第16話 二人で自転車
***
教室に戻るとノリがいた。
「よ。遅かったな」
ノリはイヤホンを外して、こちらに向かって手を上げた。
「お前、帰ったんじゃないの?」
「あー。帰ろうとしたんだけど、少し待てば雨やみそうだったし、大地の靴が下駄箱にあったから一緒に帰ろーかなーって」
「じゃあ、帰ろうか」
僕は自席からカバンをとる。
「おう。しずくちゃん?」
「そう。ちょっと相談事してた」
「家のこと?」
「うん。先生ならなんか良いアドバイスもらえるかなって」
「どうだった?」
「うん。まあ」
「解決しそうなのか?」
「いや。それは分からない」
「そっか。大変だな……」
校舎の外に出ると、雨が上がっていた。空は相変わらず雲がかかっているが、久しぶりに晴れたのだ。
「久々に自転車で帰るか」
「そうだな」
僕たちは久々に自転車に跨がり、駅へと続く田んぼ道を二人並びまっすぐに走った。
「帰りにフェザン寄っていい?」
ノリが前を見ながら話してくる。
「あぁ。良いよ。紫波さんのCD?」
「いや、新発売はない」
「どうした?」
「大地、明日誕生日でしょ?」
「あぁ、そうだけど?」
僕の誕生日は明日六月三十日だ。あと一日遅く生まれていたら夏生まれだったのに、といつも思う。
「なんか買ってやるよ!」
「え、まじ?」
「あぁ、なんでも好きなの買いな!」
ノリは並んで走る僕の方を、ぽんぽんと叩く。
「まじ? いいの?」
「おぉ!」
「じゃあ、新しいスマホ買ってもらおうかな」
「おいっ! 高いぞ! 空気読め!」
ノリはグイッと肩を押した。僕はよろける。
「うわっ、危ねぇよ!」
やり返そうとノリの肩へ手を伸ばしたところ、ノリはそれをヒョイとよけ、急に立ち漕ぎをしてスイスイと走って行った。
「はえー!」
急に始まったレース。盛岡駅へと伸びる東北本線の線路脇を僕らは猛スピードで走っていく。
ノリは手加減なしに思いっきり走る。僕もノリに追いつこうと立ち漕ぎをしてスピードを上げる。
高架の上からゴーっと新幹線が通過する音が聞こえてきた。新幹線に願い事をするなら何を願うだろう。見えない新幹線を想像しながら駅まで走った。
フェザンに行くとCDショップが閉店セールをやっていた。
「本当に閉店しちゃうんだなー」
「だな」
「俺、結構使ってたんだけどな。悲しいなあ」
ノリは天井に吊るされた「盛岡生まれのシンガーソングライター紫波真紀さん応援コーナー!」と書かれた手作りポップを見ながら、感慨深く呟いた。
僕は30パーセントオフになっていた洋楽のアルバムをノリに買ってもらった。
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