第12話 超高速超再生
超高速超再生によって夢斗の全身はキラキラ輝いていた。輝きを帯びながら夢斗は肉を食べ続ける。
「輝いてるのはいいけどよぉ。寿命縮まったりしないのかな」
『問題ありません。受け入れて食事を続けてください』
気づけば、部屋の説明プログラムと会話していた。このプログラムちょっと心があるようだ。
「まぁ。もぐ。食べるけどさ……」
〈輝く壁の肉〉を、250グラム食べ終えた。 服をまくって輝きだした腹筋をみやる。
「ちょっと腹筋付いてきたのか」
肉をたべるとまた動きたくなってきた。
せっかく〈精神と肉の部屋〉に来たのだから、筋トレを試してみるのもいいだろう。
「クエストを頼む」
夢斗は〈上限解放炉心〉に指示する。
『かしこまりました』
やはりこの〈上限値解放炉心〉のシステムは、会話が成立するようだ。
光学映像が表示される。
【腹筋・腕立て・スクワット・背筋・後ろ腕立て・グーパー握力】などの筋トレメニューが浮かんだ。
「腹筋からやるか。ん? この〈カウンター〉ってのは?」
カウンターの文字をタップすると、数字がでてきた。一回腹筋するごとに、カウンターの数字が増えるようだ。
「なんだ。便利じゃないか」
超高速超再生をしたためか、するすると鍛えることができる。
精神と肉の部屋の桃色の床で、まずは腹筋を300回やった。
腹筋を中心に、腕立て、スクワット、背筋、後ろ腕立て、グーパー握力など合計6種類の筋トレを300回ずつこなした。
明らかに、かつての自分を凌駕していた。
超高速超再生によって、夢斗は三倍のエネルギーを出せるようになっていたのだ。
「はぁ、はっ、はぁ……。なんか甘いもの食べてから辛いものを食べるみたいに、筋肉を付けて動けるようになって、また筋肉をつけて……。サイクル回している感じがあるな」
回数だけなら【合計1800回】もの筋トレをこなした。キラキラ肉の力だろうか。今までの自分では考えられない運動量だ。
「さすがにお腹空いたな。また〈キラキラ肉〉食うか」
精神と肉の部屋の桃色の壁の肉を包丁で剥ぐ。フライパンを火で暖め、肉をのせる。焼いていると、かぐわしい匂いが漂ってくる。今度は300グラム。キラキラ肉を頬張る。
タンパク質にして約60グラムだ。
「さっきのと合わせてアスリート並みの量の肉ってことか」
アスリート並みと考えると、自分がすごくなった気がしてくる。
「いただきます」
頬張ると肉汁が弾けた。頬が落ちそうだ。
「んまふい!」
筋トレをし負荷をかけたためか、またも全身が喜ぶ。今度は腹筋だけじゃなく、両腕、ふとももも輝きだした。
「ふふ。また俺の全身が輝いている」
悪くない感覚だ。輝く肉を食べ体を輝かせると、疲れたためか眠くなってきた。
「肉だけ食べるってのも、どうかとおもうけど。光ってるなら大丈夫だろ」
ひとり呟くと、〈上限解放炉〉が脳内でめざとく応えてくれる。
『精神と肉の部屋の〈肉の壁〉は、完全栄養食になっています』
「完全栄養食ってカロリーメイトみたいなもん?」
『100グラムあたりの比較ではカロリーメイトの六倍の栄養価です』
「すごすぎね?」
夢斗はあおむけに寝転がりながら応える。
「ってか君さ。〈憑依炉心〉がデバイスの名前で、デバイスの種類が〈上限解放炉心〉なんだろ」
『はい。その認識で間違いありません』
「君自身の名前はないのか?」
『私自身ですか』
「なーんか。会話する相手みたくなってるからさ」
『炉心精神としての役割を果たすことは可能です。炉心精神の解放を始めますか?』
どうやら会話している相手は〈炉心精神〉というらしい。
「うん。なんとなく予想してたよ、〈解放〉します」
『畏まりました。名前はつけますか?』
システムに過ぎないとしても。
名前をつけれるとなると、人間味があってほっこりしてくる。
「じゃあ〈炉心〉からとって……」
夢斗はしばし考えた。
「【ロココ】ってのはどうだ?」
『畏まりました』
安直だが悪くない気がする。
「こういうのはノリが大事だからな。宜しくなロココ」
上限値解放炉によって夢斗の精神にインストールされたシステムは【ロココ】になった。
「ネーミングセンスに自信はないけど。そこまで悪くはないはずだよ。気に障るなら、もっと考えるけど」
『いえ。検索の結果、ネーミング・コンプライアンスには抵触していません』
「よくわからないけど……。嫌じゃないなら、良かった」
すさまじい筋トレと超高速超再生をしすぎたためか、夢斗の全身にどっと疲れが降臨した。
「今日は……。もう寝るよ。おやすみ。ありがとなロココ」
『はい。おやすみなさい……。夢斗さん』
おやすみ、と言われると、寂しさも少しだけ和らいでくる。
肉の壁に囲まれて夢斗は眠りについた。
このとき夢斗は〈精神と肉の部屋〉の神髄をまだ完全には把握していなかった。
次に目覚めたとき、彼は〈時間の貯金〉ができていることを知ることになる。
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用語解説
【炉心の用語整理】
〈機巧炉心〉:炉心の総称。メダルのような形をして、脳にインストールする機能を持つ。〈炉心〉と略称する場合もある。
〈憑依炉心〉:精神をインストールするタイプの機巧炉心。精神プログラムの他にも技能炉心や細胞炉心など、インストールするもので名前が異なる。技能+憑依や、細胞+技能など組み合わせがある。
〈上限値解放炉心〉
:夢斗が持ってい炉心の〈個別名〉。入っていたものは〈上限値解放のプログラム〉と〈その炉心精神〉。
ロココ
:上限値解放プログラムをサポートする炉心精神。夢斗が名付けたことでロココになった。
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