから。」

「ありがとうございます。お邪魔しますね。」

やっぱりカサってさぁ…。もういいや。明日忘れないように玄関に置いとかないと。

「ハナ、今のなに…?」

「え?」


 「改めてお久しぶりです。ハナのお母さん。いつもハナをお借りしてすみません。」

ハナはサッカー選手かなにか?

「いーのいーの!ユウカちゃんなら大丈夫だってほっといてんだから。むしろハナの方が迷惑かけてないか心配まであるんだけど?」

「心外なんですけど。ハナだってユウカちゃんの助けになってるんだから!」

あ、やべ。口すべらせたかも。

「そうそう。ハナちゃんに教えながらだと私も気づくことがありますし。お母さんもどうですか?雷剛流小太刀術。オススメですよ。」

さすがナイスフォローだよユウカちゃん。相変わらずその棒のヤツ好きすぎだけど。

「いや~私はムリよ!昔は運動部だったんだけど今じゃもうアレがソレだからね。まいったまいった。」

たしか前に麻雀ウエイトリフティング部とかって言ってたような…。まぁいいや。ママの言うことは8割信用にならないので。ハナとちがって。

「とりあえず服が乾くまでウチにいな。おやつかなんかあったら持っていくからハナの部屋ででも遊んでてね。ハナをよろしくね。」

ダウト。今おやつはウチにありません。昨日ハナがつまんだので最後です。

「ハイ!責任もってお預かりします!――ハナにも良いスティック、選んであげようかしら?どんなのがいい?」

「じゃあハナ十手がいい!」



 バタン。

「ふぃ~。やっぱ動けねぇからあの形態は肩がこるぜ。」

「ですねぇ…。ボクもハナに付くまでこんなに化けてたことなかったですもん…。」

部屋に入ってすぐフォンくんたちからナスカンを抜く。よくわかんないけどあみぐるみみたいなあのモードはずっと体育座りしてるみたいな感覚だって言ってた。アレかわいいからずっとなってほしいけどね。

「ねぇフォンくん?ハナそろそろ他の魔法少女に会ってみたいんだけど。」

そりゃそうでしょ。他の人の魔法とか戦い方を勉強したいしでっかいヤツが出たときのためにいっしょに戦えるようになるしそれに……。

「もぉ~。ハナったら遊びたいだけでしょ?まぁ分かるけどね。ただボクも会った事は無いしどんな人かも分からないんだ。あんまりあったりしない方がいいと思うけど…、慎重にね。」

乗り気じゃないみたい。つまんね。

「ユウカちゃんはどぉ?ユウカちゃん?」

「うーん、そうね。結構いい話じゃないかしら。お互い動けないタイミングもあるだろうし、連携できるとありがたいわね。」

「でしょー!」でしょー!だった。

「でもまぁ、ハナが一人前になるまではダメよ。」でしょー!じゃなかった。

もうけっこう強いと思うんだけどなぁ。もうかなり準備もできてるし。……たしかになんだかユウカちゃんには勝てる気がしないけど。

「にしても…、ユウカちゃん。いっつもむずかしい顔してるけど今日はいつにも増して険しい顔だよ。K2みたいでカワイイね♡」

ユウカちゃん気にしすぎなとこあるから明らかにふざけてみる。ハナの11年の人生で身につけたこのおちょくりスキル。とくと見よ。遠からん者は音に聞け。


ってアレ?なんか光ってる?これって――


「マジか。」

「えっ?ハナ、ユウカさん。出ちゃったみたいです。”バケモノ”。」


へっ?

今日も?

今日は出ないんじゃあ?…………もぉ~~!!

