第2話 ニューカッスル基地

 戦場であるヤソン自然保護区から東に500キロ移動した街、ニューカッスルに、リンケージたちは連れてこられた。

 移動中に、ウィストルから詳細を聞いていた。

 ここは西暦2122年のオーストラリア。予想通り、機甲暦とは別の世界の地球だった。

 話を纏めるとこうなる。

 この世界では30年以上異世界イグドラシルとの戦争状態が続いている。ディメンションポケットと呼ばれる次元の孔が開かれ、交流が行われていたところ、地球人がイグドラシルで殺されたことが発端となり、やがて戦争状態になったという。

 それに対抗する為に組織されたのが、研究及び軍事機関である多国籍投合軍――通称MUFであり、世界中に拠点があるという。

 イグドラシル連合は主要三国のウルズ帝国、ミーミル王国、フヴェルゲルミル連邦により構成され、人型魔導兵器ハルクキャスターを用いている。ハルクキャスターは戦車の火力と防御力、戦闘機に準じた機動性、それ以上の旋回性能を持ち、現在主力として使用している第六世代戦闘機との戦力比キルレシオは1対6以上だそうだ。

 地球側はハルクキャスターに押されていて、それを参考にハルクレイダーと呼ばれる同サイズの人型兵器を開発しているが、現状ではハルクキャスターほどの有効兵器は開発されていない。

 6年前にイグドラシル連合にオーストラリアを奪われ占領されたが、3年前に奪還作戦が発動され、同地を奪回。その際に次元の孔は閉じ、不特定数のイグドラシル連合軍人が取り残されている。オーストラリアはその経緯から連合残存戦力殲滅の主要地となっており、先の戦闘はそのためのものだそうだ。


 リンケージたちは機体から降ろされ、ニューカッスル基地司令部棟へと連れてこられた。

 それぞれ個室に分断され、そこで30分ほどの聴取を受けた。その後、手錠こそされてはいないものの、MPに誘導されて、全員がある一室へと案内された。

 そこに待っていたのはサングラスをかけた禿頭の白人司令官だった。

「ほう、貴様らか。たった2個小隊程度の戦力で〝ハイドラ〟を落としたのは」

 なんとも傲慢そうな男だった。その両隣には背の高い黒人男性とウィストルの姿もある。

「ワシはこの基地の司令官のゲイツ・ライナスだ」

 やや肥えた風貌の男はリンケージたちを見回した。

「さすがは異世界の技術、というわけか」

 どうやらウィストルに話した異世界の地球から来ていることを既に聞いているらしい。イグドラシルという異世界との接触があったからこそ、あっさり事実を認めたのかも知れない。

「貴様らはここにいても構わん。衣食住は保障しよう」

やけにあっさりと歓迎されてしまった。

「ただし、貴様らの機体を調べさせてもらう。これが条件だ」

 いや、ただの上から見下ろした、半ば脅しのような話だった。

「整備や補給も必要だろう?見たところ、損傷も軽くはない」

 マナミとコウイチの顔が曇る。

「整備するためには、整備員の知識が必要だ。わかるかね?」

 これはもう、ここで断る、という選択肢はないだろう。下手に波風を立てては、次に向けられるのは言葉ではなく銃口になりかねない。

「貴様らには仮に軍籍をつけておく。これは体裁のようなものだ。この世界の軍人でない貴様らが兵器を所有し、戦闘行為をしたことを罪にしないためのものだ」

 これも受け入れるしかない。今優先すべきは現状の正確な把握と身の安全だ。ここは軍事基地の中なのだから。

「ユノー中尉、貴様が面倒を見てやれ」

「はっ」

 ウィストルは敬礼すると、リンケージたちを伴って基地内を案内し始めた。


「ここニューカッスル基地では、新型機のトライアルが行われているのよ」

 ウィストルはリンケージたちを居住区の居室に案内した後、演習場のモニタリング室へと全員を連れてきた。

「第三世代型ハルクレイダー、わたしが乗っていたペルセウスがそれに相当する世代なんだけど――」

 食堂やPXの場所を案内するのはもう少し後(午後4時という時間だからか)だそうで、折角だから面白そうなものを見せようという計らいらしい。

「目指せ第3.5世代、ってところなのよね。ま、試作機……、ってよりは概念実証機って言ったほうがいい機体も混じってるけど」

 モニタリング室は10メートル四方のガラス張りの空間で、中央には大型のワイドディスプレイが人型兵器の機動試験を映し出していた。室内には空きシフトを利用した見物人の基地職員や軍人が見学している。

