第3話 新たな出会い

 陸路での移動は時間がかかる。

 オーストラリア大陸は東西に4000キロメートル近くの長さがあり、都市部の多くは東海岸沿いに多く分布している。キャンベラやメルボルン、ブリスベンなどが有名だ。西海岸で大都市といえばパースがあるが、有名な都市部は変わらず海岸部に多い。中央部は多くの自然公園が点々と存在し、起伏の多くない大陸ということもあり、車窓の景色は地平線を臨めることが多い。

「「「暇だ」」」「あぶ~」

 はっきり言って、ライトニング乗りの4人はドライブに飽きていた。

 レイクエア国立公園などの巨大な湖が多く存在する南オーストラリア州をあと半日で抜けるだろうと思っていた、出発から3日目のことであった。

 別に今日になって連続ドライブに疲れ、飽きたわけではない。

 西オーストラリア州ノースマンという大陸南西部の街が目的地なのだが、片道3500キロメートルの道のりを延々と自動車での移動である。通常ならば空路で西海岸のパースまで移動するのだが、「滑走路が使えない」と一蹴された。シドニーの空港を利用するという手段もあったが、シドニーやキャンベラの国際空港にはニューカッスル基地支援の物資補給路の一路となっている。そこにわざわざねじ込むのを嫌ったようだった。

「まったく、けち臭いオヤジですね、レオンさん」

「今は耐えろ」

 ハンドルを握って愚痴るアンディに対し、レオンは腕を組んでまっすぐに伸びる道路の先を見やる。

「まさか、あのハゲの飼い犬になるつもりじゃないですよね?」

「それこそまさかだ。機甲暦に戻る方法を見つけるまでの仮宿だ。手っ取り早いのはもう一度あの発光現象による転移を起こすことだが、故意に起こすことは難しいようだ。この世界の戦史を知っているか?」

「確か、30年だかもうちょい前に、次元の扉が開いて、異世界のイグドラシルとこの地球が繋がって、トラブルが起きて開戦した…でしたっけ」

「ああ。なんでも『フィヨルム事件』という地球人特使がイグドラシルで殺害されたことを発端に、元々燻っていた排他感情や畏怖が膨張したんだそうだ」

「きっかけ自体はどこにでもある話ですが、どうせキナ臭いモンなんでしょうね」

「そうだろうが、今はどうでもいい。問題は、その開戦から数年後、一度その次元の扉、地球で『次元孔ディメンションポケット』と呼ばれるものが閉じた後、更に数年後に再び開き、それに合わせてイグドラシル連合軍が再度侵攻を開始した、という点だ」

「それが、何か?」

「最初の『次元孔ディメンションポケット』のきっかけは不明だ。自然現象なのか、人為的なものなのか。だが、十中八九、再度『次元孔』を開いたのはイグドラシル側だ」

「なんで言い切れるんですか?」

「タイミングが良すぎる。もし最初の『次元孔』がイグドラシル側の意図しないものだとしたら、『次元孔』が閉じたのもまた意図しないものである可能性が高い。それが閉じたのならば、何年もの間開くかどうかもわからない異次元への門に対して大部隊を即応待機など有り得ない。再び『次元孔』が開かれることを予想していなければ、な」

 軍とはそこにあるだけで大量の金を消費するものである。非生産的である軍事行動は、数年単位で「あるかどうかもわからない」侵攻のために展開などできない。それは国の経済の疲弊に直結するからだ。

 だが、もし予め『次元孔』の展開時期と場所がわかっており、それに合わせて出撃態勢を整えていたのならば、話は別だ。経済的負担は最低限で済み、地球側にとっては「もう戦争のしようもない」と思っていた矢先の奇襲となる。異次元だなんだとSFが現実になってしまってから平穏が戻ってきたのだ。再び『次元孔』が開くなどというリスクは現実逃避によって忘れ去られていたから余計に効果的な奇襲となったはずだ。

「となると、イグドラシルに接触する必要があるってことですか?」

「必ずしもそうとは限らない。わざわざ『残党狩り』などやっているくらいだ。地球にいるイグドラシル人に接触しても、得られる情報は限られる。この30年、地球側もただ黙って指をくわえていたわけではないはずだ。『次元孔』に関する研究も間違いなくされていると見るべきだろう。MUFはその役目も負っているはずだからな」