「やっぱり――。いや、しょうがないわ、行くわよハナ。」

パッと立ったユウカちゃんがすぐ指輪を取り出す。その顔はもうしんけんだった。かけー。

「切り替え速いなぁユウカちゃん。はーい。」

あっとそうだ。

「ママー!今からちょっとユウカちゃんちの方で大あばれだからー!!」「はーい!」

さって、ハナも。首から下げたきんちゃく袋から指輪を取り出す。

「がんばりましょー!」


「「フラワー・エンゲージ!!」」

それぞれ、右手の薬指、左手の人差し指に指輪をはめる。

指輪から全身を包むように黄色とピンクの光があふれてきて。

足から腕から全身に。キレイでカワイくて強い、無敵の魔法少女になってく。

ポンッと同時に胸元にブローチがついて。

最後に大きく指輪が光ったら、それぞれの相棒がそれぞれの魔法の力になる。

「天下無敵の魔法少女!プリモ・フラワー!!」「大胆不敵に魔法少女!ガオーン・フラワー!!」

「「よろ」推参!!」


………「2人一緒のときはここ変えよ?」「……そうね。」



 今日は一番近くの山、菫青山の2合目くらいにある神社だった。不幸中の幸い、広いけーだいのあるとこで良かった。こんな台風の日に森の中だったらと思うと夜も喉を通らない。

「今回はケモノ型が何体かいるみたい!気を付けて二人とも!」

ちょっと長めの階段を飛ぶようにかけ上がる。魔法少女になって走るとめちゃめちゃ気持ちいい。けどもう体育で走るのとかつまんなくなっちゃったのは残念なんだよな。

広場のまんなかに着地すると黒ずんだ動物たちがすでに何体か見える。アレはイノシシと鳥とシカ?と――!?!?

キリン!?そんなことある!?

まだ他にもいるけどちょっとそれどころではないよね?サバンナけ?

「何という”バケモノ”クリエイティビテー……。」

「ハナ!!集中!」

「ケイタイリョウキィィィィィン!!」

うわっと!イノシシ型が突っ込んでくる!

「ユウカちゃん!大丈夫だから!その、なに!?お願い!」

キリンに目が行ってたけどまだ変なのいる!なんかでかい甲羅のないカメみたいなの!

「コモドオオトカゲ型ね!任せて!」ルールとかないの?

「「マジカル☆!!」」「コントロール!!」「スティック!!」

突進してくるイノシシにタッチと同時に側転でかわす。こんなもん跳び箱やで。

「動かないでッ!」

イノシシにはとりあえず止まっててもらう。こうしておけば後はもう思い通りだから利用できるときに動かすことにしてる。ユウカちゃんに言わせればチートらしいけど、ゲーマーとしては止めてほしい。

視界のはしっこで光が見えて、ごしゃ!っと気持ちいい音がする。さっすがユウカさん!

次は…?ユウカちゃんの方にイグアナ型が数体――ダメ!キリンさんが気になる!

「イノシシさんキリンの前足に体当たり!」

「ガスダァァァァイ!!」うるさ。

バチィ!「なんで私には爬虫類しか来ないの!」キレなくても。

ドフッ!っと重い音がする。イノシシがやったみたい。首が下がったとこ触ってやる!案の定首が下がったので一気に走り込む。ジャンプ――!

「オーバーレイコウコク……ジャマ。」

しまった。ネコが背中に乗ってた。これは間に合わない。触れるけど左手は切られるしかないけど。もうやるしか――。

スパァン!!ネコ、はじける。

「ハナ!!まッッたアナタはぁ!」

「ありがと!乗って!」

ネコはユウカちゃんがスティックを投げてたおしてくれた。あとはキリンだ。

「首上げてッ!」

どう見てもハンドルになってるツノ部分をつかみながら言うと、

「メンド……。」

ぐぅうっと持ち上がる。

「ふぅ…。あと何匹?」

「3匹だよ。ハヤブサ型と―。」

「オカピ型と、あともう1体、ちっちぇのがいンな。気をつけろよ。」

オカピって何で?

「キリン使えるし私がハヤブサの方やるね!ユウカちゃん、オカピともう1体お願い!」

台風が強くてそのもう1体がどこにいるかわかんないけどまちがってないはず!

