四章 それぞれの〈圧倒的成長〉
第75話 メイド喫茶〈ひよこ白銀城〉へ
科学世界の街をふたりの少女があるいている。
ひとりは白髪の髪をお団子ツインテールに結った少女パルパネオス。
もうひとりはは眼鏡をかけた赤髪の少女マルファビスだ。
パルパネオスは青のワンピースに淡緑のスカート姿。
マルファビスは白シャツにジーンズの出で立ちだった。
機巧鎧装を纏った状態では〈機巧世界侯爵〉となるふたりだが、鎧装を取り払った姿はなんの変哲もない少女である。
うまく科学世界の街に溶け込めているといえた。
「良かったのですか? ネオス卿」
「何がだ?」
パルパネオスは右手でケバブ、左手でクレープを食べている。口元にはケバブのソースと、ホイップクリームがついていた。
「せっかくあの少年と接触したのです。あんな捨て台詞じゃなく、もっと率直にいえばよかったではないですか」
「もぐ……ふぉぐ。だから何といえばよかったのだ?」
「『冥種族の侵攻に対して、機巧種族と科学世界で協力しましょう』って」
「我は奴を斬った。殺すつもりで斬ったのだ。できるわけがないだろう」
「そこは謝ればよかったんですよ。少年も迷宮探索者なんですから。わかってくれますよ」
「はぐ、もぐもぐ……うま。もぐ。我と貴殿では探索者の定義が違うようだな。我は探索者を一種の武人だと心得ている」
「武人ならば政治的駆け引きにも『清濁併せ呑む』のがいいかと思いますが」
「我の考えは違う。武人とは筋と筋。もっといえば刃と拳で語るものだ」
マルファビスは思わず空を仰いだ。
迷宮を通じて隣接する異世界に来てしまったというのに、パルパネオスには融通というものがない。
抜き身の刃のような性格は機巧世界侯爵としては秀でているかもしれないが、今の自分達は見知らぬ土地にいる根無し草だ。
パルパネオスがどこかで問題を起こしそうで、怖かった。
「はぁ。肝心なところで脳筋なんですから」
「もぐ……。何か言ったか?」
「私が支えるっていったんですよ。一度、本国へのゲートを試してみましょう」
マルファビスは高架下に入りキーストーンを起動。
ゲートが渦巻き、開きかける。
しかしすぐにゲートは収束してしまった。
「やはりゲートは安定しませんね。もうしばらく滞在が必要でしょう」
「機巧鎧装の収納は大丈夫なのか?」
「鎧装は問題ありません。いつでもゲートから取り出せます。ですが機巧世界への座標が乱れていて、いつ修復するかは見当も付きません。冥種族の侵攻の影響が思った以上に大きかったようですね」
「ならば、しばらくこちらの世界にいよう。我は何週間でも問題はない」
「ひとつだけ、大きな問題があります。変換した電子通貨が底を尽きそうです」
「通貨など本国から送って貰えば……。くっ。ゲートが乱れているんだったな」
「次のゲートの座標がみつかるまで、こちらの世界で仕事を見つけるしかありませんね」
「仕事、か……」
街を歩いていると、メイド服のお姉さんがビラを配っていた。
「我。あれをやりたい」
「ネオス卿?」
パルパネオスはお団子ツインテールを揺らし、メイド服のお姉さんに接近する。
「そこな娘。我にもよこすがいい」
「メイド喫茶〈ひよこ白銀城〉です♪ 中学生かな? ひよこ広報です。どうぞ~♪」
パルパネオスは〈ひよこ広報〉と呼ばれたビラを受け取る。
「うむ。可愛らしい絵と料理の写真で、店のアピールをするか。中々の情報戦術だ。及第点と言えるだろう」
「褒めてくれてありがと。夏休みの自由研究かな? 偉いねえ」
メイド服のお姉さんは大人な対応だった。
パルパネオスは脳内に起動した翻訳アプリで『なんとなく好意的』なのはわかったが、科学世界の文化や言葉のニュアンスについてはまだわからない。
『自由研究≒子供扱いされている』ことを理解できずにいた。
「うむ。我は偉いぞ。侯爵だからな。して、喫緊の事情ができたのでな。仕事を斡旋してくれぬか?」
「え、お仕事希望?」
メイド服のお姉さんは当然困惑した。
「ええと。ごめんね。中学生は働けないの。高校生なら、親御さんの許可があれば働けるけど」
ここでパルパネオスは子供扱いされていることを察する。
「もしや。我を子供扱いしているのか? 良い度胸だな! 我は機巧世界侯爵第19位の!……むぐぅ!」
マルファビスが背後から口を塞ぐ。
「すみませんね。こう見えて私たち大学生なんです」
「はぁ……」
「彼女は帰国子女なのでちょっと頭が……。じゃなくて言葉がおかしいですが、本当はがんばり屋なんですよ」
マルファビスの仲介でメイドさんはほっと息を吐いた。
「そうだったんですね。バイト希望ということでしたら、従業員は募集してます。面接に案内しますよ」
パルパネオスが早くもマルファビスの拘束から抜け出す。
身体能力が高いのがやっかいだった。
「我は面接を受ける側ではない。決めるのは我で……。むぎゅ!」
マルファビスはパルパネオスの口をとにかく塞ぐ。
「はいはい。行きますよネオス卿。面接は私のいうとおりにしましょうね」
「ふん。我が働くに値するか、しかとこの眼で見極めてやろう」
「あはは……」
メイドさんは苦笑いだった。
機巧種族のふたりはその日を生きるべく、メイド喫茶の面接に向かった。
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スペース
二部四章では、それぞれの試練ということで、夢斗サイドと機巧種族サイド双方で展開します。
「メイド服パルパネオス来たな!」と思って頂けたら、☆1でいいので☆評価&レビューなど宜しくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews
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