第10話 天孫降臨神話
伯父さんから聞いた昔々の夢物語。
――その太古の昔、銀鏡の山々に連なる米良の山々には大山津見神がいらっしゃり、ふたりの娘がおられた。ひとりは石長比売ともうひとりは桜のように見目麗しい木花之佐久夜昆売である。
ふたりの姉妹は仲良く暮らされていた。
ある日、ひとりの若人がお見えになった。
若人の名はと邇邇芸命いい、木花之佐久夜昆売に求婚された。
求婚を一度は考えた木花之佐久夜昆売は父の大山津見神に相談された。
大山津見神はこの婚儀を喜んで受け入れなされ、すぐさま姉の石長比売とともにふたりの娘を差し出された。
邇邇芸命は姉の石長比売の醜い顔をご覧になるなり、ひどく驚かれ、石長比売だけを返されてしまった。
後日、大山津見神は困惑され、ふたりの娘を差し出された理由を述べられた。
――ふたりの姉妹の姫を娶られれば、岩のように長く全うされることができたでしょうが、送り返した今となっては御子のお命は花のように儚いものとなりましょう、と。
人間に寿命が生まれたのもこの件があったためだと言われているんだよ、と前に伯父さんが教えてくれた。
石長比売は晩年、蛇淵という底が深く、深く不吉な翡翠色に満たされた淵に入水され、亡くなられたのだとか。
水の中に身を沈めながら考える。
緑青の真水で満たされ、底知れぬ深さがある。
手や足は地面には一切つかない。
地上で息を絶えるよりも水の清らかさの中、腐臭も与えることなく、藻屑となって消え去る。
いや、水の中でも腐臭はするか。
金魚鉢にこびりついた汚濁のように鼻の先についてしまうだろう。
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