第6話 動く巨砲
午前1時20分――
AAA拠点には、無数の残骸が転がっていた。全て撃墜されたヘリや自走対空車輌、ハルクレイダーだ。
そして、最後の1機である〝カシオペア〟の両腕が、〝姫鶴一文字〟の双剣によって切り落とされ、戦闘不能となった。
既に3機のガーディアンと3機のミーレスは集結を果たし、司令部(と言っても格納庫群の一角にある2階建てのプレハブ)の目前80メートルに立っていた。
『こちらはMUFだ。すぐに武装を解除しろ』
レオンは降伏勧告を行う。
『大人しく投降しろ。繰り返す――』
呼びかけの最中、異変は起こった。
100メートル離れた格納庫の1つが吹っ飛んだ。正面ゲートの前半分ごと巻き込んで。
その中から、巨体がズシン、と歩み出る。黒く細長いボディは30メートルほどで、高さと横幅は15メートルほどある。巨大な蒸気機関車を思わせる風貌だが、足回りは車輪ではなく短く太い足だった。幾対も並んでいるので、まるでムカデを思わせた。
XM990 自走式マルチプルカノン。
イグドラシル連合軍の上陸阻止のためにMUFが開発した機体で、粒子砲・電磁加速砲・180ミリ砲をガトリング砲のように三砲身並べている。本体はほぼ砲身であり、砲身に移動用の足をつけたものというのが正しい。水際でハルクキャスターの侵攻を止める為に開発されたが、そのコストと整備性を無視した構造から、2機のみが生産され、お蔵入りになっていたものだった。覆帯ではなく足がついているのは関節のない30メートルの胴体で戦闘機動するためらしいが、真実は不明のままだ。
機体正面、その鼻っ柱に空けられた穴から、光が漏れる。
中性粒子加速砲だ。
「散開!」
ライトニング級4機と〝姫鶴一文字〟はすぐに飛び退った。〝青龍王〟もすぐに他の機体に倣うが、ムカデのような脚部が動き、〝青龍王〟の回避方向へと発射体勢のまま動き出した。
〝青龍王〟が着地したと同時、砲口の光が臨界に達した。
「くっ、ホノ――」
「わかってる!」
ケイゴが言い終わるより先に、ホノカが防御方陣を展開した。
それと同時、夜を照らす白い光が〝青龍王〟の防御方陣と衝突した。
「術式負荷増大!五行器の出力に影響が出るぞ!」
マコトの叫びに、ケイゴとホノカは何も応えられない。防御していなければ、機体が焼かれかねないほどの出力の粒子砲撃だ。リソースを全て防御に回さなければ耐え切れない。
その状況下、左右から回り込むガーディアンがあった。
〝ロードナイト〟と〝ナイト〟は左周り、〝姫鶴一文字〟が右周りに機動砲台へと向かう。これらは全て白兵装備のみを持つ機体だ。ケイゴたちを囮にする形になったが、砲撃仕様機に対して距離を詰めて近接戦闘を仕掛けるのは基本セオリーである。
5機は一気に距離を詰め、すでに彼我の距離は50メートルを切っている。
「一刀両断にするでござる!―――なんとっ!?」
意気込むジョーに応じるように、敵機に変化があった。
粒子砲撃はまだ継続中である。
機体側部のパーツ、その上面がバタバタと開き、
更に発射管とは別の側面装甲から左右8基ずつ短い砲身が伸びてきた。
ズダダダダダダダダダダダダダダ―――――――
幾重奏と奏でられる砲撃音が、短距離地対地ミサイルからの回避を考えていたレオンたちに襲い掛かる。
ライトニング級4機はワイヤーランチャーとターボローラーを駆使して緩急をつけた回避機動を行う。高G機動に体が悲鳴を上げるが、これを乗り切らなければ体が20ミリ弾によってミンチになる。ブラックアウトやレッドアウトに耐えながらの機動が、唯一この局面で生き残るための手段なのだ。砲弾が掠め、装甲を削る。決定打は受けていないが、〝ロードナイト〟の装甲が強制修復されるたびに、レオンの口内に鉄臭さが広がる。
(マズイな。機体よりも俺の体の方が壊れかねん――)
〝姫鶴一文字〟も限界に近い回避機動を取っていた。驚異的なのは直撃弾を双剣で逸らしていることだ。ミサイルも切り伏せ、ダメージを最小限に止めている。
全員、まだ生きている。
しかし、無慈悲にも自走式マルチプルキャノンはミサイルの第二射目展開とCIWSの装弾を行っている。
この場のリンケージたちは示し合わせるでもなく結論付けた。
(((最大火力を集中して打ち込む!)))
爆炎の中から、粒子砲を耐え切った〝青龍王〟が飛び出す。
「グランド、ブゥゥゥメランッ!!」
巨大な刃を投げ放ち、大質量が敵機へ襲い掛かる。
CIWSがそれを正確に迎え撃つ。勢いは減衰されるが、巨大ブーメランは砲身に激突し、その構造を歪ませた。
その結果を見届けることなく、〝ナイト〟3機は陽動のためにCIWSの前に飛び出していく。いつもと変わらない、レオンがトドメを刺す為の、僅かな時間稼ぎだった。
「上杉!」
「応!でござるよ!」
〝姫鶴一文字〟は一刀を上段に構えた。
「一刀両断にするでござる!」
それは誇張でも意気込みでもない。単純な『予告』だった。
どういう理屈か、刃が巨大化し、その長さを100メートルに届かんばなりに延長させた。自身の6倍近い巨大刀を、
「チェストォォォォォォォォォ ――――――ッッッ!!」
自走砲台へ振り下ろした。
同時に、レオンも動いた。
「使えということか…」
先ほどからコンソールに自己主張を続けている『異形のハルバード』が、無理矢理機体出力を上げていた。できればそれに応えたくはない。しかし、出力が臨界に達そうとしている状況を放置もできない。
「期待外れは許さんぞ」
〝ロードナイト〟は異形のハルバード――〝ノートゥング〟を後ろ手に構える。腕をリングのように包む赤黒い淀みが生まれ、足許にも赤黒い瘴気のような靄が渦を巻いて発生した。
『The God Attack Bloody Fafnir』
コンソール画面に表示された文字、それを確認すると同時、レオンは敵を改めて見据えた。
「貴様の力、見せてみろ!」
〝ノートゥング〟に向けて言い放ち、異形のハルバードが前方へ突き出される。
〝ロードナイト〟以上の直径の、赤黒い不気味な砲撃が敵自走砲へと放たれた。
砲撃に飲み込まれる自走砲台は、その表面をボロボロと劣化させていく。
そこへ、巨大刀が振り下ろされ、宣言通り、真っ二つに両断された。
同日未明、パースから派遣されたオーストラリア陸軍陸戦部隊がAAA構成員を捕縛し、AAA拠点は制圧された。
リンケージたちは陸戦部隊展開後、すぐにその場を去った。規格外の人型兵器が多数展開された部隊の説明が面倒であったし、ニューカッスルからも同様の指示が出たためだ。
ライナスは満足げに「ワシの手腕をもってすれば」と頷いていた。ケイゴたちのことを説明しても「いいだろう。貴様ら同様、歓迎する」と言っていた。
(それが良いか悪いかは別だがな)
レオンは心の中で溜め息を吐きながら、一路パースへと向かうように仲間たちへ指示を出した。
幸いにして、ニューカッスルの滑走路補修が完了し、空路を使っての移動が可能になったためであった。
レオンたちにとって、陸路で帰らなくてもいいというのは、実は大きな朗報であったのだが、ジョーやケイゴたちには知る由もなかった。
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