第27話 星冴ゆる


 夜になれば僕は夜の住人になる。


 この日のために多くの時間を神楽習いに割いていった。


 最初は鳴らなかった篠笛も今では見違えるように吹けるようになった。


 


 僕が舞う一人剣は式十八番だ。


 篠笛の甲高く響く音が一瞬にしてやむと張り詰めた空気がさらに引き締まった。


 櫓に焚かれた梔子色の炎でさえも聞こえてくるような気がした。


 多くの訪問客が帰り始める深夜の刻、いよいよ一人剣の舞が始まろうとしていた。


 待機室である内殿(うちでん)で僕は入念に白衣と白袴を身に纏い、頭にツマドリと呼ばれる御幣の飾りをつけた。


 


黒脚絆と白足袋はとうに身につけてある。


 腰には赤襷と脇には脇差と呼ばれる小刀を差した。


 伯父さんからついに神楽鈴と扇子を渡され、僕は渡り廊下を通って外神屋(そとこうや)に向かった。


 


 心臓の鼓動は思いのほか、静かだった。


 緊張していないはずがない。


 


 ここでしくじったらせっかくの神楽も台無しになる。


 そんな不安がなかったわけではない。


 観衆の談笑や屋台での掛け合いも瞬時に消え去った。


 お囃子の音が一段と甲高く力強く鳴り響いた。


 息を整え、外神屋(そとこうや)に足を踏み入れた。


 観客席から喝采が鳴り響く。


 普段なら夢の中の深夜でもこの日ばかりは目が冴える。


 冬の闇夜、櫓と戯れる炎の色と観客の息を呑むような音、喧騒が沈んだ眼差しがはっきりと手に取るように伝わった。


 双眸を大きく見開くと一端はお囃子の音が止まった。


 

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