中央都市と義肢①
中央都市への訪問が必要と知った私は、途端に重くなった。
この国の入国審査はとにかく時間がかかる。中央都市とは名ばかりで、真面目に政治をやりだしたのはここ100年ほどの新しい国だ。未だに外国からの旅行客を受け入れる体制ができていない。砂だらけの大地にそびえる門の前は、いつだって行列ができている。
時間が経つにつれ次第に座り込む人が増え、行儀よく並んでいた列の人々も各々できることを考えて動き出した。自前のテントを広げて昼寝を始める者、持ち荷の多い商人は簡易商店を開き出し、荷を売って帰ってきた手ぶらの商人は列順が近い者同士で情報交換に躍起になっている。
私は足元で舞う砂煙りを避けたかったので、立ったままぼうっと本読み返したり、今夜の宿と食事のことを考えていた。周囲は一見して何者かわからない私に近寄りづらいのか、もしくはよく見れば気づく程度にある宝飾品の魔石に気づいてか、声をかけられることは稀だ。
乾いた日差しがしっとり暖かな夕日に変わった頃、真後ろからガチャガチャという金属がぶつかる音と、最後にカランと軽い音が聞こえた。振り返る前に足元に金属性のパーツが転がってくる。
つまんで軽く砂を払う。白いウィッチハットの端を掴んでもちあげなあがら、ようやく後ろの人物と目を合わせた。
「どうぞ」
「アワヷ…」
全身を鎧のような鋼鉄で覆われ、動くごとにさび付いた部分が鈍い音を立てている。脚は長く自分の背丈程はあり、その上に小さな頭が首を傾げている。
「ア……アリガトウ、#?€∈…」
「?……《こんにちは。ゲィルフ地方の方でしょう
か》」
《! ええ!そうですそうです!よくおわかりで》
よく見れば錆だけでなく、あちこちのパーツが欠けている。欠けた部分も中身は闇しか詰まっていないようだ。空洞の義足……いや体全体が義体なのだろうか。
《どちらのパーツですか。場所がわかればお付けします。えっと、あなたがよければですが》
《ありがとう。たぶん指先のどこかのものです》
《指先……》
改めて見ても、長い脚と頭しか見当たらない。20秒ほどして、首の下でわらわらと動いている箇所を見つけた。髭のように細い指が数十本。
《なるほど。これの"どれか"ですか》
《ごめんなさいね。落ち着かない時擦り合わせるのが癖になっていて…》
《あはは。わかります。目視では難しいので魔法で部品を確認しても?》
《まあ……魔法使い様でしたのね。これも何かのお導きですわ》
淡い青色の光が金属を照らす。
《ゼルィ゙ビアですわ》
《運び屋のラナ。魔法使い見習いです》
入国手続きを終え、2人とも国に入れた頃にはすっかり日も落ちていた。
《本当にありがとうざいました。ラナさん》
《いいえ大したことはしていません。それより義手の方は…》
《ええ。早めに修理に出しますわ。指先のパーツはよく無くしてしまうのですけれど、まさか凹んでいたなんて…》
“指先“のパーツはいくつかが紛失していた。私の足元に転がり落ちたのも、本体と接合部に負荷がかかりすぎて変形してしまっていた。
魔法で直すこともできるが、全体の劣化具合を思うと制作した職人に新調してもらったほうが良いだろう。
《義手義足は癖に合わせて作ったほうが良いでしょうから、主治医にも相談されてください。そちらの方が負担が軽くなると思いますので》
《そうですわね……ウム…二度手間になってしまうかしら》
《ご婦人はこれから用事に?》
《ええ。主人の義脚が壊れたから買いにね。ほら、ここは商業組合と提携しているでしょう?いつもは近くの支部で受け取っているのだけれど、直接買いにいった方が安上がりと聞いたものだから》
《ああ……》
中央都市に限っては結果的に郵送の方がいい。だが普通は入国に半日も待たされるなんてことは、実際に行った人しか知らない。
《商会はどちらに?》
《えっと仲介は確か……ああ、ネフェリスだわ》
入国目的を示すビザを差し出される。取引先の紋章は確かにネフェリス商会のものだ。
《これは偶然ですね。私はネフェリス商会の専属運び屋ですよ》
《あらまあ。……やだ違くてよ!商人じゃあるまいしわざわざ調べてきませんもの》
《ええ。私も商人ではありませんし、御婦人の事情を今知ったばかりですから。ただの運び屋です》
お婦人とはここで別れた。
こんな時間ではもう一般客用の窓口は閉まっているため1泊して、朝商品を受け取りに行くらしい。
私は一歩早く商会に行って、用事を済ませると適当な安宿で夜を明かした。
よつくにから風の便りです あまぎ(sab) @yurineko0317_levy
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