第4話 白銀の騎士 


 虐殺。否、鏖殺だった。戦闘開始から三分で、6人の戦士が息絶えた。あり得ないスピードでの人体が砕け散っていた。


「は?」


 始め砕け散ったのは、最前線にいた重装騎士だ。直撃を受け盾と鎧ごと切り裂かれた。

 白銀の騎士の巨剣は目に見えないほど速く、その斬撃は防御を無効化した。

 斬撃が目に見える限りで一回、二回、三回、四回。

 だが実際は八回斬っている。

 白銀の騎士は斬撃の颶風となっていた。


 前衛の重装騎士はサイコロ状の豆腐のごとく、血しぶきとなって砕け散る。


「はあ?! ありえねえだろ」


 剛田が驚愕するももう遅い。一人目が死亡した5秒後、二人目も砕け散って死亡した。

 前衛職は、全員が多かれ少なかれ鎧を着込んでいる。職業が【勇者】であっても【聖騎士】でも、【重装騎士】ならばなおのこと、攻撃を耐えうるはずなのだ。


 だが白銀の騎士の斬撃は、すべての鎧を貫通した。豆腐を料理するように、鎧を着込んだ人間を両断していったのだ。

 圧倒的な戦力差だった。剛田は逃げの決断をする。


「こりゃ、逃げねえと。境界鍵(キーストーン)を出して……」


 剛田がキーストーンを出すも、門は開かない。


「【干渉】を受けてるってのかよ……。くっそ。お前、時間稼いでこい!」


 剛田は隣にいた滑川の背中を押す。


「いや、無理っすよ剛田さん。他の6人が瞬殺っすよ。俺じゃ3秒も持たない。俺が助けを呼んできますよ」


「ざっけんじゃねえ! リーダーは俺だろうが!」


 残るのは剛田と滑川、夢斗と真菜だけになった。

 白銀の騎士の乱舞が止まると、びしゃぁ、と血の雨が降り注ぐ。

 血の雨を浴びながら白銀の騎士が呟いた。


「リーダーニフサワシイ器デハ、、無イナ」


 白銀の騎士が剛田をみるも、剛田は目を合わせられない。


「逃げ、逃げ逃げ、逃げ逃げなきゃ!」


 剛田は鍾乳洞ホールの入り口へ引き返す。

 だが来た道の壁はふさがっている。


「くそぅ。何でだよ?! 畜生ぉぉ!! うおおぉおお! おらぁ!」


 剛田は扉に向けて剛戦士の技〈剛乱舞〉を使用。斧を打ち付けるも、扉は開かない。


「はぁ……はぁ……。なんだってんだよぉ。俺がなんで、何をしたっていうんだよ」 

「異界人ニハ、我ラの世界ノ位置ヲ、知ラレタクハナイ。口封ジトイウコトダ」


 残された四人が、白銀の騎士の意図を理解した。

 迷宮を通じて繋がる、隣の異世界の存在。異世界へ至る〈門〉とその番人。


 白銀の騎士は、この迷宮奥地に君臨する〈番人〉だったのだ。

 この迷宮の座標を他世界に知られることを、白銀の騎士は許さないようだった。


 いままで迷宮に入ったものも口封じで殺してきたのだろう。

 剛田のパーティは入ってはいけない迷宮に踏み入れてしまったのだ。


 剛田は膝をつき、懇願する。


「この場所は誰にも話さねえよ。話さねえから。もう、返してくれよ」

「……ムダダ。嘘ハキカナイ」

「本当だよ! 絶対! 約束するから!」

「私ハ、嘘ガワカル」


 白銀の騎士には嘘を見抜ける能力があった。誤魔化しは通用しないらしい。


「くっそがぁぁ……」


 夢斗は剛田のもとへ近づき、囁いた。


「剛田さん。俺が盾になります。あんたは一撃を打ち込んでください」

「虚無君……。君、あれと闘えっていうの? 人間をサイコロにしてたんだよ?」


 絶望を前にして、夢斗はなお冷静だった。


「逃げられないし話も通じない、どうにもならないなら。闘うしかないです。俺には攻撃力がないけど。幸いここには皆の荷物があります。これを盾にしてみます」


 夢斗は全身に押し付けられた荷物を持っている。ぶかぶかの柔らかい荷物ならば、あの斬撃を防げるかもしれない。


「この中で最も攻撃力のあるあなたが一撃を打ち込んであいつを倒す。生き延びる方法はこれしかない」

「いい奴だなぁ、虚無君……!」


 剛田に続き滑川も「忘れないよ、虚無君!!」と都合良く感謝してくる。


「……あんた達のためじゃない。飛鳥さんのためだ。あの人だけは逃がして貰う」


 夢斗は荷物を前に持ち、防御の姿勢となる。白銀の騎士の斬撃が鎧さえ穿つとしても、荷物には厚みがある。ステータス云々ではなく物理的な理由で、一撃は耐えれるはずだ。


「あいつが俺を切った隙に、斧と弓を打ち込んでください」

「「ありがとう虚無君!!」」


 剛田が斧を。滑川が弓を構える。真菜は顔面蒼白のまま、何もできずにいる。

 ヒーラの役目を果たす前に6人が瞬殺されたのだから、動揺も当然といえる。


 まずは白銀の騎士をどうにかしなければ。


「話ハ、済ンダカ?」


 白銀の騎士が、再び接近。


「来ました。今!」


 白銀の騎士が斬撃を繰り出す。

 夢斗は荷物を縦に、前にでる。


 近くで見ると、その剣はあまりに巨大な鉄塊のごとしだった。


 鉄塊じみた剣を軽々と振り回す白銀の騎士もまた、巨大だ。

 身長は2メートル20センチはあるだろうか。


 ここに鎧も加わるため、近くでみるとより大きな圧を感じる。

 鉄塊じみた大剣が、夢斗の眼前で振りかぶられる。


 あぁ、死んだ、と悟った。


「男は殺していい。女だけは」


 夢斗は白銀の騎士にもわかるように、簡潔に思いを伝える。


「女ダケハ、カ。ナルホド。お前ハ、嘘ツキデハナイ。勇気モ、アル」


 白銀の騎士は、夢斗の横を素通りした。


「え?」

「貴様ダケハ、会話ニアタイスル」


 白銀の騎士は背後で構えていた剛田と滑川に向かって、刃の乱舞を浴びせる。

 斬撃の領域を超えた、災害のような轟音。


「なん?」

「あぶ?」


 情けない声だけを残し、ふたりの人間はよっつの肉塊となる。


 ぼしゃぁぁ、と血と臓物が、盛大なしぶきとなった。

 鍾乳洞の深層ホールに、静寂と血の匂いが、降り注ぎ舞い降りる。


 夢斗が囮になって剛田の攻撃をあてるつもりが、最後の作戦も潰えてしまった。


 それでも夢斗は、白銀の騎士を見据える。


 膝は震えるが、目は逸らさない。『会話に値する』とこいつは言った。

 ならば精神的な敗北は、まだ、しない。


(できることをするしか、ないからな)


 虚無君だというなら、虚無君なりに。

 恐怖さえも、虚無でかき消してやろうじゃないか。


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メンタルは強いぞ……!

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