第21話 暗黒武術家(ダークネス・マーシャルアーツ)


 すさまじい光と闇の柱によるエネルギーの奔流、【力士が雨のごとく降り注ぐかのような重力の衝撃】を受けた後、夢斗は無職からのクラスチェンジを果たした。


 クラス名は――【暗黒武術家】――。


 如何なる力を持つのか、すべてが不明なクラスだった。


 クラスチェンジと同時に、ロココの力で加速した思考時間が、ぴったり終了する。


 0。


 前方ではスカージが拳を構えている。2秒の間に〈加速拳〉の構えに入っていた。

 身長2メートル20センチの体躯が大仰に腕を構え、背部のブースターがエンジンをうならせる。ふくらはぎのパイプの筋繊維が隆起する。


 スカージのガスマスクがうなる。


『ごしゅううぅう……』


 背中のブースターもまた、今までにないほどの轟音を立てていた。『ごうぅううん』と、ジェットエンジン音がなる。


 加速拳は金網を貫通するほどの威力だ。直撃すればただでは済まない。


(クラスチェンジはしたものの。防御力は変わっていない。致死的な状況は変わっていない)


 夢斗は〈暗黒武術家〉となり、攻撃性能は飛躍的に向上したが、防御とHPは無職の頃と変わらない。


(スカージもまた、これまでの攻防で俺の力を把握している。ならば次の攻撃で仕留めにくる)


 夢斗もまた、拳を構える。

 スカージの拳と比べて、半分ほどのサイズの小さな拳だ。

 脳裏には『回避をしろ』とささやく自分がいる。


(違う。スカージが俺の回避動作も折り込み済みならどうする? 俺が避けられないほどの、あるいは防御さえできない必殺の一撃を狙っているならば。避けてから反撃をするのは遅すぎる)


 回避が失敗すれば終わる。

 ならば答えは一つ。

 攻撃を回避するのではなく、【攻撃に攻撃をぶつける】。


 つまり【拳に拳をぶつける】。


 このとき夢斗は、自信に満ちていた。

 なんの実績もありはしない。

 だとしても、闘いに飛び込むことで、彼特有の戦闘センスが目覚め始めていた。


 いままでは臆病だった。

 弱いから。細いから。欠食気味だったから。足手まといだから……。


 ずっと誰かが闘うのをみていることしかできなかった。

 だからこそ誰よりも深く考え『想像』をする思考が身についている。


 ――もしも俺が、あの場所に立てていたら――


 荷物を持ちながら、ずっとみて考えていた。どの場面で何をするのが最適解かの、イメージがあった。


 今は筋トレによって臆病を脱出した。

 筋肉と共に『実行力』が身についている。


 『想像力』と『実行力』。

 このふたつが融合すれば『戦闘思考力』へと昇華する。


【想像をするだけの臆病】から、【抜け目ない想像力を持つ強者】へと変貌しつつあったのだ。


 夢斗は、パラメータ欄から技量(スキル)欄を開く。


「スキル展開」


【技量(スキル)】

:暗黒加速拳

:なし

:なし

:なし


 技は一個だけ、生まれている。

 技名は【暗黒加速拳】。奇しくもスカージと同じ性質の加速の技だった。


――――――――――――――――――――――――

スペース

テンポのために今回は短めです。


漆黒纏衣の発動時のイメージはT.M.revolutionの黒い紐みたいなやつかなって思いました(小並)。


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