第4話 足さばき、所作
銀鏡神楽での足さばきとは腰を屈め、鈴を振りながら舞をする基本所作だ。
基本所作である舞上がり、舞下がり、つり足、はいようの四つがあり、どれも右足と左足を巧みに操り、前へ後ろへと続く。
一見すると簡単のように見えるけれども長時間やり続けると腰にこたえる。
基本でありながらもなかなか難しい。
「何事にも基本が大事だ。花の舞のときを思い出してごらん。何度でも足さばきを繰り返すんだ」
その日はずっと足さばきばかりで新しい所作を教えてもらうと期待していた僕にとっては気が重かった。
態度には見せないようにしていたけれども、それも伯父さんには悟られていたようで、伯父さんに何度も注意される。
小中学生もいる前でたしなめられると年長者としてはあまり気分のいいものではなかった。
お前が基本を蔑ろにするからこんな状況になっているんだ。
脳裏の中で幾度もなく繰り返す。
基本とは言うものの、どこが間違っているんだろうか。
渋ってはならないし、不平不満を言ってもしょうがない。
十二月十四日の神楽の日まで間に合うのか、完成させる自信がない。
何度も神楽鈴を振って腰を屈めながら思った。
家に帰っても暇さえあれば畳の上で足さばきをする。
昼間は山に行って草を刈ったり、苗木を植えたり、立枝を剪定したりした。
早めに仕事が終わったら課題を解いて締め切りまでに郵便局に行って届ける。
月に一度には伯父さんの車でスクーリング会場まで連れて行ってもらって面接を受ける。
ネットで授業を受ける日もあったけれども基本はひとりで勉強をやらなくちゃいけない。
他の同級生と比べて羨ましく思うこともないと言ったら嘘だった。
僕も人並みに高校生活は送りたかったし、部活動にも今でも憧れはある。
毎日が仕事だらけじゃ、張り合いもない。
話す相手が伯父さんだけの日もある。
ずっとこんな生活が続くんだろうか。
いいんだ、この時代からドロップアウトしてしまっても。
負け犬には負け犬の道義というものがある。
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