第74話 牧場エリア解禁


 白髪の少女が去ってから、浅黒野が夢斗の肩を叩いた。


「今のヤツは女の子に見えたが只者じゃねえな。そんなヤツと知り合いなんて、あんた何者なんだ?」


「俺だってわからない。だが初めて会った気がしない少女だった」

「……まあ、いいさ。あんたが規格外だってことは十分わかった」


 浅黒野は、日焼け肌に金髪ピアスと柄が悪い人だったが、褒められて悪い気はしない。

 さらに浅黒野の取り巻きたちが、海の家から焼きそばやチキンを持ってきてくれた。


「まあ、食えよ」

「こんなにたくさん……。奢ってもらうなんて、悪いよ」


「俺じゃない。ここにいた皆からのお礼として、海の家の人がくれたんだよ。胸を張れよ。皆感謝しているんだからよぉ」


 浅黒野が夢斗の背中をぽんぽんと叩く。

 振り向くと、ビーチにいた市民が夢斗らを見て拍手をくれた。


『ありがとう!』

『感謝しかないぞ!』

『兄ちゃん、姉ちゃん、格好よかったぞ!』

『俺たちの海の家は守られた!』

『いっぱい食べてくれ~!』

『探索者、神!』

『配信しといたわ!』


 真菜は「どういたしまして~!」と手を振っていた。

 夢斗も釣られて、小さく手を振りかえす。


「俺らはジムに所属してるんだ。何かあったら力になるぜ。じゃあな」


 浅黒野は名刺を差し出した後、十人のとりまきと共に去って行った。

 明らかに柄が悪い人達だったが、一緒に戦ってくれたことで小さな信頼が生まれていた。


「こういうこともあるんだな」


 夢斗は爽やかな気持ちになっている。

 貰った焼きそばとチキンが温かい。


 ふと視界の端で、亜麻色の髪が揺れた。


「ん。ロココ?」


 ロココが亜麻色の髪をびしょ濡れにしながら、じゃぶじゃぶと海に入っていた。


「どうしたんだ?」

「夢斗さん。大変です。〈精神と肉の部屋〉の〈牧場エリア〉が解放されました」


「……どういうことだ?」


「ゲートを通じて、冥淵獣を〈牧場エリア〉に収納できるようになりました。役所の人が駆除に来る前に、冥淵獣を収納するなら、急いだほうがよさそうなのです」


「冥淵獣を、精神と肉の部屋に入れる?」


 ロココが言っていることが上手く飲み込めない。

 先程まで敵だった迷宮魔獣を自分のホームに入れるということになる。


「私は〈機能の解放〉の話しかできません。〈牧場エリア〉が解放され、『捕獲した敵を収納できるようになった』という事実しか話せません」


「まさか、精神と肉の部屋がこのタイミングで解放されるなんて……」

「どう行動するかは夢斗さんが決めてください」


 夢斗が迷っていると、真菜が焼きそばを啜りながら、


「いれちゃいなよ」


と、簡単に言ってのけた。


「待ってくれ! 俺たちの拠点で暴れだしたらどうなるか……」


 夢斗の不安に、ロココがぽつりと補足する。


「牧場エリアは300メートル四方の空間です。冥淵獣がいても問題はないかと」

「でかすぎるだろ。どこにそんなスペースが……」


 体育館エリアでも驚きだったが、さらに広大な牧場までついているという。


 精神と肉の部屋とはなんなのか?

 ますますわからなくなる。


 真菜が海に入り、倒れ伏す冥淵獣に触れた。


「いいじゃん。生かしてあげようよ。このまま役所が来たら駆除されちゃうよ。いざとなったら私の琴糸操術でコントロールすればいいんだからさ」


「真菜ってさ。ときどき優しいんだか残酷なんだかわからないよな」

「夢斗君が優しすぎるから、私が残酷になるんだよ」


 真菜の微笑みはどこか妖艶だ。


「で。ロコちゃんはどう思ってるの?」


 真菜がふいにロココに尋ねた。


「わ、私は精神と肉の部屋の管理人です。あくまで機能しか……」

「管理人ならロコちゃんが決めればいいじゃん」


「確かにそのとおりですが……」

「自分の気持ちに素直になるのも大事だよ?」


 真菜にそそのかされロココが拳を握った。

 意を決したように、夢斗に向き直る。

 

「夢斗さん。私は……。飼いたいです」

「冥淵獣を、飼う?! 世話するの絶対大変なんだぞ!」

「絶対、世話します!」


 ロココが炉心精神の力でゲートを起動した。

 空間に渦が生まれ、精神と肉の部屋〈牧場エリア〉へとアクセスされる。

 どうやら冥淵獣を飼う気は、満々らしい。


「駄目だ。ロココはきっと飽きて投げ出す」


「飽きません。私は投げ出さない女です!」

「君はこないだ堕落したばっかりだろ!」


 夢斗はロココに対しては、つい反射的に厳しくなってしまう。

 猫を飼うかどうかで争い合う親子のようになっていた。


「えっぐ……。ひぐ……。夢斗さんが私を虐めて……。ふぎゅぅ……」

「すぐバレる嘘泣きだなぁ、おい!」


 ロココと問答していると、真菜が倒れる冥淵獣の背中に乗り、琴糸操術を起動。


「〈琴糸操術〉。回収するよ」


 気絶している冥淵獣を糸で操作して、ゲートに搬入してしまった。


「真菜、まだ話は」

「もう回収しちゃったよ」


 ぺろりと舌をだす。


「ありがとうございます、真菜さん!」


 ロココが水着姿で真菜に抱きついた。


「ロコちゃんの願いだもんね。大丈夫、きっとなんとかなるよ」


 冥淵獣はゲートに吸い込まれ、精神と肉の部屋に収納された。

 済んだことは仕方が無い。


「ったくしょうがねえなぁ。っで、牧場エリアってのはどうなってるんだ?」

「ゲートを覗けばみれますよ」


 ロココがうきうきで夢斗の前でゲートを起動。

 牧場エリアの様子が渦の向こうに映る。

 名前のとおり、草の生えたのどかな風景が広がっていた。


「新たな〈精神と肉の部屋のエリア〉か。このエリアも使い方を学ばないとな」



 ――――【精神と肉の部屋の〈牧場エリア〉が解放された】――――



 またひとつ精神と肉の部屋の謎が増えたが、〈拠点〉として考えると、精神と肉の部屋はどこまでも頼もしいのだった。


――――――――――――――――――――――――――

スペース

精神と肉の部屋の秘密はこれからどんどん明かされていきます。そろそろsousukeも解禁するのでさらに成長するかも。


「精神と肉の部屋、どこまで解禁されるんだ!」と思って頂けたら☆1でいいので☆評価、レビューなど宜しくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews

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