第39話 ロココの願い


『夢斗さん』

「すぅ」

『寝ましたか』


 ロココは夢斗の脳内で問いかける。

 炉心精神として彼の中にインストールされてはいるものの、〈意識同士のフィルター〉があるためか、心の中を覗き込むことはできない。


 ロココはあくまで、人の意識にインストールされたシステムにすぎず、心の深層まで同化しているわけでなかったのだ。

 だからこそ夢斗は、炉心精神をインストールした後でも、精神的に安定しているといえる。


『何故。でしょう。今の夢斗さんは幸せそうに見えます。彼女もまた……』


 夢斗と真菜は隣り合って寝ている。

〈上限値解放の暴走〉によって、夢斗はまだ大人になりきれなかったが、自信がついているようにも見えた。


 ロココは一人思う。


(もし私が人間だったら。夢斗さんを悲しませることはないのに)


 夢斗との経験を重ねることで、ロココもまた着実に『人間』を学んでいた。


(私は上限値解放炉心のシステム。インストールされ、夢斗さんの中で生まれた炉心精神にすぎない。なのに何故でしょう。システムである私が意思を持ち始めている。これはどういうことなのでしょう……)


 ロココは精神として成長をしている。

 だが人間の精神と肉体は相互に作用して成長をするものだ。

 ロココはシステムのままで精神を発達させることに限界を感じている。


 自分には『身体性』がない。だから『身体』がある夢斗を完全に理解することはできない。


 ロココはイメージする。もし人間をもっと理解できるなら……。

 『身体』というものも、いいものなのかもしれない。

 

(精神と肉の部屋の力を使えば私もあるいは……。ですが、まだふんぎりがつきません。技術的にも私の意思もまだ少し足りない)


 ロココは眠る夢斗の心と同期を果たし、イメージの変貌をとげてみる。

 夢斗とロココの間にある『意識のフィルター』。

 夢斗が眠っているときだけは、そのフィルターを少しだけ超えることができる。


(もし変貌するなら。夢斗さんの理想に)


 ロココは夢斗の心の深層に触れる。彼の抱いている好みの姿を探し出す。

 ロココなりの実験だった。


(まだ実体を得ることはできないようですね。もう少しだけ私も、子供のままでいさせてください。だから今はせめて、あなたに癒やしを……)


 やがてロココは『精神体としての姿』を、描き出す。

 亜麻色の髪。白く細い肢体。

 エルフのように尖った耳元。

 望むのは儚く玲瓏な美しさ……。


 そしてロココは眠っている夢斗の意識のフィルターを超える。 



 その夜、夢斗は夢をみる。

 亜麻色の髪の女の子の夢だった。

 耳は尖っていてエルフのよう。肌は白磁のようで四肢は繊細だった。


(夢斗さん。あなたの記憶から、あなたの好みの理想イデアを映し出しています)

(……)

(私ですよ。夢斗さん)

(……)


 夢の中でロココと夢斗は草原にいる。夢斗は夢の中の草原で仰向けにねている。

 ロココは寝ている夢斗を覗き込み、そっと抱擁する。


(起きてください。昼間は上限値解放の暴走をしてしまいました。負担をかけてしまい、すみません)

(……)


 夢斗は目覚めない。

 ロココが意識のフィルターを超えて夢斗に侵入を初めているからか、夢斗の意識とロココの意識が干渉をしているようだ。


(そうか。私はまた過ちを。夢斗さんに干渉をしているから目覚めないのですね。私はまた夢斗さんに迷惑を……)


 ロココは自信の『精神の発達』に困惑している。

 夢斗の意識の中にいるだけでは、きっと駄目なのだ。

 精神と肉体は相互に働き合っている。


 炉心精神として『情報の理解』はできても、肉体がなければ『感覚』を理解することはできない。


(いまはまだ。夢でも情報だけでも。いいです)


 ロココは精神体のまま、夢の中の夢斗を抱きしめる。


(この感覚は。いつか現実で……)


 そこで夢は途切れた。


 夢斗は良い夢をみた気がするが、目覚めてからも忘れてしまう。

 炉心精神ロココだけが、夢の中での包容を覚えていた。



――――――――――――――――――――――――

スペース

壮大なわけではないですが、軽く伏線回でした。

☆3を入れてくれる方が多くてありがたくかつ恐縮です。本当に☆1でいいのですが、評価、コメント頂きありがとうございます。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews







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