スカートの中

少覚ハジメ

愛情と嗜虐心

 滝口君も、佐藤君も、口では愛しているよと言っていたのに、私のこころを、私とのセックスほどには思ってくれなかった。身体が一番。私への思いが二番。どちらも私だけど、私が私だと思うのは主にこころの方だ。セックスは好きだけれど、自分の主体を思われないのは我慢できなかった。

 そんなわけで、滝口君とは高一の夏休み中に、佐藤君とは二学期の最後に別れた。佐藤君は別れを告げると、最後にもう一度ヤラせてくれといったので、思い切りひっぱたいてやったし、噂を女子に広めてやったので、今では最も人気のない男子の一人だ。


 冬休み、隣の家のヒロ君がちょくちょく遊びにくる。ヒロ君は小学五年生で、ご近所同士、家族ともども仲良くしている。お母さんゆずりのキレイな顔の男の子で、ちょっとクセのある色素の薄い、茶色い髪はやわらかく、笑顔がとてもかわいい。学校の、半端に大人になりかけた顔の男子より、よほどキレイでニキビもなくて、私はこの子がお気に入りだ。

 学校でも人気があるようで、バレンタインにはもらったチョコレートをおすそ分けしてもらったこともある。

 ヒロ君は、物心ついた頃から、私のことをユウキちゃんと親しみを込めて呼んでくれる。弟がいたらこんなふうかなとも思う。でもそろそろヒロ君も大きくなってきて、好きな子がいたって不思議じゃない。そう思うと、何だか癪な気もしたけれど、いるのかいないのかわからない、小学生の女の子に嫉妬するのもおかしな話に思えたが、何だろう、この独占欲みたいなもの。


「ヒロ君、好きな子いないの?私、アドバイスするよ?」

 ふと、そんなことを聞いてしまった。とりたてて意味があったわけでもない。世間話の感覚だ。お姉ちゃんぶりたいのかもしれない。

「いないかな?」

 とハッキリしない感じでヒロ君。

「なんで疑問系なの」

「いや、僕よくわかんなくて」

 心なしか、目があわない気もするが、そんなものかもしれないと思い、ちょっとホッとした。

「でも、モテそうだよね。チョコももらってくるし。顔イイし」そう言って、あらためてヒロ君の顔をながめる。

 本当にキレイな顔してる。ちょっといじめたくなったりもしそう。ヒロ君の彼女になったら自慢できるかな、と考えて、そんなバカなと打ち消す。


「ヒロ君、今日はどこか行ってきたの?」

 コタツの中で向かい合わせに座った私は、彼の服装がいつもよりちょっとだけ気を使っているっぽいのを見て聞いてみる。

「女子がさ、めんどくさいんだ」

「デート?」

「違うけど、六年生の女子が僕に会いたいって、わざわざ友達通してさ、駅まで行ってきた。疲れた」

 ヒロ君は、そうとうご機嫌が悪いらしい。

「デートじゃん。可愛くなかったの?」

「そんなことはないけど、僕より大きいし、やたら手を握ってくるし、一方的なんだよね」

「手、繋いだんだ」

「向こうから」

 ずいぶん押しの強い女の子もいたものだ。ヒロ君は、本当に困ったんだろうなって思う。困った顔も、困らせてやったぞって思うから、可愛い。相手がどうにもできなくて、困るのが楽しい。これは悪趣味かなと思うけれど、たぶんその女の子も私と同じことを思っている。女子の考えることは、だいたい同じ。男子もだろうけど。


「ヒロ君、友達と遊ばないの?」

 頻繁に訪ねてくるので、やや不思議に思って聞いてみた。コタツの中で、ヒロ君は首をすくめる。

「なんか、子供っぽいんだよね。スカートめくりとか」

 おやおや、と私は思う。優等生じゃないか。制服で出かけて、帰ってきてもそのままの私は、いま、短いスカートをはいている。興味はなさそうだけど。

「私もめくられたよ。小学生の頃」

「高校じゃ、そんな人いないでしょ?」

「中学にはもういなかったなあ」

 それを聞いて、ヒロ君は考え込む。アゴに指をあてて、ちょっとできすぎのポーズだと思う。クラスの女の子たちは、こんなキレイなヒロ君を見たことがあるのだろうか。私は、ただキレイだと思うだけ。そうかな?と、自問する。こういう姿を見ていると、何だか頭をなでたくなるし、膝枕してあげたくもなるけれど、やっぱり意地悪もしたくなる。何だろう。

 私は、いたずらしたい気分になって、コタツの下で、足を伸ばす。伸ばした足がヒロ君の足にあたる。

 ヒロ君は、最初は何だろうという顔をして、コタツ布団をめくった。私の足だと気づくと、少し考えてくすぐりはじめた。あん、と声をあげて、足をひっこめると同時に唇を尖らせて非難の目を向ける。するとヒロ君はおってきて、コタツの中から足を責める。

 そこまでするかと思いつつ、私は足を布団の外に出すと、それを追って勢い余った彼の頭が飛び出てくる。それが股間の近くに現れたものだから、私はちょっとキュッとなる。いやらしい私は、滝口君や、佐藤君がそこに執着したのを覚えている。男の子がそこに近づいたらどうされるのか、思い出してしまう。

 ヒロ君は、明らかにうろたえて、目に入らないように上を向こうとする。下着なんて、どうせたいしたものじゃない。あわてる男の子が新鮮で、可愛がってあげようという気分になる。顔が上を向いたとき、すかさず顔にスカートをふわりとかけてやった。

「あ」

 と声を上げてヒロ君が動かなくなる。

「どう?」

 動かなくなった男の子を見て、わかった気がする。滝口君も、佐藤君も、私を可愛がっていただけなんだって。男の子にとって、セックスというのは、嗜虐心を誘うに違いない。女の子に、もどかしい思いをさせて、じらして。こうやって、私もいじめて楽しんでいるけれど、けっきょくのところ、私も彼らとかわらない。可愛らしいものを、なでて、抱いて、全身で包んで。自分より弱いものを愛でるのは、気分がいい。ヒロ君はもう、身じろぎもしない。

 スカートを少し上げたら真っ赤になった男の子がいて、私は頭を抱き上げ、少しふるえているヒロ君をぎゅうっと胸に抱きしめる。

 この子はたぶん、私が好きにできるお人形だ。キレイな顔と、声変わりしていないあえぎ声が私のこころを刺激する。主体、なんてものはないと思った。誰もが見たいものを、そのものの主体だと思い、自分の主体と思うだけ。見たいものが合致すれば、それはたぶん相性がいいということなんだろう。

 私は、どんどん悪いことを考える。教えてはいけないことを、秘密を、全部ヒロ君に見せてあげたい。怖がるかも知れないけれど、それがやがて抗いがたくなる。最初は誰だって怖いし、女の子は痛い。何から教えよう?迷う。気持ちいいことを、順番に。もっととねだられるまで。きれいな声で、あえぐまで。そうしたら、ヒロ君を征服できる。

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