第73話 白髪の少女との邂逅


 白髪のお団子ツインテールの少女が、夢斗を睨むようにみつめていた。


「なかなか良い闘いだったな」


 透き通るような声をビーチに響かせ、夢斗の眼前に歩いてくる。


「君は……?」

「知る必要はない。今日は忠告にきただけだ」


 可愛らしい容貌に反して少女のその眼の光は、見るものを射抜かんばかりに爛々と輝いていた。


 白髪の少女は、トロピカルジュースのカップを手に持っている。

 ストローに口をつけ、トロピカルジュースを一気に飲み干した。


「うまい。うまい。うま……。けふっ! げほ! おっほぉ!」


 途端、少女が激しくむせてしまう。


「うま、う……。げほ! うま……。ごっほぉ!」


 白髪の少女は、咽るあまりトロピカルジュースを吐き出してしまった。

 黄金のしずくが、砂浜に零れる。


「だ、大丈夫か! 背中、とんとんするか……?」


 水着姿の女性の背中を触るのは躊躇われたが、咽すぎて溺れることもあるだろう。


 夢斗が思わず駆け寄ろうとすると、赤髪の眼鏡の女性がいち早くかけつけて、白髪の少女の背中をさすった。


「お嬢様・・・。ご心配なく」

「問題はない。ありがとうマルファ……」


「今は偽名ですよ。お嬢様・・・

「そ、そうだったな。ありがとう。その。マルちゃん」


 このとき、白髪の少女(パルパネオスの本体)と赤髪眼鏡の女性(マルファビス)は、『夢斗たちには正体を明かさないように』と決めていた。


 ふたりは機巧世界から迷宮を通って科学世界へ流れ着いた身だ。


 身の上がバレることは基本的に避けたい。


『目立った行動は避けるべき』とマルファビスは忠告したのだが、パルパネオスは夢斗に、どうしても言いたいことがあると聞かなかった。


 折衷案として『お嬢様』『マルちゃん』と偽名を用いることにしたのだ。


「君は……。忠告ってのはどういうこと?」


 夢斗が不思議そうに問い返す。

 白髪の少女(パルパネオス)は、腕を組み尊大に胸を張った。


「我は侯爵ゆえ、侯爵の原理にて異界のものと接することにしている。ゆえに貴殿を褒めよう。よき闘いだった。無謀なところがあるのが、まだまだ未熟だがな」


 夢斗はきょとんとした。


(いったい、何者なんだ?)


 少女がパルパネオスであるなどわかるわけがなかったのだ。

 褒められたのでひとまず感謝だけしておく。


「ありがとう。君が無事なのが、何よりだよ」

「我の心配は無用」


 機巧鎧装を取ってしまえば普通の人間と変わらないとはいえ、【鎧装時身長220センチ】→【本体身長150センチ】である。


 白銀の騎士と白髪の少女を結びつけるには、あまりにギャップが激しすぎた。


「夢斗君、知り合い?」

「いや」


 真菜は一歩後ずさる。不思議と少女に脅威を感じていた。


(夢斗君は平気みたいだけど。オーラがすさまじい)


 真菜は白髪の少女から圧倒的な威厳を感じていた。背後では浅黒野もまた萎縮して固まっている。


 白髪の少女は見た目は可愛いのに。

 夢斗以外のすべての人間には、ひれ伏せと言わんばかりに圧を放っていた。


(この圧力、どこかで……)


 真菜は思い出そうとするも、記憶にもやがかかっている。

 

 少女はトロピカルジュースを吸いつつ、小さな素足でペタペタと波打ち際へ歩いていく。海岸に倒れ伏す冥淵獣を確認した。


「ふむ。みたところ冥淵獣は殺さなかったようだな。その甘さが今後どうでるか、だが」

「君は、何か知っているのか?」


 ここで夢斗は初めて、少女が只者ではないと悟る。


「今回侵攻をしてきたのは【十三番目の異世界〈冥種族〉】だ。そちらの世界では情報統制されているようだがな」

「お嬢様!」


 マルファビスが静止するも、パルパネオスは構わない。


「何故冥種族がこちらの世界へ侵攻してきたのかは、我らにもわからない。ここからは我の推察を話そう。彼らは【世界同士の融合】を望んでいるようだ」


「【冥種族】、【十三番目……】。【世界の融合】?」


 夢斗はもみ教授が話していたことを思い出す。

 この白髪の少女も、もみ教授の関係者なのか?


