TO THE COMFORT.
もやし
Prologue
第1話
煙が上がっている。
思えばここ数日は怒涛の日々だった。体を休めることなく動かしつづけ、極めつけはここ、火葬場であるというのがなんとも皮肉なものだ。
格好の広場があったけれど、私は座ることができなかった。もうこころも体もズタボロであるはずなのに、はっきりとした意志を持って座ろうとしなかった。
「できるだけ顔を高くしたほうがいいよね。」
私は、深呼吸をする。深く、深く。どうすれば煙を体に取り込むことができるのか考える。背伸びをする。背伸びをしながら深呼吸をしている自分に少し笑いそうになる。しかしまた真剣に戻って、異物を体内に取り込むように、遠くのものを寄せ集めるように深呼吸をする。
息を取り込みすぎて、むせる。しかしむせてはいけない。せっかく取り込んだものが外に出て行ってしまう。
私は深呼吸をしながら、リョウ君のことを思う。リョウ君。リョウ君にはもう逢えないかもしれないけれど、君は死なない。人は死んだあとどうなるのか、っていう話はよく耳にする。輪廻転生だったり、天国に行ったりするって言うけれど、私はそうは思わない。人は死んだあと火葬され、燃焼という酸化反応で灰ととなり、煙になり、やがて世界に放たれる。
例えば、私がその煙や灰を取り込むことだってできるはずだ。そうすれば、君は私の中で生き続ける。
私は、青空に立ち上っていく煙を眺めながら、もう一度深呼吸をする。
私は、リョウ君を体に取り込むイメージをする。
リョウくん。私は、君を死なせないよ。
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