第18話 秋の足音
しょうもないやつだ、お前は。
いくらうちが複雑な家庭内事情を抱えているからと言って、そんな他愛もない妄執に苛まれるとは暇だ、とさえ思う。
違うんだ。
冷酷無比な現状から逃避したいだけなんだ。
いつの間にか、世間が引いたレールから転がり落ちていた。
僕は唇を思わず噛みそうになった。
彼岸花はそよ風に揺れ、秋の足音を踏んでいる。
姫と出会ったのは彼岸花も盛りを迎えた、凍てつくような月夜だった。
その日の晩、その人と僕は諍いが勃発した。
きっかけは些細だった。
スクーリングに行く日程を決めようとカレンダーを見たとき、いつもなら伯父さんが連れて行ってくれるのだが、予定日のその日に限って伯父さんは村の重要な会合があり、休みが取れなかった。
仕方なくその人に頼んでみたら、その人は稲光が荒野を駆け巡るかのように怒号をぶつけた。
何で私があんたの進路に口を挟まないといけないのよ、といつも通りの笑うに笑えないジョークを吐き捨てた。
この人は僕の母親という人だ。
母親ならば多少なりとも人格者らしく振る舞うものだ。
そんな淡い期待を持っていたのがそもそも無駄だった。
母さんはどうして、僕が学校に行くのをそんなに嫌がるんだよ、と吐き捨てるように言うとその人は、私だってろくに行けなかったのに何であんただけ、とお決まりの泣きべそで攻撃した。
前の僕ならばそのまま喧嘩を続行し、下手すると朝焼けが滲むまで罵り続けていたに違いなかったが、そのときは悪罵を叫び続ける気力も意味合いもなかった。
ごめん、僕が頼んで、と終礼を告げ、そのまま震えを抑え込むように家を飛び出した。
あのまま家の中にいても険悪な空気を吸うだけだろう。
ひょっとするとその人の胸倉を掴んで思い切り殴ってしまうかもしれない。
それだけは何としてでも避けたかった。
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