第13話
荒れ果てた店内を想像していたが違っていた。こじんまりとしたスナック内装は整ったままだ。そして、奴らはカウンターに向かって酒盛りをしていた。俺は名前を覚えるのが苦手だ。だが、公園で会った3人組であることは確かだ。
俺は気分が高揚している自分がいることに気づいていた。奴らをビシッと指さす。
「もう終わりだぞ、お前たち!」
「そうだ、そうだ!」
隣でアルが騒ぎ立てる。邪魔だ。
「あん?」3人組のひとりが空き瓶を片手に立ち上がる。「なんだ、てめえらは?」
「俺は比嘉沈……探偵だ」
別の男が「あっ」と声を上げた。
「今日公園の管理室にいた奴……!」
その一言で奴らは警戒心をマックスにする。悪事のAmazonみたいな連中だ。探られたくないことリストをSNSのプロフィールに載っけているようなものだ。
3人は戦闘態勢でじりじりとにじり寄って来る。
「アル、行け!」
「ええっ? 私が、ですか?」
「助手だろ」
「助手が戦うものなんですか……?」
「俺は頭脳パートをやったから、お前は肉体パートだ」
「そんなこと言ってなかったじゃないですか!」
「今決めた」
アルが口を尖らせながらも、前に歩み出た。ひょろひょろの身体でファイティングポーズをとる。
「まあ、いいでしょう」アルは不敵な笑み浮かべた。3人がにじり寄る足を止める。「私の裏千家流月光殺人柔術・改
裏千家は茶道だろ。
だが、なぜか3人組を怯ませる効果はあったらしい。ひとりが持っていた瓶をアルに投げつけると、奴らは一斉に店の奥に駆け出した。
「うわぁ!」アルが叫んでいた。瓶の中の酒が少し手に掛かったらしい。「何か付きました! 毒かもしれない! 私はもうダメかもしれない!」
バカは放っておいて、奴らの後を追って店の奥へ。奴らは狭いバックヤードを抜けて店の脇のドアを開けて飛び出していた。
開け放されたドアを俺が飛び出した時には、奴らが乗ったバンがタイヤを軋ませて急発進するところだった。後を追って走り出してすぐに無駄だと悟って立ち止まる俺のそばにアルがやって来た。
「どうするんですか、比嘉探偵! 逃げられますよ!」
「うるせー! 今考えてんだ!」
そこに、ベベベベ……と酒屋のカブが通りがかる。俺はその進路を塞いで叫んだ。
「探偵だ! 犯人追跡のため、そのカブを拝借する!」
酒屋のオヤジが慌ててカブから転げ降りると、俺はそのハンドルを引き継いで走り出そうとした。後ろに重みが加わる。アルが飛び乗っていた。
「なんでお前と青春みたいなことしなきゃいけねーんだよ!」
「早く追わないと逃げられますよ」
涼しい顔で言いやがる。俺は舌打ちをしてアクセルを全開にした。
「掴まってろ!」
アルが俺の腰に手を回す。女子にもされたことないのに。
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