第三章【クラスチェンジ・リミットリバース】

第15話 筋トレ後のパラメータは……?


 夢斗は【Cランク迷宮 捨てられた街】に足を踏み入れた。


「ここが〈捨てられた街〉か。そのままの名前だ」


 眼前には廃墟の街が広がる。地方都市の寂れた商店街のようだった。

 遠くには時計台が見える。明治期の異国めいた町並みだ。


「人の気配がない。当然といえば当然か」


 空は薄暗く、異空間のように渦巻いている。

 街そのものが異空間に転送され隔絶されたことで〈迷宮入り〉を果たしたらしい。


「捨てられた世界から始まる、か。俺らしいぜ」


 どこまでいけるだろうか。手元にあるキーストーンをかざし帰りのゲートを確認する。いつでも離脱は可能なのでほどよいところで引き返すのがいいだろう。


「できるなら踏破をしたいけどな。ロココ、武器は出せるか?」

「夢斗さんのクラスに応じた武器が生成されます」

「そういえば、今の俺のクラスってなんなんだ? ずっと適職なしだったが」

「ステータスに応じてクラスは決定されます」


 ひとまず夢斗はステータスを開く。あれだけ筋トレをしたんだ。ちょっと楽しみだったが……。



京橋夢斗 レベル1

探索者ランク X

クラス【適職なし】

HP15 筋力7 守備7

魔力7  魔防7 俊敏7



 あれだけ筋トレしたのに、レベルは上がっていなかった。


「筋トレじゃ、駄目なのか。敵を倒さないと。でもいままでは倒すことさえできなかった。迷宮の適性がないからって言われていたが……」


「夢斗さん。私からの提案があります。〈情報の更新〉を行います」

「情報の更新?」


「迷宮に入る際は、〈本人の肉体〉と〈迷宮への適正値〉をベースにしてパラメータが造られます。現在のレベルは夢斗さんの以前の肉体から更新されていない可能性があります」


 夢斗の迷宮への適正値は圧倒的に脆弱だった。

 だが今は精神と肉の部屋で鍛えた筋肉がある。適正の低さを肉体で補えばレベルもあがるのかもしれない。


「やってくれ」

「更新を開始します」


 ロココが更新を行ってくれる。


「更新終了」


 夢斗の筋トレ後の肉体が、パラメータに反映された。



京橋夢斗 レベル20

探索者ランク X

HP60 攻撃33 防御55

魔力33  魔防33 俊敏50

技量 なし

称号〈精神強者〉、〈憑依炉の器〉



「レベルが一気にあがっている?」


『ランクXによるレベルアップ阻害ルールは、私が解除しておきました。これにより筋トレ後の肉体の反映が可能になりました』


「ロココ、君、そんなこともできるの?」

「〈上限値解放〉の力は、夢斗さんの世界〈科学世界〉の〈外側の力〉です。すべてとはいきませんが……。ルールへの干渉が可能な場合もあります」


「君はもしかして……。〈規格外〉なのか?」


 迷宮内部でのレベルがあがらないならば筋トレによって自分の力を高めようと考えていたが……。

 まさか前提条件まで塗り替わるとは。


 ロココの手を借りたのはあったが、これからは『努力が報われるようになった』ということだった。


「本当にありがとう。ロココ……」

「喜んでくれたなら、なによりです」


「でも腹筋ばかりしていたせいかパラメータは防御寄りだな。別のクラスになれればいいんだけど。選べるクラスってのはあるのか?」


「今のところ、検索には表示されません」

「ランクの変動は?」

「ランクもXのままです」

「レベルあがったけど、ランクはXのままなのか……」


『虚無君』なのは変わらない。そう思いきや、ロココが朗報をくれる。


「で、す、が。〈武器の召喚〉はできます。精神炉心である私の力によって、ゲートに干渉をしかけ簡単な〈召喚〉が可能になります。この〈召喚〉の応用で〈武器召喚〉が可能になります」


「武器召喚」

「私の機能を用いれば、無職のままで武器が使えるようになるということです」


 ロココの話し方は気を遣っているようだった。精神炉心の癖に、ときどき妙に人間的な奴である。


「まずは剣がいいな。刀タイプ」

「畏まりました」


 ぶぅん、夢斗の頭上にゲートが開き、ズズズと鞘付きの刀が現れる。


「おっと」


 落ちると思いきや、刀は空中でぶらんとぶら下がっていた。

 ゲートの中から、フクロウめいた生命体が現れ、爪で刀の柄を掴んでくれていたのだ。


「どうぞ」

「あ、ありがとう。君、フクロウみたいだけど。もしかしてロココなのか?」


「はい。迷宮ではあなたのサポートとして、アバターとして顕現できます。現在はフクロウ・アバターとして顕現しました」

「なんでフクロウ?」


「精神炉心は夢斗さんの無意識と繋がっています。無意識の要望から『夢斗さんはフクロウが好き』と出ました」

「確かに好きだよ。可愛いし……」


「お気に召したのでしたら、幸いです」


 フクロウ・アバターとなったロココは、殊勝に地面に着地する。


「肩に乗ってくれていいよ。ただし戦闘の時は、影に隠れてな」

「いいのですか? 感謝します」

「フクロウを肩に乗せるってのが、お洒落だからな」


 夢斗はフクロウ・アバターとなったロココを肩に乗せた。心地よい重さだ。


「ウィンドウで地図情報を映せます。いつでも活用してください」

「助かる」

「ゲートの使用もいつでも可能です。武器の出し入れや、迷宮逃走時はぜひゲートを活用ください」


 試しにゲートを何回か使用すると、斧や槍、弓など、武器の換装ができることがわかった。


(迷宮に入るためのキーストーンの力が、ロココに内臓されているということか? 召喚はわかるけど武器召喚ってのはどういう原理だろう)


 どこかの武器貯蔵庫にアクセスしているのだろうか。いずれにしても、このロココの〈ゲート能力〉はかなり重要そうだ。


 フクロウとなったロココも、なんだか相棒めいていて心強い。

 夢斗は刀をぎりりと握りしめる。

 右手に刀の重さ。左肩にはフクロウアバターのロココ。重さのバランスがとれて、良い感じだ。


「よし。行くか」

『はい』


 ひとりと一匹が、迷宮入りした街の中を、歩き出す。

 Cランク迷宮【捨てられた街】の探索が始まった。


――――――――――――――――――――――――――

スペース

レベルアップ阻害が解除されました。弓がしなるように、闘いの中で加速度的な成長を果たしていきます。


なんでもいいのでコメントくれると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828#reviews



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