「もっとも冥種族どもは無作法だから戦争になりそうなのだがな。さしずめ異世界間戦争といったところか。ああ、心配はしなくてもいいぞ。

〈奈落の軍勢〉と〈冥種族迷宮〉は、つい先程、我が撃滅してやった。しばらくは侵攻はないだろう」


 白髪の少女はトロピカルジュースをずずずずと啜る。

 コップが空になると残念そうな顔になった。


「あ、ジュースぅ……」


 すぐさま背後にいた赤い髪の眼鏡の少女が、新しいトロピカルジュースを差し出す。ふたたびストローに口をつけると「やったぁ」と目を輝かせた。


「君は、いったい……」

「貴殿らはよく闘った。しばし休むがいい。ではまた会おう」


 白髪の少女はそれだけ言い残し、きびすを返した。

 赤髪の眼鏡の少女とともに去ってしまう。


 お団子髪のツインテールが海風に揺れ、やがて蜃気楼のように遠くに消えた。

 少女が去ってからは、やっと息を吐く。


「夢斗君……。あの殺気。ただものじゃないね」


 真菜も奇妙さを感じているようだ。ふとみやると、真菜の膝が震えていた。


「おかしいな。疲れてるのかな? 足が動かない」


 真菜は砂浜に膝をついて座り込んでしまう。


 疲労が限界に達したのか……。

 それとも、白髪の少女に恐怖を感じている?


 夢斗は震える真菜の手をとり、立ち上がらせる。


「冥淵獣との戦闘が終わって、力が抜けたんだろう」

「だといいけど……。なんだかあの気配。会ったことがある気がするの。誰だろう。思い出せそうなのに、思い出しちゃいけないような……」


「俺もすごいと思ったよ」

「でしょ? 女の子なのに只者じゃない」


「ああ。只者じゃないな。とくに発育が、悪魔的だった」

「夢斗くん?」


 白髪の少女は態度だけでなく、発育も規格外だった。

 真菜もロココもスタイルはいいが、少女は小柄なのに、ふたり以上に『水着で隠れている部分』が大きくて……。


「小さいのに、大きかった……げふ!」


 夢斗の腹筋に真菜の拳が炸裂する!


「信じられない! エッチ! ドスケベ!」


 ロココも物陰から出て来て、夢斗に詰め寄る。


「夢斗さんはドスケベだけじゃなくて、ロリコンでもあったのですね」

「心外だ! それにあの威厳じゃあ、ただのロリコンはひとたまりもないだろ!」


「夢斗さんなら、構わず食っちまいそうですが」

「ロココ。君、どんどんいけない言葉を、オボエルネ?」


「語彙力は重要です。それより、皆が話し込んでいる間に冥淵獣の撃破を役所に申請しておいたら、結構なお金になりましたし」

「本当か?」


 ロココがスマホを取り出し、討伐報酬を見せてくれた。


「夢斗君。これなら……」


 真奈と顔を見合わせ、笑顔になる、


「ああ。学費とか生活費にかなり余裕がでるぜ!」


 お金は貯まった。

 これだけあれば迷宮探索は一休みして、大学受験に専念できる。


 平穏な生活や、幸せに、手が届きそうだった。

 だが夢斗の中には胸騒ぎがある。


(あの少女のせいか。強くなることはやめられない気がする)


 白髪の少女と出会ったことで、【大きなうねり】に巻き込まれていくような……。

 奇妙な【予感】が芽生えたのだった。


――――――――――――――――――――――――――

スペース

GWで魔がさしたのでパルネオスの本体はロリ巨乳になりました。


『敵がどんどん可愛くなっていく』『敵が可愛いのはむしろあり!』と思って頂けたら☆1でいいので、☆評価、レビューなど宜しくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews

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