「ハルクレイダー、それがこの世界の主力兵器なのか?」

 レオンが訊くと、ウィストルは失笑した。

「だったら良かったんだけどね。現実は、市街地とかの遮蔽戦闘くらいでしか役には立たないかな。ペルセウスはまだいいけど、第二世代のケフェウスやカシオペアは、背の高い装甲車くらいの位置づけだからね」

 どうやら機甲暦とは兵器の運用理念が違うらしい。人型兵器ガーディアンといえば、強大な戦力を指し示す単語だったが、こちらの地球ではそうではないようだ。陸戦機動兵器の主役は未だに戦車だそうだ。

 ウィストルの解説は続く。

「元々は高火力で高機動、重装甲であるハルクキャスターを地球側で造る為の過渡期的な産物なんだけど、まだまだ道のりは長いみたいね」

「でも、空飛ぶ高機動機とか、あからさまな重装甲砲撃機もあるじゃない」

 マナミはモニター越しの新型機を見ながら感心していたが、

「高機動でも火力が乏しくて20ミリで木っ端微塵になる機体と、120ミリ砲の直撃にギリギリ一回耐えられても整地で時速40キロの走行がせいぜいの機体よ」

 苦笑しながらウィストルが答えた。

「だが、そう捨てたものではないかもしれないぞ」

 後ろから野太い男の声がした。

 振り返ると、長身で細身の黒人男性が立っていた。先ほどライナスの横にいた人物だ。

「基地副司令のバーナード・コリンズ大佐だ。ようこそ、ニューカッスルへ」

 副司令官がリンケージたちに挨拶する。他の見物客も副司令の存在に気づいて敬礼するが、気にするなと一言告げるとすぐにディスプレイに視線を戻した。

「先ほどの言葉はどういう意味ですか?」

 コウイチが興味から訊いた。

「三年前に、占領されたオーストラリアを奪還するための大規模作戦――オペレーション・シャングリラがあってね。主力はMUF横須賀基地の部隊だったんだが、そこで開発された第三世代ハルクレイダー〝アルフェラッツ〟が多大な戦果を挙げてね。確か、ハルクキャスター10機を撃墜し、更に敵の強力なワンオフ機まで堕としたそうだ。パイロットはまだ若い士官だったはずだ。相模少尉とフェルグランド准尉、だったな」

「でも、〝アルフェラッツ〟は実は鹵獲したハルクキャスターで、パイロットは寝返った連合兵なんて噂もありましたよね」

 ウィストルは副司令に言う。

「真偽のほどはわたしも知らんがね。当時の人型兵器の性能を考えた上での納得できる推論という線が妥当だろう――っと、失礼。ついつい話し込んでしまった」

 コリンズ大佐は柔和に笑うと、この場を去っていった。


 午後も6時になり、リンケージたちは食堂へと案内された。順番にトレーへと盛られる食事は宗教ごとに分けられていたが、特にそういった縛りのないリンケージたちは気にすることなく食事を受け取り、席に着いた。

 やけに量の多い食事を取り終えたころ、隣に座るウィストルの元へ、下士官が歩み寄った。

「お食事中失礼します、中尉。司令部からです」

「ありがとう。下がっていいわ、曹長」

 ウィストルは筆箱サイズの金属製のケースを受け取った。その場で開けて、中身を見せた。

「認識票ですね」

 唯一軍籍のあるコウイチが呟いた。

 縁取りした長方形の金属プレートには

『TACHIBANA.K. U01006 MUF.NCA A』

と書いてあった。

「体裁は整えたいそうよ。認識票としてだけでなく、電子マネーもICチップも入っているから、これで買い物もできるわ。当座の費用としてとりあえず1000ドルくらい入ってると聞いているから、大事に使ってちょうだい」

「ますます、軍人みたいになったな」

 銀河は不満げな表情を隠さずに呟いた。それはこの場の誰もが大なり小なり感じている理不尽さの吐露であった。

「ところで、部屋にあったパソコンは使用してもいいのか?」

 唐突にレオンが話題を変える。

「構わないわよ。ネットにも繋がるから、自由に使うといいわ」

「なら、外出は?基地の外に街があるでしょ?」

 今度はマナミだ。

「一応、大きな規制がかかるとは聞いていないわね。司令か副司令に一報入れればいいんじゃないかしら」

 銀河の鬱々とした気分を放置し、レオンとマナミは行動の制約について尋ねた。拘束されることなく、大きな制約を受けないことは意外だったが、レオンやマナミの思考には前向きなものが感じ取れた。

 適当な会話を経て、リンケージたちは食堂を後にした。



 翌日は、全員がバラバラに行動していた。元々仲間というわけではなく、いわば運命共同体という表現の方がしっくりくる関係だ。互いに知り得た情報は共有するというレオンの申し出に自然と同意したリンケージたちは、それぞれ現状の把握に努めていた。

 レオンは部屋に篭り、只管ネットサーフィン中だ。この世界の一般常識から共通認識や価値観などを探っている。この手の情報は部分的に誇張されたり捏造されたりしているものもあるが、この基地内で特定の人物に話を聞き続けるよりもより公平な情報が手に入ると踏んでいた。

 コウイチとマナミは格納庫に寄っていた。

 イズモの軍人であるコウイチと、工学研究者であるマナミにとって、異世界の機動兵器というものに興味が沸いていた。

 彼らが来ているのは試作機用のハンガーだ。

 普通は新型機といえば機密の塊だ。どこの馬の骨とも知れない人物に公開などしないのだが、どこか緩い空気があったのだろう。行った先の機体は横須賀から来ているもので、コウイチたちの名前を聞くと「なんだ、お前たちも日本人か」と勘違いされ、歓迎された。「特別だからな」と手招きされ、今は10メートルの機体を見上げている。

 昨日の機動試験後の整備が進んでいる機体は、白亜のボディに黒いラインの入ったもので、頭部側面には一対のアンテナユニットがあり、一対のメインセンサーが目のように見える。〝ペルセウス〟のように細身の機体だが、隣に設置されている兵装用担架には5から6メートルくらいはありそうな巨大な刀身と、表面が鏡のように反射している楯があった。

「OHW-X001〝スサノオ〟です」

 MUFの正装の青い軍服を着た青年――いや、少年か?――が近づいてきた。

 金髪に青い瞳の20歳前後に見える男だった。

「あなたたちですよね、〝ハイドラ〟をたった8機で、しかも瞬殺したっていうのは」

「君は?」

「あ、すいません。自分は横須賀基地所属、71開発試験団のアレックス・藤沢少尉です。〝スサノオ〟のテストパイロットを務めています」

 どうやらコウイチたちの昨日の立ち回りは既に基地中に知れ渡っているらしい。尾ひれがついて変な誇張がなければいいが。

「次の試験まで時間があるんです。できればお話を聞かせてもらえませんか」

 嬉々として話すアレックスの姿に、コウイチは困惑したが、マナミは自分が評価されている事実がうれしいのか、「任せなさい!」と顔が緩みきっていた。

「楽しみです。どうやってハルクキャスターを撃墜したのか」

 一瞬見せた暗い表情。コウイチは気になったものの、気分をよくしたマナミのテンションに巻き込まれ、やがて気にすることを忘れていた。


 銀河は基地内の格納庫にいた。

(俺、どうすればいいんだろうな)

 レオンたちはこの世界について調べるといっていた。

 コウイチとマナミはハルクレイダーを見せてもらうという。

(この世界で生き続けるつもりなのか?観光気分なのか?)

