第29話 幻影、射干の花
集中力をフルに使い、歓声を耳に入れながら僕は腰に手を当て天空に向かってその銀の煌めきを輝かせた。
小刀使いとも呼ばれる、終盤へのカウントダウンだ。
何度指先を小刀で切ったことだろう。
霜焼けのようにひりひりと痛くてしょうがなったのは今や昔、僕は舞うにつれ、強烈な光を見たような気がした。
右手から左手に小刀の背中を逆手に握り、十文字に胸の上方で振りかざした。
身体にぴったりと冷酷な刃先がつくか、つかないかまで背中をカーブさせ、腰を低くする。
その二本の小刀の背中を両手で持ったまま、さらに激しくでんぐり返しを四方へとくるくると一回転した。
その光は徐々に鮮明な思い出の灯となった。
どこか遠くで幻影の村を見たような気がした。
銀鏡神社の鳥居の前でひとりの少女が立ちすくんでいる。
境内の丘には射干(シャガ)の花が咲き誇っていた。
少女の下腹部はぽっこりとそこだけ不自然に膨らんでいた。
まだ子どもの面影を残した少女は手を押さえて声を押し殺しながらかすかに泣いていた。
少女はさめざめと泣くのを堪え、万朶の桜も散った透明な葉桜の下、じっと唇を噛んでいる。
その胎児を宿らせた盗人はどこへ消えたか。
鳥居に消えた宿主はどこで呑気に暮らしているのか。
いや、井戸の底にその隠された秘密は蓋をしておけばいい。
少女はハッと我に返ったかのように視線に気づいたのか、動揺を隠せずにおろおろしていた。
幻影は冴え渡るように消えていく。
生気のない少女の瞳の奥から否定もしたくない憎しみの色に染まった。
とはいってもその憎しみの色はどこまでも染み入った彼岸花のようだった。
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