第8話

 目は口ほどにものを言う。

 応接間で話を聞いていた時の使用人の七田は物言いたげな目をしていた。

 アルと共に屋敷の中を探して、キッチンで食材を並べている七田を見つけ出した。無駄に広い家だ。

「あら、探偵さんと……難しい名前の方」

 七田にそう呼ばれて、アルが一瞬だけ錆びそうな顔をしたのを俺は見逃さなかった。ざまあみやがれ。俺だって名前はもう覚えてない。

「失踪した倉光さんのことについて、詳しく聞きたいんだが」

 案の定、七田は目を輝かせた。

「詳しくといっても、まだ2か月くらいなので」

「倉光さんの交友関係については? 友達とか恨んでる人間はいたかとか」

 七田は記憶を手繰るように視線を彷徨わせた。

「この前、街で何人かの男の人と一緒に居るのを見ましたけど……」

「どんな奴らだった?」

「さあ……、よく分かりません。でも、仲良さそうにしていたわけじゃなかったと思います……。というか、知り合いじゃなかったかも」

「どうしてそう思う?」

「しつこくつきまとわれてるような感じでした。ほら、よくあるじゃないですか。私だってたまにはナンパされることもありますけど」

「男にナンパされてたのか?」

「そういうことじゃなくて、そういう感じでしつこく呼び止められている感じで、倉光さんも何かを言い返して……。でも、全くの初対面という感じにも見えなくて……」

 要領の得ない話だ。堰を切ったように話し出したところをみると、もとはお喋り好きらしい。


 アルが俺の肩を叩いた。そして小声で言う。

「この人は何かを隠してるんじゃないでしょうか」

「隠すって何を?」

「分かりませんが、私の探偵としての勘がそう言ってるんです」

「てめーは探偵じゃねーだろ」

 七田が怪訝そうにこちらを見ていた。

「あのー、何かありましたか?」

「倉光さんが昨夜の9時半に自室に向かうのを見たと言ったな。それは、自室に入って行くのを見たのか、それとも、自室に戻ると言ってどこかへ向かうのを見たのか、どっちだ?」

「ええと……、自室に入って行くのを見ました」

「その時の様子は?」

「いつもと変わらずでした」

「倉光さんはいつも早い時間に寝るのか?」

「え? いや、どうでしょう……。一緒に寝たことがないので、分かりませんけど」

 倉光にとっては、不意の襲撃だったはずだ。だが、何かが引っかかる。気配がして、横を見るとアルの顔が迫っていた。

「顔近づけるなよ」

「比嘉探偵、≪ポリグラフ≫を使いましょう」

 アルが小声で言う。≪ポリグラフ≫は≪探偵神器ガチャ≫で俺が引いた、ウソが見破れるというアイテムだ。

「何のウソを見破るんだよ」

「見本を見せてあげましょう。≪ポリグラフ≫を貸して下さい」

 鬼気迫る様子に、思わずアイテムを手渡してしまった。アルは七田に歩み寄って、怪談でも始めるのかというような迫真の表情を差し向けた。

「七田さん、あなたの口振りからすると、あなたと倉光さんの間には、何か口に出すのを憚られるような関係性があるのではないかと感じるんですよね。というのも、なぜかあなたは倉光さんが自室に向かうのを見ていた。あなたと倉光さんは男女の仲だったのではないですか?」

 目の前にポップアップが現れる。


【≪ポリグラフ≫を使用しました】


 七田は神妙な面持ちだ。

「そうなんです。私、倉光さんをお付き合いをしていました」

 すると、どこからともなく七田の声が周囲に響き渡った。

『そんなわけねーよ。私じゃヒモにもさせられねーよ』

「え?」

 突然の出来事に、俺は声を上げてしまった。途端に、七田がにっこりと笑う。

「なーんて! そんなわけないじゃないですか。でも、私がちょっと気があるというのは、その通りです」


【≪ポリグラフ≫の効力が切れました】


 俺はアルの頭を思いっきり引っ叩いた。

「てめー、クソどうでもいいウソ暴いてどうすんだ! 1個無駄にしたjねーか!」

 アルは頭を押さえながら、申し訳なさそうに言う。

「すみません。じゃあ、ショップで≪ポリグラフ≫を買いましょう」


【≪ポリグラフ≫を1個、銅貨50枚で購入できます】

【≪ポリグラフ≫を購入するための銅貨が足りません】

【購入しますか?】


 俺はここに記すことのできない言葉を発して屋敷を飛び出した。

「購入」という言葉にゲロが出そうになりながら。

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