第12話 星空の下、心を鬼にして
例えば、盗掘に遭い、一切の金銀財宝を奪われた太古のギリシャの神殿やひび割れた鼎を祀り、生贄を捧げる殷の墓所、天空に浮かぶ、異邦人によって滅ぼされたインカ帝国の遺跡などを思わせる。
人生の旅路を塞ぐ軛のように気を揉むときもある。
今宵は星空の下で舞ってみよう。
己を鬼にして舞い狂え。
伯父さんには内緒で銀鏡神社にやって来た。
いつか夜に神楽習いをやってみたかったから。
理由はただそれだけだった。
空には雄大な天の川が流れ、星の矢のような流れ星が幾度もなく地上に向かって落ちては消え、落ちては消えていった。
まるで地上から懐中電灯を天井に向かって照らすように浮かび上がる。
天の川は地球と宇宙を繋ぐための通行手形だった。
星は見上げないと闇を感じられない。
ああ、闇の音色だ。
心を揺さぶる闇へ渡る一艘の舟だ。
その舟に乗ってこの天の川を、宇宙の灯火を、闇の華を見上げている。
この場で天空を操れる懐中電灯を持って自在に照らせたらどんなにいいだろう。
もし、可能ならば、僕の願いは叶わなくていい、僕は一番会いたいその人の一番の願い事を叶えてあげたい。
夜の境内は誰もいなかった。
かすかに森の奥から昼間を名残惜しむ蜩の声が聞こえたような気がしたけれども耳をよく澄ませば、風の羽が宙を切り裂く音しか聞こえなかった。
まだ蟋蟀や鈴虫の声は聞こえない。
昼間の熱さはまだ神隠しにはあっていないようだった。
鳥居をくぐり、石製の階段を登ってからまずは参拝をした。
足を上げろ、手を十字に切り上げろ、その腰ではまだ大きく曲がっている。
もっと足を大きく揺らすんだ。
それじゃ、全然迫力が足りない。
目標の遥か山頂を大きく描く。
もっとうまく舞えるはずだ。
汗が背中のすれすれまで噴き出してきた。
額にも水滴が落ちる。
少ししか時間は経っていないのにこんなにも疲れるんだな、と僕は改めて実感した。
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