第2話
好きな人にチョコレートを渡す日。
昨今風化されつつあるというけれど、しかし2月14日を前にきちんとスーパーや百貨店にはチョコレートが並ぶ。
バレンタインデー。女性が意中の男性にチョコレートを渡すというのは、意外にも日本だけの風習のようだ。その変わった日本の風習に倣って名付けられたChocolate Matterというウイルスの名称が世界に名を轟かせるのは、そう遠くない未来の話である。
2020年2月14日を起点に日本から広がっていくChocolate Matterは、若い層に爆発的な感染力を誇る。唾液などではあまり感染せず、多くは粘膜を伴う接触、ほとんどの場合は性行為によって感染し、拡大する。このウイルスは非常に厄介で、ウイルスに感染したカップルは最期、全身から血を噴き出して死に至る。このウイルスに対する特効薬は未だ開発されておらず、死を避ける唯一の手段は、お互いにChocolate Matterに感染している場合、物理的な距離をとることのみである。対処法が意外にも簡単なように見えるこのウイルスだが、このウイルスが日本を中心に世界で猛威を振るっているのは、物理的な距離をとるというこの対処法が取りづらいためである。物理的な距離をとることができない理由、それは感染者同士が近づくことで発せられる快楽物質のためだ。この快楽物質に人々は惑わされ、死に至ってしまう。
この甘くて苦いウイルス、Chocolate Matterによって、若者を中心に多数の死者を出した。ウイルスに対するワクチン、抗生物質の精製が待たれる中、日本では、政府が打ち出した「濃厚接触」(性的な接触というワードを避けたくて使っている単語である)を避けることによって感染拡大を逃れようとしていた。
ちなみにバレンタインデーはリョウ君の誕生日でもあり、命日でもある。
私にとっても、バレンタインデーは甘くて苦い一日であった。
Chocolate Matterが発見される原因となったのは、2020年2月14日から約10か月後の12月24日、クリスマスイブの日に大量の若者が亡くなった事件だ。その日、日本中でたくさんの若者が全身から血を吹き出し倒れているのが見つかり、社会は混乱した。その後原因がそのウイルスであったことがわかり、現在に至る。
これは、そのウイルスによって亡くなった男女6人の記録であり、記憶である。
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