第14話 ダイヤモンドマッスル解放


 今日も精神と肉の部屋で筋トレをする。特訓は続いていた。


【〈プロテクトマッスル〉が解放されました】


 なんでも、筋肉にもレベルがあるらしい。


【ビギナーマッスル】

【ハードマッスル】

【プロテクトマッスル】

【バーバリアンマッスル】

【ダイヤモンドマッスル】


 などの階級があるので、レベルを把握できるようだった。


「はぁ、はっ!」


 滝のような汗が流れるも、筋トレは続けた。

 精神と肉の部屋の本質は筋トレと壁肉の栄養だけではない。筋トレをすればするほど〈時間の貯金〉ができる。


 つまり時の流れという『絶対に制御不可能なもの』を獲得できる。

 これは成長を何倍にも加速させることを意味していた。


【バーバリアンマッスルが解放されました】


「はぁ、ふぅ」


 ロココが成果を報告してくれるおかげが、夢斗は順調に成長していた。


 まずは腹筋から重点的にやった。

 他の筋肉も【ビギナーマッスル】、【ハードマッスル】あたりまで獲得していたが、まず重要なのは胴体だと思ったのだ。


 最終段階【ダイヤモンドマッスル】を目指し腹筋を続ける。


「987、988」


『あと10回です。夢斗さん』


 ロココに応援されて、残りをがんばる。


「997、998、999」


 そして腹筋1000回の高みへと到達した。


【ダイヤモンドマッスルが解放されました】


「ふぅ~~」


 ピンク色の肉の床で夢斗は大の字に寝転ぶ。「あー。やっべ。効いてるわ。ふああぁぁ~」

 腹筋に心地よい痛みを感じる。腹筋だけは一日以内に1000回の条件を満たし、最大称号【ダイヤモンドマッスル】を獲得した。


 トータルでみれば道はまだまだ遠い。

 腹筋だけでなく、腕立てやスクワットにもそれぞれの称号が設定されている。

 とはいえ筋力のビフォー、アフターをみると、すさまじい成長を果たしているのがわかった。


【筋力】ビフォー → アフター


・上腕、前腕5 → 100【ビギナーマッスル】

・腹筋5 → 1000【ダイヤモンドマッスル】

・背筋5 → 300【ハードマッスル】

・大臀筋5 → 100【ビギナーマッスル】

・大胸筋5 → 300【ハードマッスル】


「腹筋だけに偏重するのはよくないけど。自信は付いたな」


 腹筋は割れ体幹は樹木のごとくどっしりしているが、なんだかバランスが悪い。この腹筋を基準に全身を鍛えていくのがいいだろう。


「もっと全身の総合的なパラメーターがみたいな。ロココ、できるか?」

『畏まりました』


 ロココが画面をぶぅんと展開する。


【全身能力】

・走力5

・投擲力5 

・柔軟性5

・跳躍力5 

・パルクール力5 


「ふむ。最初は必ず5から始めるんだな」

『訓練場はこちらになります』


 ごごごご、と〈精神と肉の部屋〉のおいしい肉の壁が開き、新たな道が現れる。


「新たな部屋が現れたのか?」


 道の向こうには小規模の体育館が広がっていた。

 30メートル四方、高さは5メートルほどの、ピンク色の壁の〈体育館〉だった。


「ホームトレーニングみたいな場所か」

『ここで【全身能力】をあげることができます』


「ありがたい話だ。やってみるか。……ん?」

 夢斗の脳裏の網膜投影にメッセージが現れる。


【迷宮座標が接近しています。挑戦しますか?】


 迷宮座標。それは〈ゲート〉の座標が送られてきたということだ。キーストーンに迷宮座標を打ち込めば、その座標の迷宮に侵入することができる。


「ロココ。この座標は知ってるのか?」

『存じません』


「精神と肉の部屋由来のクエストじゃないのか」

『精神と肉の部屋にそのような機能はありません。ここはあくまで拠点兼修行場です』


「ふむ。だが迷宮座標が、ランダムで送られてくるという話は聞いたことがある。高ランク帯の人のみ限定のはずだが。俺にもラッキーが回ってきたのかもしれない」


 誰かが夢斗に対して〈迷宮座標〉を送ってきたということだ。差出人は不明。怪しさ満点だがランダム送付の可能性も捨てきれない。


「報酬は?」


 迷宮の情報をみてみる。


【迷宮ランクC 捨てられた街】

【報酬:推定30万(未確定)】


 大したことがない迷宮だ。

 うまい話じゃないということは、逆に怪しくない。

 力を試すにはうってつけの場所だ。


「初仕事ってことにするか。今の俺ならCランク迷宮もいけるかもしれない」


 夢斗は即断即決でクエストを承諾した。


「力を試してみたい。〈体育館〉での修行は、また今度だ」

『私もお供します。炉心精神としてサポートします』

「ありがとう」


 夢斗とロココは〈精神と肉の部屋〉から境界領域のゲートを開き、迷宮探索に向かった。


 相変わらず武器は何もないし、今の自分の称号が何かもわからない。

 腹筋1000回出来るだけのただの人だ。

 それでも、挑戦したいと思えてしまう。


「頼むぜ、腹筋」


 8つに割れた腹筋をみやる(時折膨らむと10個になる)。

 その表面には白銀の騎士〈パルパネオス〉から受けた斬撃の傷が、縦一文字に刻まれている。


 一回り成長した筋力と、絶対的強者との闘いの記憶を頼りに、夢斗は迷宮に足を踏み入れた。


――――――――――――――――――――――――――

用語解説

迷宮座標

:キーストーンに打ち込む座標のこと。

:【○:○:○:○】とよっつの座標を打ち込むことで、キーストーンが反応。ゲートが開く。

:座標ごとに迷宮が仕分けされ、ランクが定められている。大迷宮時代では迷宮探索者だけでなく、迷宮座標を仕分ける仕事によっても成り立っている。

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スペース

圧倒的成長速度で最初の修行を終えました。

ダイヤモンドマッスルになったので迷宮ソロプレイが開始。本人も知らないところで究極へ至る道が開かれていきます。


おもしろい!と思っていただけたら、☆1でいいので☆評価、レビューなど宜しくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews



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