「了解よハナ!ホンットに気を付けてね!!あなたも強くなったのは分かるけど!!」

ユウカちゃんがキリンから飛び降りながら、空中にスティックを作りながら注意してくる。まぁさっきのはたしかに…。イヤ、反省は後にしなきゃ。とにかく今はタカのやつだ!

―――――今は、どこ?

「フォンくん、ハヤブサのはどこ!?」

正面からなら攻撃してくるときに触れるはず!!

「―――上だっ!!」

とっさにキリンの首をハンドルそのものの部分でひねる。ボッ!!

さっきまでいたところに突風が走る。思ったより速い――!

これは、カウンターを狙うしかない!

「キリンさんお座り!動かないで!!」

頭の上に立つ。落ち着いて……。次は真下から来るから…。暗くても来る場所がわかるなら触れる……!!

大雨の音と、風の音、下から聞こえるユウカちゃんの戦う音―――ッ!

来た!やっぱり真下からだ!!

触れ――!?

「ハリネズミッ!?」

ハヤブサが、ハリネズミをつかんで来た!!そんなの!!

イヤ、いける!!

両手をかまえて、両方受け止める!!

「ハナ!!待っ!?」


ズグシャッッ!!!!

ハリネズミのトゲ、ハヤブサのクチバシがそれぞれの手のひらに穴を開ける。

「ぃあぁッ…!動くなァぁッッ!!」

痛い痛い痛い痛い痛いッ!!乗っていられない、キリンから落ちっ!痛い!

「イノシシ!キャッチ!!ううぅッ、あああぁ!!」

どふッッ!!

たぶん背中から落ちた……!いッ……!!痛ッ…………!

「ハナ!!ハナッッ!!大丈夫!?」

ユウカちゃんが走ってくる……。良かった……………。終わったみたい………。

「大丈夫……。あっ、でもちょっとコレは………。気絶させて………。」

あとは、真っ暗になって何も。わかんない。



 まぶたの上から真っ白な光がすけてくる。なんだか体の感覚のないような、ボンヤリしたままゆっくり目が覚めた。

「あっ、ハナ起きた?動かないで。今ハナの感覚を遮断して回復魔法をかけてるんだ。」

フォンくんがハナに向かって手をかざしながら顔だけこっち向けて話しかける。

「覚えてる?さっきの戦いで両手に大きな怪我したの。あんまり無茶はダメだよ。コレは一晩中かかるからね。」

顔だけ起こして見てみるとボロボロのスポンジみたいな左手とおっきな穴の空いた右手がある。こんな事あるんだなと、感覚がないからかな。なんだか他人事みたいに思えた。

「……ユウカちゃんの部屋?ユウカちゃんは?」

このきちょーめんな部屋はユウカちゃんのだ。でも、ベットの上のハナたちとふわふわ見守ってるトロンくんしかいない。ていうかベット、濡れちゃってるな……。

「ユウカは今家族に説明してるところだ。嬢ちゃんを見せるワケにゃいかねぇから窓から入れたんだが…、あんまり動かせねぇからな、泊めることにしたんだ。」

「そっか。申し訳ないな……。」

………………特にやることないな?

なにするでもなく、ていうかできないし、キョロキョロしてるとドアが開く。

「起きた…?動かないでね……。ハナのお母さんに今夜はウチに泊まるって伝えてくるから、待っててね。」

「ユウカちゃん、ごめんね。」

痛かったりはしないんだけど……、ユウカちゃんが思いつめたような顔しててあやまっておいた方がいいような気がして。

「いや……。いいのよ。ハナ、よく頑張ってたわ。あとでご飯も持ってくるからね。」

パタンっとユウカちゃんとトロンくんが出ていく。

もっとおこられると思ってたけど。まぁこれじゃあなぁ…。

「うん……。あとよろしくね。フォンくん。」

穴の開いた手から外が見える。大雨と窓をたたく風。雷まで光り始めた。


……疲れちゃった。



 

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