第35話 ひとときの休息

***

 それから一ヶ月が過ぎ、受験勉強の忙しさとストレスを解消するように十月に文化祭が行われた。

 クラスではたこ焼き屋の出店をした。十文字さんがテキパキとお店への誘導を行い、生徒みんなで大量にタコを焼き、予想を上回る売り上げが出た。

 佐々木くんは校舎の中庭に設置された特設スペースで、スピーカーから流れるBGMに乗せて歌を歌っていた。

 佐々木くんらしい真っ直ぐな歌詞と歌声が校舎を優しく包んでいた。

 彼ならきっと大丈夫。私はそう思った。


 仕事終わり、電車で盛岡駅に行き、指定されたカジュアルレストランに向かって大通りを歩いた。

 今日は久しぶりに美緒とご飯を食べに行くのだ。

 六月の結婚式以来会ってないが、ちょくちょく連絡は取り合っていた。

 年末に新婚旅行に行くようでいろいろ相談したいらしい。相談というか惚気話だろうと思っている。


「ハネムーン楽しみ!」

 やはり惚気話だった。

「じゃあ、ここなんかどう?」

 私は美緒にスマホを差し出し、ハワイの観光情報が載ったサイトを見せる。

「へぇ、こんなところあるんだ」

 レモンサワーを飲みながら、美緒と一緒にスマホ画面を覗いていると、チャットアプリから通知が届いた。

「しずく、田鎖先生からメッセージ来たよ」

「え、なんだろう」

「田鎖先生って、例の数年ぶりに再会した彼?」

「あ、うん」

 美緒には一通り説明していた。メガネや髪型といった容姿だけでなく、内面から出る雰囲気も学生の頃と違っていて、最初は全く気がつかなかったのだ。

「やるじゃん。もう付き合ってるの? ラブコメみたいやん」

「いや、そういう関係じゃないし」

 美緒と話しながら、メッセージを確認した。

『今度、またご飯に行きませんか?』

「誘われてんじゃん。てか『また』ってどういうこと? なに? 『また』って!」

 美緒が画面を覗きながらニヤニヤしてくる。

 実は佐々木くんと会ったさんさ踊りパトロールの後に、軽く食事に行ったのだった。

 佐々木くんが私に告白してきて対処に困った話はもちろん、卒業後どこの大学に行っていただとか、専攻は何だっただとか、まさか同じ高校に赴任するとは思ってなかっただとか、そんな話をした。そしてプライベートの連絡先を交換した。

「ただの仕事関係だよ」

 チャットアプリには『生徒が興味を持ってもらえるような授業のやり方を教えて欲しいです』とメッセージが続いていた。

「ほら」

 私はそのメッセージをこれ見よがしに美緒に見せた。

「じゃあ、断る理由なんてないね」

「え?」

「先輩教師としては、しっかり後輩くんに教えてあげなきゃ」

「あ、まあ」

「ね、しずく先生!」

 なんだか自分で墓穴掘ってしまった感じがする。そうは言っても断る理由もないので、というか私も彼とはまた食事に行きたいと思っていたので、承諾のメッセージを返した。

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