第7話 金色の蛇

   7.金色の蛇


 幼少期の、自分が小学校に上がって直ぐ頃の話です。僕には3つ下の妹がいるのですが、その日は母方の長野の実家に遊びに来ていました。

 

母方の実家は山の中の田舎にあり、コンビニまで何キロもある様な辺鄙な所にありました。

 今ではどこもかしこもボロの長屋ですが、所々に立派な装飾が施されている事に気付き、子どもながらに何の気無しに聞いてみると、先祖が昔この村の村長を勤めていた様な人物だったと教えられました。


 ある時、確か昼間だったと思うのですが、土間を上がって右手に行った所の部屋で妹と二人で遊んでいました。


 その部屋には仏壇が鎮座していて、そのすぐとなりの壁の上の方には神棚がありました。

僕は妹と遊びながら、なんとなく、仏壇の方を見てみました。

 すると――妙に鮮明に覚えているのですが――仏壇とその隣に据えられた剥き出しのローラーが付いたマッサージ機との間に20cm程の隙間があるのですが、その空間をにょろにょろと大きなものが、動いていくのです。


「あっ!」


 僕が大きな声を出して目を見張っていると、それに気付いた妹もそちらを驚いたように凝視する形になっていました。


 大きな声で隣の部屋にいた母親を呼びたかったのですが、謎の物体が蠢いて這っていく様子から目が離せませんでした。


 頭は見えませんでしたので、胴体から尻尾が消えていく所まで見ていました。縦の大きさは10cm程もあり、動く旅にその金色の体が蛍光灯の光で煌めいていました。


 蛇だ!


 ようやく思考が戻ってきて、大声で母親を呼びました。驚いた様子で直ぐに襖が開きましたので、母親に今あったことを妹と一緒になって話しました。


 話を聞いた母親は、直ぐそこにいた僕の祖父を呼びました。祖父は半信半疑な様子で物体とマッサージ機の背後を覗きましたが、大蛇の姿はなく、また蛇が入っていけるような穴もありませんでした。

 何より、仏壇もマッサージ機も壁につけられていて、その後ろに空間などそもそも無かったのです。

 必死になって真実を主張した僕たちでしたが、結局は信じてもらえませんでした。

 



 それから数十年経ち、祖父は死に、母の実家も取り壊されました。

 そしてすっかり社会人になった僕ですが、心霊やオカルトの類は一切信じない理系の思考となりました。


 心霊話をして怖がる友人を小馬鹿にしながら、僕はふと金色の蛇の事を思い出すことがあります。

 神や心霊などは信じてやいませんが、あれが何だったのか、今でも僕の中で答えの出ない唯一の経験です。しかし、僕の目にははっきりとそれが映り、今でも鮮明にその時の光景をありありと思い起こせるのですから、不思議に思います。

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