第15話
斑警察署も≪運営≫の建物のように豪奢だ。いや、≪運営≫よりも荘厳といっていい。魔王城みたいなシルエットは、まるで悪の巣窟だ。
環状線を爆走していた3人組をしょっ引いて、警察署の会議室にぶち込んだ。ここで事件の真相を説明して、犯人を指摘すれば事件に終止符を打つことができる。
「比嘉探偵、一応システムを説明しておきますよ」3人組をぶち込んだ会議室の外でアルが真面目な顔をしている。「<探偵は みなを集めて 『さて』と言い>なんて川柳もありますけど、まさにそういうことなんです。容疑者をひとつところに集めて、その中から犯人を指摘する必要があるんです。そして、その推理を警察が確認して問題がなければ、晴れて事件解決となるわけです」
斑町では、探偵は捜査活動を行うが、逮捕や起訴といった権利は基本的には有していない。いわば、俺たち探偵はテスト採点される学生みたいなものだ。
「分かってるよ。どうせあいつらが犯人なんだ。ちゃっちゃと済ませるぞ」
ドアを開けて会議室に入ると、待ち構えていた3人組ががらんとして何もない室内に棒立ちになっていた。奴ら3人は右の壁際から等間隔に並んで立っているが、左の方には広大なスペースがある。
「端っこに固まってんじゃねえ。こっちに来い」
俺が言うと、3人組は首を振った。
「ここに立つようにって言われたんだよ」
奴らが自分の足元を指さす。そこには立ち位置を示すバミリの白いビニールテープが貼られていた。俺の視界を塞ぐようにポップアップが現れる。
【推理を開始しますか?】
嫌な予感がした。
探偵は容疑者たちを集めて、その中から犯人を指摘する。逆に言えば、集めた容疑者たちの中からしか犯人を指摘できない。等間隔に壁際から並んだ3人組。立ち位置のバミリ。3人組の左側に無駄に空いたスペース。
俺はポップアップを振り払ってアルの腕を取って一旦部屋の外に退避した。
「どうしたんですか、比嘉探偵? この期に及んで緊張しちゃったんですか? 推理披露童貞ですから仕方ありませんよ」
「うるせー黙れ。この事件、容疑者がほかにもいるんじゃないのか?」
「え? だって、あいつらが犯人なのは明白じゃないですか? こんなイージーな事件、早く解決したいんじゃないですか?」
「待て」
記憶を手繰り寄せる。俺は一切課金をしないでここまでやってきた。あの課金させたがりな≪運営≫が仕掛けた課金トラップをかいくぐって。こんな簡単な結末なのか? この事件は初心者の探偵には扱えないような、ある程度レベルの高いものだ。≪運営≫にしてみれば、課金のさせどころがたくさんある。それを全部すっ飛ばして、少ない容疑者で、ここまで来れるものか?
「でも、あいつらは私たちに突撃されて逃げたじゃないですか。犯人に間違いないですよ。まあ、私の裏千家流……なんでしたっけ、爆裂殺人術だったかに恐れをなしたわけですけども」
「いや、よく考えてもみろ。悪事を重ねてきた連中だ。突撃されて逃げるのも理解はできる」
「じゃあ、やっぱり……」
「だが、変じゃないか? そんな奴らが夜中の3時頃に公園にいたと素直に証言したんだ。なんでどこかに身を隠したり、検問をすり抜けて街を出ようとしたりしなかったんだ?」
「分かりませんけど、怪しまれないためとかじゃないですか?」
「俺たちの時は派手に逃げただろ」
「それはそうですけど……」
何かが引っかかる。考えようとしても、頭がボーッとしてアイディアがまとまらない。ハッと気がついて、≪コカイン≫の瓶を取り出して、蓋を開け、中身を飲み干した。見る見るうちに目が冴え、カーチェイスで擦り減った体力と神経が血の巡りで回復していくのが分かる。
「スタミナ回復しましたね」
アルが笑ったが、この飲料は明らかに何かやばいものが入っている気がする。一応言っておくが、≪コカイン≫という名前の栄養ドリンクであって、あのやばい代物ではない。コカ・コーラの「コカ」と同じようなニュアンスだ。
とにかく、≪コカイン≫のおかげで考えが形を成し始めた。思わず笑みがこぼれてしまう。
「どうしたんですか? 横断歩道白いところだけ踏んで渡りきれたの思い出したんですか?」
「バカ。ちげーよ。≪運営≫の奴ら、課金システムの構築で視野が狭くなってやがる。そのことに気がついて、俺にも勝ち目があると分かったんだよ」
そうまくし立てるが、アルはピンと来ていないようだった。相変わらず星3の探偵助手は鈍いままだ。
「ええと……、あの3人組は?」
「未だ容疑者がいる。そして、あいつらは犯人じゃない。まだ現れてない容疑者を炙り出すぞ」
アルが驚きの声を上げて俺を見つめた。
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