変態の行動
「インちゃん?」
「大丈夫ですかピジョンさん? ごめんなさい。急に抱き着いたりして」
ピジョンの背中に腕を回し、ミミに放してもらったインはいつも兄がやるように優しく背中を叩いてやる。
「いやそれはいいんだけどね。なんで急に抱き着いたのかにゃ~て」
「ピジョンさんが震えていたので、話したくないことでもあるのかなぁと」
ピジョンの心臓がどきりと波打つ。
普段は隠している感情に、気づかれたのかと。
割り切っていたつもりなのに、自分はここまで脆かったのかと。
本当に言っていいものか。
ピジョンは軽いジャブ程度に確認する。
「それは……ねぇインちゃん。私が憶測を語っても怒らない?」
「怒りませんよ。ピジョンさんは、魔物のえさやSPの振り方で助けてくれたから」
インからすれば、彼女はゲームの恩人だ。
ファイからは虫縛りは止めろだの、使えないだの、違う魔物にした方が良いと言われ続けた。
マーロンからは虫がいる場所を教えてもらい場所も貸してもらっているが、最初アンが王女アリになった時に持ち込まないでと言われている。
現時点で彼女の行動を肯定的に受け取ってくれているのは、ハルトとピジョンだけなのだ。
それどころかピジョンは、アンやミミがこの場にいても特に怒らず、アンに至っては頭を撫でてもらっていたりもする。
『調合』アビリティに関してだってそうだ。
虫しかテイムしないと、分かったうえで『調合』アビリティで魔物のえさを作れると教えてくれた。
金欠に陥っていた自分の背中を、押し出してくれた。
そんなピジョンに何かを言われて、今更怒るだろうか。
世間では悪く言われていたとしても、インからすれば恩人である。
「ピジョンさんは良い人じゃないですか! なんで怒らなきゃいけないんですか?」
数秒の空白。
ピジョンはインの肩を押し出し、指で丸を作り笑顔になる。
「じゃあ情報屋らしく、ここからの情報は対価を払ってもらわないとね~」
「その、対価は何ですか?」
「その対価はね。あの魔法少女と同じ。私に敬語を使わないことだよ。毎度毎度自分よりも数十センチ小さい女の子に敬語を使わせるのはむずがゆくてね。だからほらっ、敬語をこれから使わない事が対価」
嘘だ。
本当はお互い敬語を使わない関係の方が、ピジョンとしては気楽なだけだ。
だから年上であろうとピジョンはあまり使わない。
決して、自分を曲げようとすることもない。
「えっと……その、ピジョン、ちゃん?」
「うんうん。何かなインちゃん」
「えっとその、落ち着いた?」
「にゃはは、落ち着いた落ち着いた。じゃ、こっちも情報を話そうかにゃ~。でもその前にいい?」
「なに?」
ニッコリと笑顔で聞き返すイン。
そんな彼女に、ピジョンはずっと気になっていたことを告げる。
「その、ミミちゃんのヌルヌルが気持ち悪い」
インがピジョンに抱き着く前、ずっと初期の布装備のままミミの触手攻めにあっていたのだ。
だから抱き着いた時、そのままミミの触手から出ていたヌルヌルも譲渡するような形になって、ピジョンの服にも移っていた。
そしてその感想に、インはこう答えた。
「えっ、なんて?」
と。
聞き返してはいるが、ちゃんとインの耳にはその言葉が届いている。
だからだろうか。ピジョンの目には、インの笑顔に若干暗みが混じっている気がするのは。
ギュッと思いっきり引き寄せられ、再び抱き着く姿勢になったのは。
やはりインの虫好きの異常さを読むのは、同じ変態でもない限りは不可能だ。
それと同時にピジョンはインを見て気づかされる。
現在進行形で女性に嫌われるプレイをしているインの前で、なんてくだらない事で悩んでいただろうと。
見下しているようなのはよく分かっているのだが、自分を受け入れてくれるかもしれないと考えると、ピジョンの方からもインの体に自分の体を強く合わせる。
「ピジョンちゃん?」
「しばらくこうさせてほしいかな」
自分の悪い癖をいくらでも許容してくれそうな変態で友達になったイン。
そんな暖かく小さいインに、埋もれるピジョンの背中を、虫好きの変態は再び擦ってやるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます