第76話 牧場エリアでの邂逅
夢斗達はビーチで倒した5体の冥淵獣を〈精神と肉の部屋・牧場エリア〉に収納した後、人目のないところでゲートを開き〈精神と肉の部屋〉へ向かった。
「牧場エリアにはロックされていた北の部屋から行けます」
ロココが廊下を先導して歩く。北の部屋は以前から開かずの間だと思っていたが、まさかこんな仕掛けがあるとは……。
ロココが扉に手をかけると『シュン』と音を立てて、自動ドアが開く。
ドアの向こうには一面の芝生や牧草地帯が広がっていた。
「わぁ! 緑だよ!」
真菜がはしゃいで走り出した。
「冥淵獣は見当たらないな」
夢斗も警戒しつつ歩き出す。
牧場エリアには芝生や牧草の他に、葦の長い草原や林、樹木なども自生していた。
冥淵獣は体長2メートルほどだが、隠れるだけの自然物もたくさんあるようだ。
「まず端っこまで行ってみようよ」
牧場エリアは解放されたばかりなので、その全貌はわからない。真菜のいうとおりエリア全体を回ってみる。
三人で歩いていると、ほどなくして端っこに辿り着いた。全体としては300メートル四方の牧場のようである。
「桃色の壁だね」
「これも〈キラキラ肉〉みたいだな」
牧場エリアの壁もまた、キラキラ肉でできているようだった。
ふと疑問が浮かぶ。
「芝生があるってことは、太陽があるってことだろ。でも天井は……」
見上げると天井も桃色だった。
つまり牧場エリアを囲む300メートル四方の壁と、天井までもがすべてキラキラ肉ということだ。
「せ、説明。し、しましょう。はぁ、はぁ……」
ロココが追いついてきて説明をしてくれる。
「はぁ、げほ、精神と肉、は……、はぁ。へや、は、……。おぇ……。ふぇ。太陽エネ、えふぅ……」
ロココの顔は真っ青だった。真菜に合わせて走ったため、体力を消耗してしまったのだろう。
エルフの見た目がゾンビのようになってしまっていた。
「ロコちゃん、大丈夫? 息して。息!」
「お、はへ、はぇえええ」
膝をついてうずくまってしまった。真菜がかけより背中をさする。
「水も、飲めよ。ゆっくりな」
夢斗が水筒を差し出す。
「あ、ありが……。ごく……。げっほぉ!」
ロココは水を飲むも、むせてしまった。
「ロコちゃん! 無理しないで。落ちついて!」
引きこもり生活が祟ったのか、ロココは走っただけで疲労困憊でどろどろにうずくまってしまった。
回復するまで五分待つと元気になったようだ。
「説明しましょう。この牧場エリアも、四方と天井の壁がキラキラ肉で囲まれています」
「ああ。なのに草が生えている」
「それは、キラキラ肉の輝きが太陽のエネルギーだからです」
新たな新事実が判明した。
あの輝きが太陽のエネルギーと考えれば納得がいく。
「だから健康的なのか。……待てよ。だとすれば」
夢斗はさらに考える。
「この〈精神と肉の部屋の外側〉が太陽に面していて、ソーラー施設のようなものが設置されているってことになる」
現実での太陽光パネルはまだ多くの改善点を残しているが、精神と肉の部屋は太陽エネルギーを高度なレベルで実用化しているということになる。
「どうなんでしょうね。ふふ……」
ロココはうっすらと微笑みを浮かべ、はぐらかした。
知っているのにあえて秘密にしているようだ。
「ふたりとも、見て!」
真菜が遠くを指さした。
「冥淵獣、いたよ!」
牧場の樹木の影に青い影があった。
水獣のようだ。真菜はさっそく近づいていく。
「怖くないよ~」
無防備に近づいていく真菜。
夢斗は前に出て、警戒をする。
「駄目だよ夢斗君。こういうのは警戒したら恐がらせるんだから」
「『万が一』だってあるだろ?」
「それでも夢斗君は後ろにいてよ。危なくなったらびゅん、ってでて助けてくれればいいから」
真菜に言われて、夢斗は後ろに控える。
真菜は本当に無防備に、水獣に近づいていった。
「やぁやぁ。お肉食べるかい?」
何気なくキラキラ肉を差し出す。
水獣は警戒しつつも、鼻を近づけた。
水獣をよくよく観察すると、身体はドラゴンめいていたが、頭部はカワウソのようだった。
大きなカワウソと考えると、少し可愛くみえてくる。
「お、いい食べっぷりだねえ」
やがて水獣は、真菜の差し出したキラキラ肉の塊をぱくりと食べた。
「よしよし」
真菜が水獣の鼻筋を撫でると、気持ちよさそうに眼を細めた。やがてごろんと横になる。
「あのときは支配しちゃってごめんね」
真菜は琴糸操術でコントロールしたことを気に病んでいたようだ。
「君たちはもう仲間だから。操作なんかしないからね」
真菜はやはりネクロマンサーとは思えないほど、人間ができていた。
彼女には動物と心を通わせる〈テイマー〉のような才能もあったようだ。
今度はロココが遠くで別の冥淵獣を発見する。
「炎獣がいました」
真菜が眼を輝かせた。
「よーし。このままの勢いで、全員と仲良くなろう!」
炎獣の元に向かうと草を食べていた。夢斗をみるなり、びくりと身体を震わせる。戦闘の恐怖が染みついているようだ。
「殴っちまって悪かったよ」
『ぐるる……』
他の冥淵獣も夢斗を警戒していたが、侵攻してきたのは彼らなので仕方ないことだ。
牧場エリアに入れなかったら迷宮魔獣として駆除されていただろうから、たとえ嫌われても、保護したことは間違いじゃないのだが……。
「やっぱり俺のことは苦手みたいだな」
冥淵獣を手なずける係は真菜に任せるのがいいだろう。
真菜は五体の冥淵獣に近づきながら、怪我の具合を確かめていた。
「青あざがあるくらいで、致命傷じゃないみたいだね。しばらくは警戒されるだろうけど。夢斗君の分は、私が可愛がるよ」
「ずるいなぁ。君だって〈琴糸操術〉で支配してた癖に」
「そりゃあ私だって、ネクロマンサーの力があるから、怖がらないでいられる。特殊な状況だってはわかってるよ。人間は熊とは暮らせないし」
「ああ。奴らは恐ろしいからな」
「でも、虎とかならワンチャンあるじゃない? もふもふだし。もふもふできるかできないかを、見極めていきたいかな」
いずれにしても時間は必要だろう。
牧場エリアを歩き回り、最終的に5体の冥淵獣を見つけた。
キラキラ肉を食べさせ、真菜が怪我の様子を見た。
5体の冥淵獣にはそれぞれ特徴があるようだった。
羽があり四肢があり尻尾がありと、身体は共通で竜めいている
大きな違いは頭部のつくりだった。
水獣:カワウソに似ている。丸くて長い。
炎獣:鳥のよう。不死鳥か。
雷獣:麒麟が近い。
陽光獣:猫か虎に似ている。
月光獣:兎のよう。耳が長い。
冥淵獣からは攻撃してくる気配はなかった。
このまま順調に仲良くなれるかもしれない。そう思った矢先だった。
雷獣の様子が、おかしくなる。
『ゲ、ゲェ』と雷獣の口から、何か黒いものが吐き出されたのだ。
「夢斗さん……。雷獣が、どうしましょう」
ロココが不安そうにみやる。
夢斗は警戒、真菜は心配しつつ、吐き出された黒いものをみやると……。
「あれ、ここは?」
雷獣から吐き出された黒いものがしゃべった。
黒い影は人の形をしていたが、顔がなかった。
「人か……?」
吐き出された黒い人影は、冥種族プラントとして肉体を受肉した存在。
雷獣と融合を果たしていた、PPだった。
――――――――――――――――――――――――――
用語解説
【精神と肉の部屋の見取り図(2)】
エントランス
:転送ゲートが玄関になっている。
リビング中央
:立体光学式タッチパネルがある。
東の部屋(体育館)
:50メートル四方、高さ10メートルの体育館。
:壁のボタンを押すと【sousuke】と呼ばれるアスレチックアトラクションがせりあがってくる。
西の部屋(武器貯蔵庫)
:ロココが武器召喚をする際は、この武器貯蔵庫とつながっている。今はナマクラしかない。
南の部屋(瞑想部屋)
:精神の部屋。一見すると何もない。用途は不明。
北の部屋 ← new!!
:ロックされていたが、牧場エリアだった。
――――――――――――――――――――――――――
スペース
〈精神と肉の部屋〉もスキルツリーのように解放されていくので、忘れた頃に進化したりします。sousukeをクリアすると驚愕の真実が……?
『カオナシ姫はもしかしてヒロイン……?』と思っていただいたら☆1でいいので☆評価、レビューなどよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます