第14話

「もっと飛ばして下さい!」

 俺の腰にしがみつくアルが風を切る音に負けないように大声を上げた。

「うるせー! 飛ばしてるわ!」

 黒いバンを追って、斑町を縦断する環状線に入る。車線が3つになり、交通量も多い。走る何台もの車の向こうに見える黒いバンから、奴らが顔を出してこちらを振り返っている。

「危ない!」

 真ん中の車線を走っていた俺はアルの警告と共に左にハンドルを切って左のレーンへ。なぜか真ん中のレーンには木箱が置かれていた。

「あ、また!」

 行く手を別の木箱が阻む。俺はスピードを落とさないように真ん中のレーンに移動した。十メートルほど前を一般のセダン車がちんたら走っていたので、右のレーンに入ると、またもや木箱が目に入る。衝突しかかるのを真ん中のレーンに急いで戻って回避する。

 ちょっと待て。この光景……暇潰しにやっていた携帯のゲームで見たことがある。

「なんで避けゲー始まってんだ、コノヤロー!! たまにあるけどこういうミニゲーム!」

「また箱が!」

 アルの叫びを聞いて、左のレーンに回避する。すぐ先で左と真ん中のレーンが木箱で塞がっている。バイクを倒して一番右のレーンへ。

「逃走車を追うシーンをゲームみたいにしてんじゃねー!」

 俺は誰にともなく呪詛の言葉を吐き散らした。

「比嘉探偵、今の木箱の前に銅貨が落ちてたのに!」

「なんで俺がマリオみてーなことしなきゃいけねーんだよ! そんな余裕ねーよ!」

 アルを振り向いて怒鳴り返した。アルが前方を指さして「あーーっ!!」と絶叫した。

 すごい衝撃と共に目の前が暗くなる。


「もっと飛ばして下さい!」

 アルの声で気がつくと、ちょうどカブで環状線に入るところだった。

「なんだ、これ!」

 前方に走る何台もの車の向こうを行くバンの窓から奴らがこっちを振り返っているのが見える。

「危ない!」

 真ん中のレーンを走っていた俺は咄嗟に左にハンドルを切った。

「なんでループしてんだ!」

「訳分からないこと言ってないで、早く追いついて下さいよ!」

 失敗したら初めからやり直しじゃねーか。なんで推理主体のところにアクション性のあるパート持ってきやがるんだよ。こっちはそんなの望んでねーっつーの!

 なんとか木箱を回避しながら、トレーラーの横を並走する。

「あっ! あいつら、後ろのの窓を開けてますよ!」

 黒いバンのリアウィンドウを開けると、奴らは誰が見ても明らかな黒くて丸い爆弾のようなものを落とした。それに触れたトレーラーのタンクが爆発して、俺はその爆炎に巻き込まれることになった。


「もっと飛ばして下さい!」

 アルの声で環状線に入ったところに戻ったことを知る。

「クソが! どういう仕組みなんだよ!」

 俺は生まれて初めてというレベルの集中力を使い、トレーラーの爆風を回避するところまでやってきた。というか、なんであいつらは爆弾持ってるんだ。犯罪者じゃねーか。

 環状線は、その後も地獄の底まで続くような穴が出現したり、自爆する一般車が現れたりと、俺たちをぶっ殺すための仕掛けを繰り出してきた。そのたびに、ジャンプ台を使って回避したり、罪もない一般車両を壁にして爆風を防いだりと、とにかく死に物狂いでサバイバルを図った。

 やがて、前方を行く3人の乗ったバンが中央分離帯に衝突して、ようやくこの追跡劇は終わりを迎えた。

 バイクから降りた俺のケツは痛すぎて2つに割れていた。


【クリアタイム/02:13:34 NEW!!】

【クリアランク/E】

【200シリングを獲得】

【≪カブチェイス≫がアンロックされました】

【スタート地点から遊べるようになりました】

【リトライしますか?】


「もうやめてくれ……」

 俺はフラフラになりながらポップアップを払いのけた。

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