第11話

 俺たちのそばでじっとしていた星尾の携帯電話が鳴る。短いやり取りをして電話を切った彼は、俺たちに顔を向けた。

「3時ごろにこの公園にいた連中が見つかった。話を聞いてみるか?」

「また課金させようとしてんじゃねーだろうな?」

「いちいち課金のことでビクついてみっともない男だな」

 鼻で笑われて、舌打ちを返す。歩き出した星尾に黙ってついて行った。隣のアルが俺にこっそり耳打ちする。

「ビクついてたんですか?」

 アルの頭に手のひらをお見舞いする。この男は口から生まれたに違いない。


 公園の管理室に集まっていたのは、3人組の男のグループだった。呉竹颯馬くれたけそうま白嶽充哉しらたけみつや天吹健次郎あまぶきけんじろうと自己紹介をしてきたが、名前を覚えることはないだろう。いずれも、若くはないのにやんちゃ心を掻き消せないほどの雰囲気を出で立ちに纏っていた。もうそういうのを卒業しているべき年齢なんだろうが、まあ、それは人によるのかもしれない。

「で、お前たちはなんでそんな時間にこの公園に?」

「飲みが終わったんすけど、ちょっと歩こうやってことで」

 な? とひとりが問い掛けると、他の2人がうなずく。

「その時に池に死体はなかったのか?」

「なかったっすよ」

「3時頃だな?」

 3人がうなずく。つまり、倉光が池に浮かんだのはその後、3時から5時の間ということだ。

「お前たちが公園にいた時に他に誰かいなかったか?」

 彼らは難しい顔をしたままで、結局有益な情報は得られなかった。


 3人を解放して溜息をついていると、星尾が近づいてきた。

「大した情報もなくて残念だったな」

 その顔はちっとも残念そうじゃない。いや、課金できなかったという意味では、こいつにとっては残念だったのかもしれない。そんな奴の顔が、ニタリと笑った。

「公園の防犯カメラの映像が残ってる。隣の部屋で見られるぞ」

 星尾に言われるまま、隣室のモニタールームに向かう。公園の管理責任者らしい男が機材を操作していた。

「駐車場の映像です」

 映像が始まる。タイムスタンプは今日の午前3時42分となっている。街灯がポツポツと立つ駐車場に、一台の黒いバンが入ってきた。駐車スペースに停車すると、サイドのスライドドアが開きそうになった。


【防犯カメラの映像の続きを見るには銅貨50枚が必要です】

【購入しますか?】


 俺はモニターに背を向けた。

「もういい」

「なんだ、続きを見ないのか? ナンバープレートも判別できそうだぞ」

 星尾の声を無視して管理室から出た。アルが心配そうな顔で俺を見つめている。

「比嘉探偵……、別に私は課金を促すわけじゃないですが、この街ではそうしないと捜査もままなりませんよ。少しでもお金を出して課金した方が……」

「絶対に嫌だね」

 俺が提案を突っ返すと、アルはしょんぼりとして肩を落とした。

「あのな、俺だって事件を解決したくないわけじゃないんだ。だが、今のこの街の状態は間違ってる。それを証明するためには、奴らのやり方に真っ向からぶつからないといけないんだよ」

 いつもと違う俺の雰囲気を察したのか、アルが恐る恐るといった様子で口を開いた。

「なぜそうまでして対抗しようとするんですか? 絶対に損をするじゃないですか」

「俺にだって、色々あるんだぞ」

 それだけを言ってアルに目を向けた。彼は力の抜けたような笑みを浮かべていた。

「まあ、深くは聞きませんけど。でも、これからどうするんですか? どうやって情報を集めるんですか?」

「気づいたんだが、無課金でも事件の情報を手に入れられてはいる」

「めちゃくちゃ最低限ですけどね」

「警察は事件の情報を整理して、真相に近づけるような情報に制限をかけている節がある」

「じゃあ、ダメじゃないですか」

 そう言われてしまうと、何も言い返すことはない。俺が頭からアイディアを絞り出していると、管理室のドアが開いた。顔を覗かせた星尾が言った。

「ほの香が石川から帰ってきたらしい。話を聞きに行くか?」

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