第104話 その頃、精神と肉の部屋では……。


 精神と肉の部屋でロココは目覚めた。


 頭痛が走る。ロココは炉心精神として、夢斗の内部にインストールされていたが、夢斗が亜空間転移してしまったことで、回線が切断。強制解除されてしまったのだ。


「ううう……」


 ゆっくり起き上がる。肉体に異常は見られないようだ。


「炉心精神はこの精神と肉の部屋……もといクォ・ヴァデスから夢斗さんと繋がっている。クォ・ヴァディスを中継すれば夢斗さんが近隣の迷宮に行っても回線は継続されるはずだったのに」


 考えられることは、夢斗がゲート向こう迷宮を超えてさらに遠くに行ってしまったことだった。


 冥種族神殿が最後に放ったゲートの亜空間転移により、炉心精神の回線範囲を超えてしまったのだ。


「どうしましょう……。とりあえずソシャゲを起動してログインボーナスを貰いましょう」


 ロココは精神と肉の部屋で、ノートPCを起動しソシャゲを始める。


「ログインボーナスをゲットしたらデイリーミッションを消化しなければ。ああ、どうしましょう。夢斗さんが遠くにいってしまった……」


 ロココはPCを操作し、デイリーミッションを消化する。


「もしかして。夢斗さんがいないなら課金をしても怒られないのでは?」


 邪悪な案が次々と思い浮かぶ。


 思えばロココの自堕落に対して、夢斗や真菜はよく諫めてきた。


「人の金でニートをする。こんな甘美な響きはありませんね」 


 冷蔵庫からコアップガラナと限定ポテチ(ハーブ味)を取り出す。コアップガラナはコーラのような飲み物だが、じゃがいもの糖分とガラナが含まれている。大地の恵みからうまれたドリンクなのだ。


「ごくっ。ごくっ。ぷっはぇぁ! げっぷぅ!」


 ロココは盛大に自堕落になった。


「ばり、ばり、ぼり……。際限ないポテチは美味いですね。はぁ~。クエストも攻略しましょうか」


 自堕落を満喫していると、精神と肉の部屋の扉が開いた。

 真菜とPPが帰ってきたのだ。


「ロコ、ちゃ……」


 真菜の眼には隈があった。


 疲労だけでなく、絶望の隈だった。


 真菜は全身ふらふらだ。PPが肩を支えていた。


「ロココぉ。どうしよう? 真菜が動かないんだよ」


「……こっちに来てください」


 ロココ、真菜、PPの順にソファに座る。


 ロココはソシャゲをプレイしながら、ポツポツと話し始める。


「夢斗さんはおそらく無事です」

「ぅん」


「もし夢斗さんが死んでいたなら、炉心精神である私にも〈消失〉のダメージが入ったはずです。ですが私が感じたのは『回線が途切れていく感覚』だけでした」

「ぅん……」


「アンテナがぶっつり切れるのではなく、アンテナが4,3,2,1という風に消えていったんです。騎士鎧装の方が脱出ポッドで夢斗さんを回収していたところまでは、私も意識を共有していましたし」

「う、ぅぅぅ……」


「おそらく夢斗さんは生きていますよ」


「でも、私が手を掴んでいれば……」


「真菜さんはがんばっていました。本来なら左腕は動かすこともできなかったはずです。私と機能回復訓練をして、PPとはアルテナの適応を行い、右腕だけでもとネクロマンサーの力を高めていました」


「うぐ、うぅぅ……」


「やれることはやっていたんですよ」


 PPが訝しげにロココを睨む。


「良いこと言ってるけどロココ、ずっとゲームやってるね」


「ぎくっ! そりゃ私だって動揺してますよ! でもこういうときじゃないと自堕落になれないじゃないですか」


「あー! 真菜。こいつひどい奴だよ! 夢斗がいなくなっちゃったのに」


「新参者が、私に刃向かうのですか? 私はいうなればこの部屋の最古参です。決定権は私にあります」


「よーし。じゃあ勝負だ!」


 ロココとPPが取っ組み合いを始める。


「ぴぎぃ!!」

「勝ったぞー!」


 ロココはPPに組み伏せられてしまった。


「一緒に夢斗を心配しろよ!」

「私は夢斗さんの炉心精神です。彼が望むのは、諦めず冷静にできることをすること」


「自堕落にソシャゲをやるのは違うだろ!」

「こ、これは……。いいんです。諦めずに冷静にできることをした結果です」


 ロココとPPが取っ組み合いをしていると、真菜が喉をえずかせた。


「あはっ。あはは! ははは!」


 不意のことに、ロココとPPは取っ組み合いをやめる。


「あはははははははっ! ひゃっはははっはははぁっ!」


「真菜さんが……」

「真菜が、壊れた?」


 落ち込んでいたと思ったら、真菜はいきなり大声で笑い出した。


「そうだよね。夢斗君なら、こういうときも淡々としてるに決まってる。激昂したり泣き出したり絶望したりなんかしない。諦めないで、最後になるまでやれることを見つけるんだよね」


 真菜はロココの飲んでいたコアップガラナと限定ポテチにかぶりつく。


「わ、私のガラナとポテチが……」


 真菜はさらに、壁の肉を素手で削り取り、口に含んだ。


 精神と肉の部屋の壁は、龍型コロニー(クォ・ヴァディス)の内臓であり、低温調理並みの安全性を誇る。


「タンパク質。脂質。炭水化物。エネルギー……!」


 PPも真菜を見て真似を始めた。


「僕も食べるぞ! ロココも肉食え!」


 PPがロココの口に肉を詰める。


「私が先輩ですよ! もがぁ!」

「うぇーい!」


 ひとしきり食べ物を食べて、風呂にも入らず横になった。

 今は戦闘の疲れをとにかく回復するのだ。


――――――――――――――――――――――――

スペース

ロココはいつもどおりでした!


これは夢斗に「いつも冷静でいる」って約束したからです。


でも再会したらたぶん一番喜ぶのこいつじゃないかな~

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