第三章 密林の帝王

プロローグ

 西暦2122年11月9日0時12分、カンボジア上空、高度1万5千メートル――

 フランス軍大型輸送機A820Mが、真夜中のフライトを行っていた。その数は3機。

『シゴーニュ1より全シゴーニュ。降下600秒前だ。お客さんはお目覚めか?』

『こちらシゴーニュ2、問題ない』

『シゴーニュ3だ。楽しげなカードの最中だが、切りが良さそうなので大丈夫だろう』

 スピーカー越しに微かな笑い声が漏れた。

『シゴーニュ1よりアルザス1。降下開始まで残り600秒を切った。準備はどうか』

『シゴーニュ1、こちらアルザス1。全機戦闘ステータスでの起動を確認した。いつでも降りられる』

 貨物エリアには太めの胴体と手足の人型兵器――ネクスター社製第2.5世代ハルクレイダー、AMX77〝シュヴァル〟が4機ずつ積まれている。肩部装甲には『13e RDP』の文字と猛禽のマーキングが施され、黒く塗装された装甲は暗色迷彩の効果を目的としている。

 〝シュヴァル〟は半年前にロールアウトされたフランス純正のハルクレイダーである。MUFが開発した2.5世代機〝ケフェウス〟と同じくアクチュエータとして油圧シリンダーと特定電圧型擬似筋肉繊維V I M Fのハイブリッド型を採用しているが、装甲やフレームの金属使用率を下げることで運動性を向上させた機体となっている。

『アルザス1より全ユニット。長旅で退屈だろうが、それももうすぐだ。順調に進めば2時間で作戦終了、5時間後には熱いシャワーとワインが待っている』

『中隊長、自分はラトゥールでないと体が受け付けません』

『自分はマルゴーでないとアレルギーが出てしまうのでご配慮いだだければ』

『莫迦野郎、俺を破産させる気か』

 パイロットたちがどっと噴き出した。

『こちらシゴーニュ1。ルーベリント大尉、日本産を用意してくれるとありがたい。ハッカイサンがいいな』

『お前まで莫迦を言うな。日本は逆方向だし、飲みたければお前の自腹だ』

 機内は賑やかなムードに包まれていた。とても数分後には人型兵器による高高度降下作戦が行われるなどとは思えないほどだ。

『さて、無駄話はそこまでだ。降下まであと90だ。全機降下ユニットの最終チェック実行。シゴーニュ1、ハッチを開放しろ』

『シゴーニュ1了解。カーゴハッチ開放。神のご加護があらんことを』

『感謝する。全機、降下開始』

『アルザス6、降下開始』『アルザス9、降下!』『アルザス12、降下します』

 次々と10.5メートルの人型機動兵器が輸送機後部のハッチから飛び出し、降下していく。

 フィデル・ルーベリント大尉率いるフランス陸軍第13竜騎兵連隊第5中隊は、東南アジアの密林へと降下し、闇夜に消えていった。

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