 見上げると、そこには愛機が佇んでいる。

 この世界の人型機は10メートルサイズなので、〝クロスエンド〟は倍以上の大きさがある。逆に、その横に並んでいる〝ロードナイト〟は5メートルサイズなので半分だ。更に〝ムラクモ〟は40メートルである。

 大きさや技術体系の違いに戸惑いを覚えながら、機体の周りで基地の整備員やら研究者がガーディアンの調査を行っている。

 結果は芳しくないようで、頭を掻きながら「なんなんだこいつは」という声も聞こえる。せいぜい弾薬補給くらいしかできないだろう(サイズが合うかは別問題だが)。

(ざまぁみろ)

 一向に解析が進まない技術者たちに心の中で悪態を吐くと、銀河は格納庫の外に出た。

 ガーディアンの格納庫は司令部付近にある。

なんとなく司令部棟を見ていると、あの偉そうにしているハゲ司令を思い出してしまうので、外へ外へと歩いていった。

 空は綺麗に晴れ渡っている。雲ひとつない空が、自分を嘲笑っているように思えた。

 そんな上の空で歩いていたせいで、

「うおっ」「いたっ」

 誰かにぶつかってしまった。

「すいませんっ」

 銀河は反射的に謝った。自分の前方不注意に自覚があったからだ。

「あー、こっちこそごめんねー」

 ぶつかったのは、30歳前後の女性だった。ラテン系の顔立ちにボブカットの茶髪で、身長は銀河よりも少し高い。女性は尻餅をつき、足許には軍用タブレットが落ちていた。

女性はMUFの正装である青い制服ではなく、タンクトップ姿だった。もうすぐ11月であり、今日の最高気温は25℃に近い。じっとしていれば問題ないが、軽い運動ですぐに発汗する気温なので、その格好はおかしなものではない。

