第23話 椛山


 伯父さんに初めての一人剣の舞を見せてもらったときの、達成感は一生のうちに何度も味わえないものだろう。 


 この半年ばかりの間、一日も神楽習いを休んだ日はなかった。


 神楽が始まるひと月も前に本番さながらに白装束を身に纏い、黒脚絆を履き、本物の小刀を持って舞を始めた。  


 銀鏡では極彩色の紅葉が到来し、銀杏の木も大きく黄金色の葉を勢いよく空に伸ばしていた。


 本番通りの装束を身に纏ったとき、その荘厳さに呑まれていくような気がした。


 


 伯父さんから似合っている、と最大限の褒め言葉をもらったとき、まだまだ僕は青二才じゃないか、と思う自分もいたけれどもそんな脆弱な度胸じゃ、神楽の成功は遠のくんだ、と活き込んだ。


 鏡に映ったのはまだまだ未熟な舞い手の少年で正面を不安げに見下ろしていた。


 


 その挙動不審な顔つきならまだGOサインはでない。


 僕は僕を鼓舞して立ち向かうんだ。


 伯父さんから、さあ、始めようか、と駆け足の合図が出されると僕は深呼吸をして定位置に立った。


 節穴に手が宿されるとお囃子の音色が館内に鳴り響いた。


 舞の順序は頭の隅々まで叩き込んでいる。


 


 伯父さんの若い頃に舞った一人剣の舞の映像もこの瞼の裏に深く焼きつけてある。


 いざ、始まると不安は一気に吹き飛んだ。


 思考よりも身体がすぐに動くという方が適格だったかもしれない。


 何かが抱え込んだかのように手や足は動き出すし、汗だって早々は出さなかった。


 


 一心不乱に舞え、舞い狂え。


 時空に向かって飛び立て。


 闇を掴んで空を切り裂け。


 

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