第11話 精神と肉の部屋
「ここは……?」
夢斗が起き上がると、周囲の空間が桃色に満ちていた。
部屋のすべての床、壁、天上までが桃色だった。
「ここが〈精神と肉の部屋〉って奴か。全体的にピンクだな。ラブホかよ」
行ったこと無いけど。
広さは十二畳ほどだった。
部屋の端には台所と調理器具が置いてある。
中心部の床には、デジタルのタッチパネルがあった。
タッチパネルに触れると、立体映像がぶぅんと浮かぶ。
『ようこそ。精神と肉の部屋へ。〈概要〉をタッチ』
言われるがままに立体映像の〈概要〉をタッチすると、さらに説明が浮かんだ。
『〈精神と肉の部屋〉は、筋肉の動きに連動して時間の流れがゆっくりになる部屋です。筋トレをしている間だけは、日々に追われることはなくなります。ゆっくりとした時間の中で、筋トレライフを満喫しましょう』
始めはうまく飲み込めない。
筋トレするほど時間がゆっくりになる……。
理解不能だが、とりあえず言葉のまま受け止める。
「脳みそ筋肉ってレベルじゃねえぞ」
毒づいてみても始まらない。
まずは部屋の仕様の確認からだ。
「この光学映像がメイン画面だよな。部屋の設定とかもできるのかな」
光学映像をタッチしていくと、様々なことがわかってくる。
部屋の温度を調節するエアコンの機能、湿度を調節する機能なども、この光学映像から行うらしい。
「脇にある台所も気になるな」
台所には新品のガスレンジがあった。
さらに桃色の壁にはフライパンと包丁が三つづつ掛けられている。
水道の蛇口をひねると水がでてきた。舐めてみるが嫌な感じはしない。天然水のようなミネラル豊富な味だった。
「健康には良さそうだが、料理をしろっていうのか? 食材がどこにあるか気になるが」
冷蔵庫はないので、当然食材はナシ。
だが光学映像の画像には【簡単料理はこちらから】のサムネイルが浮かんでいる。
クリックするとテキストが再生される。
【精神と肉の部屋、特性ステーキの作り方】
材料:〈壁の肉〉
① 壁の肉は、オリーブオイル相当の油分と、岩塩相当の塩分を含んでいます。そのまま焼いて召し上がれます。
② 表面を3分、強火でカリッとなるまで焼きます。3分したらひっくり返します。
③ ひっくり返したらフライパンの蓋を閉じ、弱火で5分焼いて待ちます。5分経ったら完成。お好みで数分蒸らすのもありです。
「レシピは親切だけど。肝心の食材はどこにあるんだ? 冷蔵庫はないわけだし……」
というか〈壁の肉〉って何?
部屋を歩き回っていると、夢斗はあることに気づく。
壁がぷるぷる震えているのである。
「壁が、揺れてる。〈壁の肉〉ってもしかして……」
試しに触ってみると壁はさらにぷるん、と揺れた。
「ま、さ、か……」
壁は柔らかく弾力がある。それでいてジューシーな壁だった。
間違いない。
この壁、肉だ。
精神と肉の部屋では、壁面がすべて肉でできていたのだ!
『これは〈キラキラ肉〉です』
憑依炉心が脳内で説明をくれた。
「キラキラ肉?」
『オリーブオイル相当の油分と、ミネラル豊富な塩分を含んだ肉です。そのまま焼くだけで食べることができます』
「この壁肉を食えってことかよ」
光学映像をみると【必要栄養素目安】と表示が浮かんでいた。
『人間は基本的に体重の千分の一のタンパク質を最低限必須としています。体重50キロの場合は、タンパク質は50グラム必要です。これは肉にして、250グラムの分量となります』
「肉250グラムって、結構な量だぞ……」
夢斗は小食なので驚いた。
『アスリートや迷宮探索者の場合は、さらにその2倍が最低限必要になります』
「そんな食えねえよ」
光学映像は会話のように、情報を流してくる。
『現代人のタンパク質不足は深刻です』
「……まぁ一理あるが。強い奴は肉を食っているもんな。じゃあベジタリアンはどうなるんだ。豆とか?」
『豆は肉以上にたんぱく質含有量が少ないので、より多くの量が必要となります』
「なるほどな。うーん。でも肉250グラムくらいなら、なんとか食えるか」
夢斗の体重は55キロだ。男にしてはかなり軽い。
お腹も空いてきたので、言われるがままに肉を食べることにする。
「壁の肉を、切ればいいのかな」
台所の高級そうな包丁で壁の肉を削ぐ。
〈壁の肉〉は、ぷるんととれた。
肉の表面はキラキラと輝いている。
「いくらキラキラ肉っていったって。肉ってこんな光るものか?」
光学映像が、データを映し出してくる。
【キラキラ肉、250グラム。タンパク質含有量55グラム】
「公式名称がキラキラ肉なのか……」
いままで栄養価などは気にしたことなど無かったので、数字で把握するのは少し楽しい。
「作ってみるか」
フライパンに、光る肉を乗せる。香ばしい肉の香りと共に、輝きが部屋中に満ちていく。
3分強火でかりかりに焼き、ひっくり返して5分、弱火でじっくり焼く。
念のため、2分蒸らしておく。
やがて輝く肉のステーキが完成した。
「うまそうだ」
よだれがじわりとでてくる。精神と肉の部屋に来る前にひととおりの筋トレをやっていたせいか、身体が肉を欲していた。
「……う、うまい!」
輝く肉のステーキにかぶりつくと、身体に栄養が染み渡ってきた。
「う、腕が……?」
食べると同時に腕が輝きだしてきた。
「今度はお腹?」
夢斗の腹筋もまた輝き出す。
「なんだ、これ……。ヤバいんじゃないか?!」
ビキビキと勃起するがごとく、腕やお腹の筋肉がどくんどくんと脈打っていた。
光学映像が説明をくれる。
『筋肉の超再生が始まっています。筋力トレーニング後30分以内にタンパク質をとると通常以上に肉体強化される現象です』
「聞いたことはあるけどさ。これはおかしいだろ?! ぐぅぅ……。全身が光っているんだけど!」
『はい。これはキラキラ肉を食べたものに起きる『超再生を超えた超再生』。いわば〈超高速超再生〉です』
超高速超再生が夢斗の全身を駆け巡る!
「ぬあああああああ!」
光る肉をたべたことで、夢斗の全身の筋肉がかつてない進化を果たそうとしていた。
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用語解説
精神と肉の部屋
:上限値解放炉心が内蔵していたゲートから転移できる亜空間。
:壁一面が肉に覆われている。
:筋トレをするたびに、時間がゆっくりになるようだ。
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スペース
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