「でも、あのライナスってオヤジは絶対何も知らないですよ」

「だろうな。傲慢と虚勢が人の皮を被っているような男のようだし、その辺りは期待できない。だが、現状で敵にも回したくない」

「確かに。師団・軍団規模の敵と何度もドンパチやる自信はないですね」

「下手したら全世界を敵に回しかねない。多国籍統合軍は世界規模の組織だ。後ろ楯としては頼もしいが、敵に回せば軍事的・社会的に抹殺されるだろう。もっと『知っている』人間への足がかりにするためにも、今は耐えろ。さすがに全世界の基地があの男のような者ばかりではないだろうからな」

(もっとも、切れ者過ぎても厄介だがな)

 レオンとアンディはしばらく話し込んだ。

 その矢先である。

 進行方向右手の平原が輝き出した。何の前触れもなく、突然に。

「止めろ!」

 珍しく切羽詰ったレオンの声に、アンディは慌てて急ブレーキを踏んだ。

「あぶ?」

 それに遅れて後方を走っていたアブもトレーラーを停車させた。

 時刻は14時15分。

 発光しているのは恐らく1キロほど先だ。恐らくと付け足したのは、光が一瞬の出来事であったためだ。それでも1キロという距離に見当がついたのは――

「ガーディアン…?」

 そこに現れた、巨大人型兵器の存在だった。


「……みんな、大丈夫か?」

 土屋ケイゴは目を開き、コックピットにいる仲間たちに声をかける。

「…・・・ああ、問題ない」

 金田マコトは周囲をキョロキョロと見回しながら応えた。

「あたしも大丈夫よ」

 安倍ホノカは〝青龍王〟の機体状態を確認しながら応えた。

「レックス、ミナト、大丈夫か?」

 ケイゴは返事のない2人に声をかける。しかし、返答はない。

 その異変に、マコトとホノカも気づいた。

「ケイゴ、レックスとミナトがいないの!」

「なんだって!?」

 5人で操縦する〝青龍王〟に仲間が3人しかいないことに驚愕し、

「上だ、ケイゴ!」

 ピピピ!と鳴る警報と同時、マコトが叫んだ。

『チェストォォォ――――!!』

 外部スピーカーで大音声が届く。

 自機の直上で、大上段に二振りの刀剣を構える機体を確認した。カバリエ級のようだが、関節の可動域が広い。恐らくクラッシャー級だろう。

 その刀剣は、まさに〝青龍王〟を真っ二つにする軌道で振り下ろされ――

「ケイゴ、ガーディアンブレードを!」

「了解っ!」

 ホノカがケイゴに向けて呼びかけると、〝青龍王〟の手に青龍刀のような巨刀が出現した。出現と同時に巨刀を振り上げ、二振りの刀剣を迎撃する。

 火花を散らしながら交錯する剣同士。

 それらを挟み、20メートルのスーパー級ガーディアンと、一回り小さな16メートルのクラッシャー級が睨み合う。

『雷刃!まさかお主のガーディアンが変身するとは思わなかったでござるよ!』

 男の声が聞こえるが、何を言っているのかさっぱりだ。

「待ってください!あなたは一体…!」

『声も変わっているでござるな!』

 ケイゴの問いかけも、相手には意味ある言葉として伝わっていない。

「ちょっと!こっちの話を聞きなさいよ!」

『なんと!そんな裏声まで!実はオネェでござったか!』

「誰がオネェよ!」

 ホノカは怒り出し、

「おいケイゴ!こいつ話通じないぞ!」

『ん?ケイゴ?雷刃・ルー…、お主実は…』

 マコトの声に反応した男は何かを思案。

『雷刃・ルー・ケイゴなどという名前でござったか?』

「「「……」」」

 もうケイゴたち3人は会話を諦めた。

 さてこの話の通じない男にどう対処すべきかと思案していると、

『そこのスーパー級とクラッシャー級。戦闘を停止しろ』

 黒いライトニング級――〝ロードナイト〟と3機の〝ナイト〟が急接近してきた。

「ライトニング級?後ろのはミーレスか?」

 ケイゴは接近してくる機体に目を向け、

『ムム、ライトニング級のアビスガーディアンでござるか!まさかいきなりの乱入でバトルロイヤルでござるか』

 男はなにやら騒いでいるが、4機連携で肉薄したライトニング級は場を収める為に〝青龍王〟とクラッシャー級の武装を叩き落とし、手打ちへと持ち込んだ。


 〝青龍王〟から降りた中学生3人は、ライトニング級から降りてきた4人の男たちと対面した。遅れてクラッシャー級から降りてきた40代の男は開口一番、

「拙者はジョー・上杉と申す!この機体は〝姫鶴一文字〟でござる!」

 無駄にでかい声で高らかに名乗った。

 レオンは彼らが機甲暦の人間であることを確認すると、この世界のことを説明する。

そして、提案した。

「俺たちと来る気はないか?」


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