変態復活

「二日目は何の襲撃もなかったね~」

「そうですね。えへへへへへ」


 ライアから事前にピジョンに聞いておいてほしいとメモされたものを聞き終えたイン。

 後はライアに使える魔法のエフェクトを見せてもらったりと、仲良く過ごし、気づけば別れの時間となっていた。

 手を振って別れた時もライアは満面の笑みを浮かべていた。

 今日一日過ごしたインの感想としては、ライアが怪しいとは感じなかった。

 何か裏があると思いたくないのもある。

 だがもしあの満面の笑みが演技であるなら、女優顔負けもいいところだ。

 そうインは幸せそうな表情でよだれを垂らし、復活したアンを胸に抱き上げる。

 さらにミミの触手で足と体をグルグル巻きにされ、持ち上げられた状態でピジョンに返事を返す。

 その明らかはたから見れば、触手落ちしている姿にピジョンも突っ込まずにはいられないようだ。


「あの~~~~、インちゃん? そのワームはいったい?」

「この子はですね! 新しくテイムしたワームのミミちゃんです! ミミズだからミミちゃん! ほらミミちゃん。あいさつしよ! えへへへへへへへへへへへ」


 一メートルくらいにまで縮んだミミに、目にハートを移して息遣い粗く頬ずりをするエルフの少女、イン。

 その光景は、どうみても危ない人そのものである。

 ピジョンは三歩くらい後ろに下がり壁に背中をやる。

 そんなピジョンへとミミの触手がゆっくりと、それでいて確実に伸び、目の前でピタッと止まる。


「うわっ!」

「あっピジョンさん。それはよろしくと握手をしようとしているんです! お兄ちゃんから私のようなじゃれ合いはやめろとしつこく言われてて、この挨拶方法は私しかやってないんですよ!」

「あっそう。はい、よろしく~?」


 インと同じようにグルグル巻きにされるのではないかと危惧していたピジョンからすれば、少しあっけない落ちである。

 それと同時に、心の中で深くハルトに感謝を述べてミミの柔らかい触手を掴むのであった。

 インの新しい仲間、ワームのミミに驚かされつつも気を取り直したピジョン。

 ワームのインパクトが強すぎたが、インの胸に抱いているアンが王女アリになっているのに気づくとさらに驚いた表情を見せる。


「インちゃん。うん、楽しんでるね~。まさか王女アリをテイムしているなんてね」

「はい! おかげさまで!」

「にゃはは。じゃ、本題に入ろうか。魔法少女から聞けたいことは聞けたかな?」

「だいたいは聞けましたけど……、ではまず外にある壁についてです」


 この町には侵略者から身を守るために、でかでかと百メートルはありそうな存在感のある壁が立ち並んでいる。

 インも確かにライアからそう聞いた。

 これは絶対に無くてはならないもので、あるからこそ住民たちが安心して暮らしていけると。

 しかし侵略者は壁がある方どころか、むしろ空から訪れてきている。

 これで壁なんて必要あるだろうか。

 もし侵略者のあれが、特別空から攻めてくるタイプであるならまだわかる。

 それならば普段は壁がちゃんとした機能を発揮しているのだから。

 しかしその場合、何故空は一切の対策を成されていないのか。

 ライアの戦いを多くのプレイヤーが見たはずだ。

 あんな魔力砲が撃てるなら、魔力障壁くらい発動できてもおかしくはない。

 服の効果を確認しているインとピジョンだからこそ、余計にそう判断する。

 となれば別の要因。


「例えば、あの壁は住民を逃がさない為の檻。そう考えればいろいろと合点がいくね」

「合点というと?」

「宇宙恐怖症で、インちゃんに抱き着いたっていう老婆だよ」


 本当に宇宙恐怖症末期患者の人に襲われて助けを求めるなら、インではなく前から町を守っていたライアに抱き着くはずだ。

 なのに老婆は見知らぬ、少女のインに抱き着いた。

 まさかインが、あのライアよりも圧倒的に強そうに感じたなどとは思えまい。

 そして助けてくださいと言ったあの言葉。

 もしもあの言葉がライアではなく、インに向けられたものとしたら。

 壁や様々な言語。

 恐怖症という架空の病気に侵略者側の不自然な戦い方。

 最後に貰った魔法少女服。

 これらを考えれば、いやでも答えが導き出される。


「魔法少女の方が、実は侵略者?」


 ピジョンの出した答え。ライアの方が侵略者。

 確かにそう考えれば納得がいく。

 様々な言語を話すのは他の星から攫ってきた為。

 壁は逃がさない為。

 恐怖症はライアに向けられたもので、末期症状は恐らく不衛生なところにいきなり閉じ込められたから精神がおかしくなった為。

 侵略者側のプレイヤーが知らないのは、侵略者の言葉では何を言っているのか分からないから。


 そして貰った魔法少女服がイベント最中規格外の効果を発揮するのは……。


「どうしたんですか?」

「……いや、にゃんでもないよ」


 ピジョンはそこで口を閉ざし、怯えるかのような瞳を向けてくる。

 インの知らない、ピジョンの悪い癖である。

 いつもこうであった。

 いつも疑り深い性格のせいで、友達の悪い顔や、その友達の悪い側面が見えてしまうと勘ぐってしまう。

 そうして突き詰めたり、怪しいから気を付けた方が良いと友達に助言を送ると、必ず気味悪がられたり、逆に利用している等々言われ、最後に縁を切られてきた。

 この展開、もう何度見て来たか分からない。

 魔法少女の方が侵略者と答えを出している時点で時すでに遅いかも知れない。

 面白そうだからと、どんなアビリティが手に入るのかとプレイヤーキルをやっていた時代もあった。

 特に友達が欲しいと思ったことはない。

 検証に邪魔だと感じた事もある。

 それでもできたたった一人のフレンドだという事実が、ピジョンの決意を鈍らせる。


 言って良いものか、悪いものなのか。


 ピジョンの心に陰りが顔を覗かせる。

 手が少し震え、変な冷や汗も出てくる。

 すべてを飲み込み、ピジョンが言葉を出そうとした瞬間、


「大丈夫です。ピジョンさん」


 暖かな感触に身を包まれた。

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