第12話
福貴野家の広すぎるリビングにいると、空間がでかすぎて不安感が募ってしまう。俺はきっと貧乏性だろう……"絶対"貧乏性だろとか言うなよ。
ほの香はフットワークの軽そうなショートカットの女だった。倉光失踪の報を受けて帰宅することにしたらしいが、準備中に倉光が死亡したことを知ってだいぶショックを受けたらしい。憔悴した表情で星尾の報告に耳を傾けていた。
「こういうことにはならないと思っていたんですが……」
彼女の意味深な言葉には昴も怪訝な目を向けざるを得なかった。
「どういうことなんだ?」
昴に問い詰められて、ほの香は躊躇いがちに話し始めた。
「これはあなたには内緒にしてくれと彼に言われたのよ」
「彼というのは、倉光ですか?」
そう尋ねると、ほの香は首肯した。
「仕事を探していたようなんですが、昔あまり素行が良くなかったらしくて。でも、ウソをつくのは嫌だったんでしょうね。私には昔のことを話してくれました」
「なんでほの香だけに……」
「あなたがそのことを知ったら採用されないと思ったんでしょう」
星尾も興味深そうに前のめりになっていた。
「どういう話を?」
「不良グループとつるんでいて、盗みや恐喝をしていたと……」
昴が頭を抱えてしまった。ほの香はスマホの写真を俺たちに見せてくれた。当時つるんでいたグループで撮った写真だという。
「隠し事はしたくないと言ってこの写真を送ってくれたんです。だから、信じてあげようと思ったんです」
「比嘉探偵……こいつら……」
それの隣で写真を見つめていたアルが呟いた。俺は静かにうなずいた。グループの中に、さっき公園で会った3人組が含まれていたのだ。
「星尾さんよぉ、こいつらの居場所知らねえかな?」
俺はそう言って斜に構えた星尾を見つめた。このいけ好かない男の中にも、事件を解決したいという思いがあるに違いない。その道義心に訴えかけようとしたのだ。我ながら青臭いことを考えたもんだ、俺も。
星尾は小さく笑った。
「あいつらは斑駅の裏の飲み屋街にある『楓』というスナックの廃墟をアジトにしてる」
こちらに目を合わせないままそう言って、部屋を出て行ってしまう。俺は思わずアルと顔を見合わせてしまった。
斑駅の裏は細い路地の走る飲み屋街だ。まだ昼下がりだから、人の影は少ない。問題のスナック「楓」は、奥まった場所にひっそりとたたずんでいた。パッと見では廃墟とは分からないが、コンクリートの目地から背を伸ばしつつある雑草が手入れが行き届いていないことを物語っていた。店の横のスペースには、黒いバンが停まっている。アルが大袈裟に車のそばに近寄る。
「公園の防犯カメラに映っていたのと同じ車種ですよ!」
「つまり、そういうことだ」
「倉光さんを拉致して殺害したのは、あの3人組……?」
「そう考えれば、辻褄は合う。奴らはかつての仲間が働く屋敷について調べ侵入した。屈強な男でもさすがに3人を相手にすれば分が悪い」
「あいつらはどうやって倉光さんを見つけたんでしょうか?」
「七田が言ってただろ。街中で何人かの男と会っていたって。偶然出くわしたに違いない」
「でも、倉光さんを殺す動機はなんですか?」
「おおかた、福貴野家から何か金目の物を盗んで来いとか言われたんだろう。倉光はそれを断るばかりか、警察に突き出すと言った。それで、奴らは後に引けなくなって殺した……」
「完璧な推理だ」
アルは目を見開いた。まるで、見直したと言わんばかりじゃないか。今頃気づいても遅い。
スナックの赤いドアに手をかける。どうやら鍵はかかっていないらしい。俺はアルに目配せをした。
「本丸に突撃だ」
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