第15話 涼風、星月夜秘話


震えは何とか止まった。


頬が赤くならないか、気になったけれどもこんな闇の中ではその顔色も伺い知れない。


ふたりで境内の奥まで歩いた。


その間に会話はなかった。


その一言二言でもう、十分だった。


境内の奥は竹林になっている。


ひょっとすると竹林に山螢は生息していないのかもしれない。



暗闇からは彼女の表情を垣間見ることはできない。


星明りでもうっすらと大きな瞳や鼻梁、唇は見える。


鎮守の森の空の隙間から縷々とした天の川が見えた。



純白の絹であしらわれたガウンのように天の川はさらに純白さを増している。


気だるさを催した小夜風がじんわりと山際から里の村へと降りてくる。


葉擦れが砂利道に靴と当たる音と木霊し、涼風も呼応する。


汗がぴったりと背中に食い込んでいたのにもう、乾いていた。


ふたりの吐息だけがこの世界を包み込んだ。



「山螢いないね」


 螢ちゃんのちょっと残念そうな声が聞こえた。


「山螢はいないけれども僕らはここにいるよ」


 小夜風が背中を押した。


 触れた風の手触りがまるで星を包むようだった。



「天の川もあんなに綺麗だから」


静寂は揺らぎやしない。


自然と背中はまっすぐに伸びていった。


その静寂に何の意味があるのだろう。


僕は唐突に考える。


 ここにいるだけでも偶然ではなくて必然なのか、と。


 良かったんだ、こうしてふたりで夜のお話ができただけでも、もどかしく考える必要は毛頭ない。


 

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