エピローグ

 同日20時50分、約5時間のフライトを経て帰還したレオンたちを迎えたのは、基地副司令であるバーナード・コリンズ大佐だった。

「長旅大変だったな。まずはゆっくり休んでくれ」

「感謝する」

 レオンはコリンズの握手に応じ、スキンヘッドの黒人はにこやかに笑う。

 レオンの後ろにいるジョーやケイゴたちにも挨拶し、15歳という若さに幾ばくかの戸惑いを見せたが、すぐに基地を案内し始めた。

 行く先は宿舎か司令執務室か、などと思っていたが、予想に反し、そこは人気のない格納庫の裏だった。

「率直に聞こう」

 コリンズは振り返り、先ほどとは打って変わって固めの表情で尋ねた。

「君たちは、元の世界に帰りたいかね?」

「……」

 その質問に対し、レオンは返答に詰まった。

 本音では帰りたい。しかし、『MUFの二等兵』などという立場を持たされている以上、如何に副司令の人格がいいとはいえ迂闊なことは言えないと思ったからだ。

「もちろんです」

 代わりに答えたのはケイゴだった。

「僕たちは、元の世界に帰らなければなりません。果たさなければならない使命のために」

「それに、機甲暦には愛する妻が待っているでござるよ」

 続いてジョーも元の世界への帰還を希求した。

 それらの発言を聞き、コリンズは改めてレオンに訊いた。

「レオン・ホワイト。君はどうだ?」

 レオンは一息置き、口を開く。

「俺の居場所はここではない。いるべき場所は、機甲暦だ」

 コリンズは「ふむ」と頷き、

「それが聞けて満足だ」

 張り詰めていた表情を崩した。

「この世界で異世界へと渡る方法といえば、『次元孔ディメンションポケット』だ。だが、現状地球側では次元孔を開ける方法がわかっていない。しかし、それを知っている、もしくはヒントを持っていそうな人間に心当たりがある」

「それは?」

「MUF横須賀基地司令、高遠慎哉少将。6年前の歴史的大敗『第四次オセアニア会戦』でハルクキャスターを捕縛し、後に第3世代ハルクレイダーの礎を作り上げ、3年前のオーストラリア奪還作戦『オペレーション・シャングリラ』を指揮し、成功させた男だ」

「その高遠慎哉という男は次元孔ディメンションポケットの開き方を知っていると?」

「直接面識はないが、優秀な指揮官であり、技術者でもあると聞く。少なくとも、この基地にいる誰よりも、その手の話に詳しいはずだ」

「なるほど…」

 どちらにしろ、ここにいてはただ便利な駒として使い潰されるだけだ。ならば、少しでも可能性のある方に賭ける方がいい。

 問題はどうやって高遠という男に接触するかだ。基地司令というからには、電話口は論外。直接会うにしてもコネも何もない状態では打つ手がない。

 考え込んでいるレオンの肩に、コリンズの手が置かれた。

「あまり悩みすぎるな。かなり激しい戦闘だったのだろう?まずは休むのが優先だ。先の作戦の報告は明日中に出してもらえば構わないからな」

 コリンズはそう言って立ち去った。

 後ろではアンディたちが「司令が嫌なやつな分、副司令はいい人だよな」とか話していたが、レオンはコリンズの言葉を反芻していた。

(横須賀……高遠、慎哉……)

 それが、当面の目標になるのだろうか。

 レオンは南半球の星空を見上げた。

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