第24話 雷光


 心の中で唱えながら全神経を集中させ、肩から締めた赤襷をくるくると旋回しながら絡まらないように外すとその赤襷を天に向かって上下に動かす。


 まるで龍が雷光に向かって天涯まで伸びるようにただひたすらまっすぐに肩の力を目一杯こめる。


 僕は息を吸うのも忘れて赤襷を動かした。


 それを終えると次はその赤襷をお囃子の律動とともに激しい舞をしながら結び直し、でんぐり返しを始めた。大丈夫だ、このままやれると油断していたとき、お囃子の音がピタリと糸が切れたようにやんだ。


 しまった、失敗した、と思い、思わず身をすくめると表情を一切変えていない伯父さんが腕を組み、手を叩いた。


「これじゃ、本番までに力を尽きてしまう。今夜はこれでいい」


 意外な返答に僕は戸惑いを覚えずにはいられなかった。


 伯父さんの助言は的確だった。


 僕は思わず手の甲で汗を拭った。


 こんなに汗も気が付かないうちにかいていたんだ。


 神楽習いが終わると和やかな空気が訪れた。


 僕が部屋の隅で水筒のお茶を飲んでいると穏やかな表情で伯父さんが声をかけてきた。



「本番まであとひと月だな。辰一君も最初の頃からするとウンと上手くなった。感心するよ」


 あんなに飲んでいたのに水筒のお茶をまだちびちびと飲んでいた。


「いるか? お茶?」


 伯父さんが新しいペットボトルのお茶を渡した。緊張がほぐれたあまりか、僕はペットボトルのキャップを外して勢いよく口をつけ、半分まで飲み干した。



「そんなに緊張しなくてもいいよ。辰一君、君ならできるさ」


 伯父さんのお世辞ではない心底からの激励は渇いた身体にも染みるものだった。


「千夏は元気しているか?」


 伯父さんのその人の名前、そして、妹の名前を告げた。


「母はいつも不機嫌なんです。常に」


 

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