第6話
俺は星尾を振り切るように屋敷の人間が一堂に会しているという応接間に向かった。案の定、星尾は金魚の糞みたいに俺にくっついてくる。
応接間では3人が大人しく椅子に座って待っていた。
「このでかい屋敷で3人だけ?」
星尾に尋ねると、
「昴さんの奥さん、
と素早く返ってくる。情報の速さだけがこいつの取り柄だ。
「……何の仕事だ?」
俺は恐る恐る尋ねた。どこで課金が発生するか分からない。正直な話、あのポップアップは俺のトラウマでもある。俺だって、あのポップアップに素直に従うような男じゃなかったのだ。アレを無視したらどうなるのか……。それを知ってしまったら、とてもじゃないが抗う気など微塵も起こらなくなる。
「旅行代理店会社の企画部に勤めていて、新しい旅行企画を立ち上げるために石川に行っているらしい」
「フン、遊んでて金が入るなら俺でもできるわ」
「あの!」
不満そうな声を上げたのは、若い女だった。俺が振り向くと何か言いかけたが、星尾が絶妙なタイミングで口を開いた。
「こちらは娘さんの
美巳子は挨拶もそこそこに、イライラを露わにした。
「なんですか、さっきからコソコソと。ずっとここで待たされてるんですけど!」
「失礼」星尾が頭を下げる。「こちらが、事件を担当する比嘉沈さんです」
美巳子は俺の名前を聞くと微かに鼻で笑った。よくあることだ。星尾は続ける。
「そして、その隣が探偵助手のアルタクセルクセス・パパスタソプーロスさんです」
「……え? なに?」
「アルタクセルクセス・パパスタソプーロスさんです」
「名前か。呪文かと思った」
アルはニコッと笑って会釈をした。
「すみません。ギリシア系なもんで、名前がややこしいんです」
「俺の時にも謝れよ」
俺がそう言うが、アルは「まあまあ」と大人みたいな対応で俺をあしらった。こいつは俺の助手だろ。しかも星3の。
「それで、いつまでここにいれば?」
やっと声を発したのが福貴野昴だ。俺は3人の顔に順番に目をやった。
「倉光さんの部屋の異変に最初にいづいたのは?」
不安そうな表情を浮かべていた女性が手を挙げた。使用人の
「お米を運んでもらおうと思って声を掛けに行ったら、部屋があの状態で……」
「時刻は?」
「10時過ぎです」
星尾が手帳に視線を落とす。そして、俺に補足情報を寄越してくる。
「七田さんは9時半ごろに倉光さんが自室に向かうのを見ていたようなので、倉光さんは9時半から10時過ぎの間に姿を消したことになる」
3人に問い掛ける。
「昨夜9時半から10時ごろの状況を教えてくれ」
「私は」昴が話し出す。「離れで学生たちのレポートの採点作業をしていました」
「大学の情報を外に持ち出して大丈夫なのか?」
「大学のシステムにここから接続しただけですよ。学生にはレポートをデータで送ってもらっているので、システムに接続すればどこでも作業できるんですよ」
「何か異変には気づいたか?」
「いや、全く」
離れの中で周囲の音がどれくらい聞こえるのか、あとで確認した方がよさそうだ。次に美巳子に質問をすると、彼女は「何回も話したんだけど」を不満げに顔をしかめた。
「自分の部屋でリモートで大学の友達と喋ってました」
「その時に物音は聞こえなかったのか?」
美巳子は首を振った。聞くところによると、美巳子の部屋は倉光の部屋とは反対にあるようだった。最後に、七田に目を向けた。ずっと不安そうな顔をしている。
「あんたは問題の時間は何を?」
「ご主人が離れに行くのを見送って、洗濯物の準備とか翌朝の食材のチェックとか……」
「何も見てないのか?」
「はい。何も見てないです。でも、倉光さんが自室に向かうのは見ましたよ。9時半くらいですけど」
「倉光さんとは一緒に働いて長いのか?」
「いえ、倉光さんは2か月くらい前にやって来たので」
昴に目をやる。
「ええ。最近、物騒な話を聞くので、彼みたいな男手があった方がいいな、と思いまして」
「最近というかずっと物騒だろ、この街は……」
倉光の失踪については誰も何も知らないと言っている。
「外部犯の可能性が高いですね」
アルが俺のそばで小声でそう言う。
「まあ、普通に考えればな」
「じゃあ、外部犯じゃないって考えてるんですか?」
「なんでそうなる」
「だって、あなたは普通じゃないから」
「てめー、喧嘩売ってんのか?」
星尾が俺の肩を叩く。
「一応、ほの香さんの連絡先も控えてるんだが、電話で話を聞くか?」
「おお、頼む」
【福貴野ほの香と電話をするには銅貨20枚が
「いや、やっぱりいいわ!」
星尾がニヤリと笑った。
こいつ……、俺を課金トラップにハメようとしやがった……!
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