 ただし、銀河は上から見下ろす形であり、女性の胸元に視線が行ってしまう。

 視線に気づき、女性はタブレットを拾いながら立ち上がる。そして笑った。

「健全だねぇ、少年」

 銀河は慌てて何か言い繕うが、女性は様相を変えない。むしろ楽しんでいるようだった。

「ごめんね、からかいすぎたよ」

 女性は手を差し出した。

「アヴィアノ基地から来たアンナ・ヘス少尉よ。今は試作機のテストパイロットをやっているの。よろしくね」

「結城銀河…です。所属は……ありません」

 銀河は手を差し出そうとして、自分の立場を思い起こし、躊躇った。

 しかし、アンナ・ヘスはそれを気にすることなく、中途半端に差し出された銀河の手を握った。

「あ、もしかして今話題の謎の新型機のパイロットかな?〝ハイドラ〟を堕とした」

 すごい勘だと銀河は思った。

 実際は、見たことのない顔と軍服でない人間であること。しかし首から提げた認識票。おまけに所属はないなどと答えるものだから、冗談半分で口にしただけだったのだが。

「あ、はい。そうです」

 そうとは思いもよらない銀河は素直に肯定した。


 なぜか、銀河はアンナに気に入られ、気づくと芝生の上でサンドイッチを齧っていた。

「そっか、イグドラシルとは違う異世界からねー。大変だ」

 隣ではアンナがハムサンドを齧り、頷いていた。

 銀河はここに至る経緯を隠さずに話していた。彼女は聞き上手であるようだ。

「……それで、テロで両親が殺されてからはずっと独りでいました」

 気づくと、自分の生い立ちまで話していた。

「そっか。わたしはまだマシだね。両親は健在だし、息子だって元気だし」

「お子さん、いるんですか…?」

「そ。シングルマザーだけど、こっちに来てる間はサルデーニャの両親に預けてる。帰ったら、お土産たっくさん持って帰るからね、って言って出てきたんだ」

 胸元から認識票とは別のチェーンを取り出す。

 ハート型の小さなロケットの中には、まだ5歳にもなっていないであろう少年がアンナに抱かれている。それを見つめるアンナの表情は、どこか遠くを見ていた。

「でも、なんでテストパイロット…、それ以前に軍人なんかやってるんですか?」

 そんなに息子が大事なら、なぜこんな危険な仕事をしているのか。銀河にはわからなかった。

「これしか、できないからね」

 声のトーンが落ちた気がする。

「学校じゃ、評価はCとDばっかりで、ハイスクールは中退。売春か軍人くらいしか、あの時は選択肢がなかったんだよね」

 銀河は何も言えなかった。

「息子が――アンドリューができて、その後すぐに旦那と別れちゃって。でも軍にいないと、アンドリューを育てられないから。あの子を食べさせないといけないと思ったら、余計にね。腕はよかったみたいで、テストパイロットに抜擢されたら、ギャラも上がったんだ。だったら、稼げるうちに稼いで、この先のアンドリューの学費とか稼がないと。お金がなくて我慢する、なんて思いはさせたくないから」

 話を聞いてもらった代わりにこちらも話を聞こう。

 そう簡単に思っていたことを、銀河は後悔した。

 軍人なんて、金で人を殺す人間だと思っていた。仲間を守るとか、そういうお題目を掲げていても、結局やることは引き金を引き、誰かを殺す。そうして毎月給料もらって生活している、おかしいやつら。

 そう思っていた自分を殴り倒したい気分だった。

 生きていくということを、綺麗ごととしてしか理解していなかったのだ。

「さて、じゃあわたしはそろそろ行くね」

 アンナは立ち上がり、芝生を払いながら銀河を見下ろした。

「じゃあね、少年」

 笑顔で去っていくアンナに、銀河は目を合わせることができなかった。



 夜の帳が下りたころ、レオンはアンディたちを伴って基地の外にあるバーに来ていた。

 ニューカッスル市街の繁華街で落ち着いた雰囲気の店を見つけたレオンは軽食をつつきながら苦めのカクテルで口を湿らせていた。

 カウンターに座るレオンの後ろではアンディ・フランク・アブの三人が夕食を口にしながらカードに興じている。他の客は3組ほどいたが、出ている話題は他愛もない世間話ばかりであり、特に気になる単語も出てきていない。

「お客様、初めて拝見するお顔ですね」

 初老のマスターがグラスを拭きながら話しかけてきた。

「遠くから来た。そうしたら良さそうな店が見えたので入ってみたら、大当たりだ」

「ありがとうございます」

 柔和な笑みを返すマスターは、グラスを置くと一息。

「何をお調べですかな?」

 核心を突く質問だった。レオンは一瞬警戒したが、すぐに体の力を抜いた。

「優秀な観察眼だな。とても一介の店主とは思えない」

「いえいえ。こういった仕事をしていると、色々な方々を目にするものでして。お客様からは警戒……失礼ながら怯えのようなものを感じました」

「これは驚いた。ならば率直に聞こう。ここの市民にとって、あの基地――MUFという存在はどういうもので、何を思っている?」

「漠然とした質問ですが、僭越ながらお答えします。まず、お客様が思い描くような畏怖や疑念、排斥の感情は多くはありません。オーストラリアを奪われたのはMUFが負けたためですが、同じく奪還したものMUF。国連組織に新たに追加されたもの、程度の認識が正直な感想ではないでしょうか。悪く思うとすれば、それは反体制的思想など…、例えばAAAなどではないでしょうか」

「AAA?」

「アジア武装同盟。欧米中心の世界経済や政治体制を快く思っていない、ここ数年で動きが活発化している集団です。テロリスト、と申し上げてもよろしいかと」

「なるほど」

「ご満足いただけましたか?」

「ああ。マスターの回答と、この一杯、両方に」

「それはとてもありがたい。では、これを」

 新たなグラスが置かれた。

「お客様の前途が良いものであることを願い、わたくしからのプレゼントでございます」

「ありがたい。いただこう」

 レオンはグラスを手に取り、

「さぁ、次はここのお店だよ~、アレックスゥ~」

「あの、マナミさん、飲みすぎですよ?」

 突然の闖入者に思わず溜息を吐いた。

「あれ、レオンさんじゃないですか~」

 顔を赤くした酔っ払い女に対し、新たな溜息をもう一つ。

「前途多難でなければいいが」

 かなりの量のアルコールを摂取しているであろうマナミに呆れながら、レオンは会計を済ませるために立ち上がった。

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